表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

23/48

第23話 最初で最後のS

 谷欠(たにがき)市のシンボル。谷欠ダイナマイトタワー。駅前にそびえ立つ高層展望台だ。その地下にある谷欠大空洞は、かつて原始時代に谷欠原人と呼ばれる原始人が住んでいた名残と言われている。


 谷欠市の公式マスコットキャラクター、ムナ原人くんはそんな谷欠原人をモチーフにしたキャラクターで、谷欠市が合併誕生した際に市内の小中学生からアイデアを公募して生まれたそうな。


 原始人の骨が発掘された大空洞は、以前は観光地として一般開放されていたものの、現在は老朽化に伴う崩落の危険性があるため補強工事を行うべく立ち入り禁止区域に指定されている。


 そんな谷欠大空洞こそが、最終決戦のフィールド。今宵遂に、体感すげー長かったスーパーサムライソード争奪戦にケリがつく。


「ようこそお集まりくださいました。スーパーサムライソード争奪戦参加者の皆様」


「竜崎ディノ! 貴様! 一体何を企んでいる!」


「それをこれから皆様に御説明させて頂きたく。総員お揃いになられるまでしばしお待ちを」


 最初にやってきたのは木霊ノゾムだった。彼に招待状を出すのは実に容易い。


 表向き民間企業として存在している木霊財団の公式ホームページにあるメールフォームから名指しでメールを送るだけ。


 ちなみにラブ怪人暴走事件はなかったことになったため、俺と彼が直接会うのは今回が初めて、ということになっている。


「来たぞ! 竜崎ディノ!」


「貴様! 一体何を企んでいる!」


「お前さんは一体何者なんじゃあ!」


 次に到着したのは斬月ムサシロウ、葉隠ナデシコ、番長、そして天雅リンの主人公パーティだ。彼らには博士の秘密研究所経由で招待状を渡してもらった。すべてを終わらせる時! と。


「やあ、僕らが一番最後かな? 主役は遅れてやってくる、なんて言うけれど、この場の主役は君だ。竜崎ディノくん」


「お前は正直すげー呼びたくなかった。正直何されるかわからんし。でも呼ばないと終わりが始まらないからさ」


「あはは。そんな冷たいことを言わないでくれ。仲間ハズレにされるのはとても寂しいものだよ」


「言われるまでもないさ」


 何せこの世界で一番仲間ハズレの異物は異世界転生者俺だからな。


「役者は揃ったようだな。では、フィナーレと行こうか」


「博士!?」


「貴様! 何故ここに!」


 夢野メシヤの背後からヒョッコリ現れたのは、一連の事件を引き起こした元凶であるプロフェサー・Gことモンテスキュー・クリス博士。


 てっきり研究所で留守番しているとばかり思っていた予想外の人物の登場に、斬月ムサシロウたちが目を丸くする。


「改めて自己紹介しようか。私は世界一の天才科学者。浪漫を夢見る天才探究者。モンテスキュー・クリス博士こと本名・門出(かどで)クリス。またの名を、プロフェサー・G」


「バカな!? 貴様がプロフェサー・Gだと!?」


「知ってるの!? 木霊くん!」


「プロフェサー・Gは運び屋を雇ってスーパーサムライソードをこの国に持ち込み、欲望の悪鬼ゴルディオニを復活させようと企んだ黒幕! 言わばすべての元凶だ!」


「な、なんだって!?」


「本当なのか博士!」


「それは違う。私はあくまで海外のアンダーグラウンドなオークションで落札した美術品を個人の趣味で輸入しただけ。運び屋を襲い刀を街にばら撒いたのは君たち木霊財団の人間だろう。正義の味方気取りで他人の所有物を横取りしようとした結果、この街に大惨事を招いたのは君たちの落ち度だ。私のせいにされては困る」


「なんだと!?」


「世界の平和を守る、なんてご立派なお題目を掲げてはいるが、木霊財団の正体は正義の味方気取りの傲慢な泥棒集団にすぎない。私が買うダメで自分たちが盗むのはいい。そんな身勝手な理屈が罷り通るものか」


「貴様! 言わせておけば!」


「ならば何故穏便に買取交渉から始めなかった? 私を一方的に悪であるに違いないと決め付け、運び屋を悪の手先であるかのように襲撃し、問答無用で彼の荷物を強奪しようとした。あまりにも傲慢すぎやしないか?」


「戯言を!」


「詭弁を」


「博士! 一体どういうことなの!? 僕たちにもきちんと説明してよ!」


「いいだろう。種明かしといこうじゃないか」


『サムライバル! Gold!』


「それは!?」


変刃(サムライブ)!」


『オープン・ザ・スーパーサムライソード! ゴォールド!』


 正体を明かし、サムライバー望月に変刃した博士の口から今明かされる衝撃の真実ゥ! は説明台詞が長いので割愛。


 要するに彼女は欲望の悪鬼ゴルディオニの魂が26本の刀に分割封印されているのを承知の上で、本当にそんなものが実在するのなら直接会って確かめてみたかった。


 そのために刀を闇オクで落札して妖怪復活のための邪悪な儀式を行うことにしたのだが、木霊財団に邪魔されてそれができなかったので、街に散らばった刀を斬月ムサシロウたちを使って集めさせようとした。


「以上。説明終わり。御清聴に感謝する」


「そんな!? それじゃあ本当に博士が悪の黒幕じゃないか!」


「待て! それよりもだ! 貴様の言葉を信じるならば、すべての刀を集めたらどんな願いも叶う、というのは」


「真っ赤な嘘だったっちゅうことか!?」


「そうなるね。君たちは、いや俺たち全員が、まんまと騙されてたってわけだ」


「そんなの酷いです!」


 天雅リンの悲痛な叫びが地下大空洞に木霊する。死んだ家族が生き返ることはない、と宣告され、絶望する葉隠ナデシコと番長。信頼していた博士のまさかの裏切りに呆然とする斬月ムサシロウ。


 そんな彼らの前でも相変わらず無駄にニコニコしている夢野。まさに原作の名場面と同じだ! と地味に感動する俺。


「……待て! ということは! 不味い! 君たち、すぐにここから出るんだ!」


「今更気付いたところでもう遅い。26本のスーパーサムライソードがすべて集まった。今この場に」


「竜崎ディノに招待状を出させたのはそのためか! く!? やってくれる!」


「なんなんですか!? 一体何が起きてるんですか!?」


「うわあ!?」


 俺たちの心臓と融合していた刀が共鳴し、それぞれの左胸から勢いよく飛び出した。空中に浮かんだ26本の刀が、高速回転しながら虹色の光輪を描く。


『Ace!』


『Butterfly!』


『Critical!』


『Dream!』


『Engagement!』


『Fumble!』 


『Gold!』


『Hunter!』


『Inferno!』


『Joker!』


『Knight!』


『Love!』


『Mindcontrol!』


『Nightmare!』


『Ox!』


『Pierrot!』


『Question!』


『Revolution!』


『Star!』


『Tempest!』


『Unite!』


『Voltage!』


『Wild!』


『t-reX!』


『todaY!』


『ZZZ!』


 やがてすべての刀の内側から飛び出してきた欲望の悪鬼ゴルディオニの魂の欠片がひとつとなり、それはやがて不気味な巨人のシルエットを描いた。


「欲望の悪鬼ゴルディオニが……復活する!」


「素晴らしい。実に興味深い光景だ」


「貴様あ!」


 ちなみに唐突に現れた『S』の刀は一体どこから来たのか。諸君は覚えているだろうか。サムライバー斬月のあらすじを。


――


 『A』の刀に偶然選ばれてしまった男子高校生・斬月(ざんげつ)ムサシロウと『J』の刀を持つ謎の女子高生・葉隠(はがくれ)ナデシコ。ふたりの運命的な出会いから始まるボーイミーツガールは週刊誌で全31巻に渡り連載された。


――


 原作第1話終盤。瀕死の女子高生ヒロイン・葉隠ナデシコを救うため、塾帰りに偶然巻き込まれただけの一般人である平凡な男子高校生・斬月ムサシロウは『Ace』のスーパーサムライソードと契約し、サムライバー斬月となる。


――


「さて、君たちが集めた刀は何本だ?」


「えっと、1本だね」


「私は……私もまだ1本だ」


――


 そう、『Star』のスーパーサムライソードは第1話で主人公の斬月ムサシロウが手に入れていたのだ。塾帰りの彼は偶然夜道で始まったサムライバー三日月とサムライバー星月の戦いに巻き込まれてしまう。


『な!? 何故ここに一般人がいる!?』


『隙あり!』


『不味い! そこの君! 逃げろ!』


『うわあああ!?』


 自分を守ろうとして敵に斬られ、意識不明の重体となり変刃が解除されてしまった葉隠ナデシコを助けるため、斬月ムサシロウは運命的に目の前に降ってきた赤き『A』の刀と契約を結ぶ。


 そしてわけもわからぬままサムライバー星月を撃破し、刀の呪いで傷は修復されたものの気絶した彼女を担いで自宅に連れ帰り、看病したのだ。


『よくわかんないけど、これが必要なんだろ? だったら君にあげるよ』


『何故だ。何故初対面の私のためにそこまでするのだ君は』


『だって、君が助けてくれなきゃ僕は昨夜あいつに殺されていた。それに、君が泣いていたから』


『なんだと? 私が泣いていた?』


『昨夜看病している時に、泣きながら家族を呼んでうなされていたよ。君にも何か事情があるんだろう? だったら、今度は僕が君を助ける番だ』


 そう言って彼はSの刀を彼女に渡す。以来彼女はずっと目の前のお人よしの少年を信じるべきか否か葛藤しながら、お守り代わりに『願い星』の刀を大事に持ち歩いていたのだ。


 実に感動的な馴れ初めだよな。原作のエモを摂取して感動もしたところで、いよいよ最終決戦行ってみようか。さあ、運命の時だ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ