第21話 Q.Mはどこ?
残るスーパーサムライソードは4本。洗脳の『Mindcontrol』。謎の『Question』。それから意外な『S』と厄介な『W』。
「母親連続失踪事件と児童連続誘拐事件。どちらも早めに食い止めておきたかったんだがな」
母親連続失踪事件は、理想のママを求めるマザコン男が『Mindcontrol』の刀で引き起こす胸糞事件だ。
気に入ったよその美人ママを自分のママに洗脳して自宅に拉致してしまい、自宅で大勢の美人ママハーレムに囲まれて大興奮するニートの話。
母親が変態野郎に洗脳され連れ去られる、という展開は子供の読者にとっては恐怖だろう。大人にとっては同人誌みてーな話だが。
児童連続誘拐事件は、理想の幼女を求めるロリコン男が『Question』の力で相手にクイズを出し、それに正解できなかった子供を人形にして連れ去ってしまう胸糞事件。
自分好みの可愛い幼女を片っ端から動けないのに意思はある生き人形に変えてしまい、自宅でお人形さん遊びに興じるというこれまた同人誌みてーな話。
部屋一面に大量に陳列された幼女フィギュアが見開きで描かれ、可愛らしい人形たちが笑顔のまま一斉に悲鳴や泣き声をあげるおぞましいページは一部読者のトラウマになった。
なおアニメ化の際には尺の都合かそれとも描き込みが大変すぎるためか割愛された模様。
「つーか、こいつらも最終決戦後には生き返るんだよな。こいつらだけはそのまま死なせておいた方が世のためなんじゃ?」
差別はよくないが犯罪もよくない。あくまでスーパーサムライソードを侵食する欲望の悪鬼ゴルディオニの呪詛で負の感情を増幅させられた結果の暴走であるならば、彼らもまた被害者、と、呼べる、のか?
俺はtodaYの刀を駆使して、何度も一日をやり直しながらしらみ潰し作戦で犯罪者ふたりの自宅を突き止めた。ほんとバランスブレイカーな刀だよな。
原作でこの刀を得た斬月ムサシロウは『こんな危険な力を何度も使っていたら、そのうち人間性がおかしくなってしまう』と厳重に封印していたのも頷ける。つーか、よく我慢できたな。俺には無理だ。
そういう意味では彼の言う通り、俺の人間性は既に破綻しているのかもしれない。どうせやり直せるから、という前提で、気軽に何度も何度も時を戻すのは神様にでもなったかのような全能感を使用者に与える。
でもだからって、愛原ヒカリを見捨てたのはちょっと冷たいんじゃない? とは思うよ。その気になればやり直せたよね、君。それだけ固い意志で封印することを選んだのなら、文句は言えんが。
『サムライバル! Mindcontrol!』
『サムライバル! Question!』
厄介な能力者と戦う上で重要なことは、厄介な能力者とは戦わないことだ。幸い俺には絶対防御である『∀rc』の刀がある。
夢野からもらったそれは、他のスーパーサムライソードの力さえもを完全に遮断する絶対安全圏を作り出す方舟の力。
幸いふたりはどちらも刀の力を我欲を満たすためだけにコソコソ使うだけで、争奪戦には一切関わらない方針でいた戦闘経験に乏しい性犯罪者。
油断している隙に寝込みを襲い、問答無用で斬り捨てればアッサリ2本の刀を強奪できた。
「なんかもうここまで来たら消化試合感が漂ってきたな」
まるで打ち切りの決まった漫画が怒涛の伏線回収を始めるように、ハイペースで刀を回収できるようになった俺はこのまま最終決戦まで一気に突き抜けるべくない知恵を絞る。
異世界転生ものの作品でもRPGでも、限られた手札で考えながらやりくりしているうちの方が面白かったりするよね。
最強になってしまったらあとはもう最強の力でザコ狩りするだけだから、盛り上がりもへったくれもない。
なんて油断してるとアッサリ足元をすくわれる可能性があるので、気を引き締めてかからねば。
Mindcontrolもヤバイが特にヤバイのが劇場版限定で登場する刀の『Zero』。その効果はシンプルで、使うと他のすべてのスーパーサムライソードの力を無効化する。
極論銃火器で武装したヤクザ集団がZeroの刀を使って人海戦術で襲撃してきたらもう勝ち目ない。
劇場版限定の刀である∀rcを夢野が持ち出してきた以上、Zeroだってこの街のどこかで誰かの手に渡っていても不思議ではないのだから。
ちなみにすべての超能力を無効化するZeroとスーパーサムライソードの力さえも防ぐ∀rcが衝突すると矛盾が起きるのでは? という疑問には、原作映画が既に答えをくれている。
その場合は例外処理として∀rcが勝ちます。なので劇場版ボスである谷欠シンはZeroの刀の契約者であるレイン・ロゼを利用して、自分だけが刀の力を使える唯一の超能力者になる計画を立てていました。
ま、それも主人公の活躍で打ち砕かれるんですけどね。漫画やアニメの世界である以上、最後は正義が勝つのがお約束。
てことは、悪党である俺も最後は正義の前に破れるのだろう。それでもいいさ。
「随分と疲れた顔してるな坊主」
「実際疲れてるからね。なんか甘いもん頂戴」
「婆さんが生きてた頃には店のオーブンで色々焼いてたんだがな。俺独りになっちまってからは。コーヒーと簡単なサンドイッチぐらいしか提供できなくなっちまった」
「しょうがないにゃあ。それじゃあウインナコーヒーのホットにホイップクリーム大盛りで。別料金になる?」
「すっかり常連さんだからな。それぐらいはサービスしといてやるよ」
「やった! 店長愛してる!」
疲れた時にはやっぱり俺の憩いの聖地、木野珈琲店。
前世はチェーン店ばかり利用して個人経営の喫茶店などにはほとんど行かなかったのだが、実際通い詰めてみると意外といいもんだね。個人経営の喫茶店ってのも。
(残る刀はZeroを除けばSとWの2本だけ。そろそろプロフェサー・Gも本格的に動き出す頃合いかもしれない)
「やあ、竜崎少年」
噂をすれば御本人登場。まるで見計らったかのようなタイミングだ。わざとやってるのでないとすれば天然物の黒幕である。
「またあんたか。今度はなんの用だ?」
「そう邪険にしてくれるな。実は私もこの店の常連になってね。ここのコーヒーは実に美味い。マスター、徹夜明けの寝不足によく効く濃厚なエスプレッソを頼む。熱々で」
「わかった」
カウンター席はどこに座ろうと自由なので、彼女が俺の隣に座るのを咎める権利はない。
「実は夢野少年を見習って、私も君にプレゼントを持参した。お近付きの印だ。古来より高感度上げの定番と言えばプレゼント攻撃が王道だろう?」
「なんだよ。まさかあんたまで俺に刀をくれるってんじゃないだろうな?」
「そう、そのまさかだ。受け取りたまえ竜崎少年」
そう言いながら彼女が静かにカウンターに置いたのは、彼女の心臓と融合しているはずの『Gold』の刀だった。
Gold。欲望の悪鬼ゴルディオニの心臓部とも呼べる、26本の刀の中でも一番大事な部分。
Gold+鬼でゴルディオニ。わかりやすいね。
みずからの心臓を差し出すも同然の愚行だが、こいつは一体何をしに来たのだろうか。夢野といい、博士といい、本当に厄介なトリックスターばかりに絡まれて、俺の心労がストレスでマッハ。
「どうした? 遠慮なく受け取るがいい」
「わあい、嬉しいなあ」
サムライバー図鑑
Ace 赤 斬月ムサシロウ/サムライバー斬月
Butterfly 青 天雅リン/サムライバー花月
Critical 緑 宝田エル/サムライバー満月
Dream 虹色 夢野メシヤ/サムライバー夢月
Engagement 銀色 笛吹サチコ/サムライバー恋月
Fumble 赤 宝田エタ/サムライバー新月
Gold 黄金 プロフェサー・G/サムライバー望月
Hunter 緑 木霊ノゾム/サムライバー風月
Inferno 赤黒 円城フレア/サムライバー炎月
Joker 黒 葉隠ナデシコ/サムライバー三日月
Knight 銀色 契約者不明
Love 桜色 愛原ヒカリ/サムライバー愛月
Mindcontrol 水色 犯罪者A
Nightmare 灰色 密輸人/サムライバー歪月
Ox 茶色 牛島ウメオ/サムライバー岩月
Pierrot ピンク 大道芸人/サムライバー笑月
Question 藍色 犯罪者B
Revolution 金色 剣ソウヤ/サムライバー嘘月
Tempest 黄緑 嵐山キョウスケ/サムライバー嵐月
Unite 黄色 契約者不明
Voltage オレンジ 契約者不明
t-reX 紫 竜崎ディノ/サムライバー竜月
todaY セピア 木野ギンジ/サムライバー古月
ZZZ 虹色 夢野メシヤ/サムライバー夢月
∀rc 黒 谷欠シン/サムライバー神月
Zero 透明 レイン・ロゼ/サムライバー無月




