第20話 お前はなんなんだZ
サムライバー図鑑
Ace 赤 斬月ムサシロウ/サムライバー斬月
Butterfly 青 天雅リン/サムライバー花月
Critical 緑 宝田エル/サムライバー満月
Dream 虹色 夢野メシヤ/サムライバー夢月
Engagement 銀色 笛吹サチコ/サムライバー恋月
Fumble 赤 宝田エタ/サムライバー新月
Gold 黄金 プロフェサー・G/サムライバー望月
Hunter 緑 木霊ノゾム/サムライバー風月
Inferno 赤黒 円城フレア/サムライバー炎月
Joker 黒 葉隠ナデシコ/サムライバー三日月
Knight 銀色 契約者不明
Love 桜色 愛原ヒカリ/サムライバー愛月
Mindcontrol ?
Nightmare 灰色 密輸人/サムライバー歪月
Ox 茶色 牛島ウメオ/サムライバー岩月
Pierrot ピンク 大道芸人/サムライバー笑月
Revolution 金色 剣ソウヤ/サムライバー嘘月
Tempest 黄緑 嵐山キョウスケ/サムライバー嵐月
Unite 黄色 契約者不明
Voltage オレンジ 契約者不明
t-reX 紫 竜崎ディノ/サムライバー竜月
todaY セピア 木野ギンジ/サムライバー古月
ZZZ 虹色 夢野メシヤ/サムライバー夢月
∀rc 黒 谷欠シン/サムライバー神月
Zero 透明 レイン・ロゼ/サムライバー無月
「どうした番長。そんなところでしゃがみ込んで」
「キーホルダーが落ちとるのを見付けてのう」
「あ、ほんとだ。谷欠市の公式マスコットキャラクター、ムナ原人くんのキーホルダーだね。それにしても、随分古びてるみたいだけど」
「こいつは何年も前に谷欠市合併50周年記念を祝して限定生産されて以来、一度も再販されとらんレアものじゃからのう。見てみい。50の形をした眼鏡をかけとるじゃろ」
「それってネットオークションとかでプレミアがつく奴じゃないですか?」
「ああ。しかもかなりの美品じゃけえ、落とし主は血相を変えとるかもわからん。交番に届けてやらんと」
「無駄に詳しいな。そういえば、番長は生まれも育ちもこの街なんだったか」
「僕もそうだけど、番長ほど詳しくはないよ」
「あの、すみません」
「はい?」
「うん?」
「なんじゃあ」
「そのキーホルダー、私が落としたものなんです」
谷欠駅前広場は大体いつも混雑している。谷欠ダイヤモンドモールと直結しており、近くには運動公園もあるため、大勢の人間が行き交うからだ。
斬月ムサシロウ率いる葉隠ナデシコ、天雅リン、番長のいつもの4人組が放課後和気藹々と下校中。キーホルダーを拾った番長に声をかけてきたのは愛原ヒカリだった。
「これで彼女が斬られる未来は回避された、はず」
同じ刀が2本ある、というタイムパラドクス問題を避けるためか、未来から刀を持ち込むと過去にあるはずの同じ刀が消滅する、というのはライタ兄貴の時にも確認した仕組みだ。
あの時はRで、今回はL。特に意味はないけどそういう対比に気付くとちょっと嬉しくなってしまうのは俺だけだろうか。
「見付けてくださって本当にありがとうございます。このキーホルダーは婚約者がくれた大事な思い出の品なんです」
「そうか。失くさずに済んでよかったのう」
「婚約者さんを悪く言うつもりはないが、原始人のキーホルダーを女性に贈るセンスはいかがなものかと思うぞ」
「女心がわかってませんねリンさんは。どんなものであれ好きな人がくれたら嬉しいものなんですよ?」
「まあまあ」
「申し遅れました。私は愛原ヒカリと申します」
「牛島ウメオじゃ」
「僕は斬月ムサシロウです。よろしくお願いします」
「葉隠ナデシコだ」
「天雅リンと申します」
愛原ヒカリと4人が親交を深め始めたのを物陰から見届け、俺はコッソリと立ち去った。これで悲劇は回避された。俺は新たな刀を得た。みんなが幸せになれる冴えたやり方だ。
だがひとつ、問題が生じた。
「優しいんだね、竜崎ディノくんは」
「夢野。お前ほんとに何者なんだ?」
「それは僕が訊きたいよ。竜崎ディノくん。君は一体何者なんだい?」
todaYの刀で運命を改変したというのに、平然と改変前の記憶を改変後の世界に持ち込んでいる奴がいる。無駄に美声なのが腹立つ、ニコニコ胡散臭いアルカイックスマイル野郎がひとり。
俺がつっけんどんな態度で先を歩き、奴はのほほんとした笑顔のままトコトコ後をついてくる。
「こういうのはどう? 君が本当のことを教えてくれたら、僕も君に本当のことを打ち明ける」
「順序が逆だな。お前がすべてを洗いざらい吐いたら、俺もお前に秘密を教えてやるよ」
「平行線だね」
「平行線だな」
夢野メシヤ。原作でも正体不明のまま最後まで謎が明かされずに終わったミステリアス美少年。『Z』と『D』。眠りと夢を司るスーパーサムライソードの契約者。
悪い奴じゃあない、と思う。でも、信用できるかは別問題。
物語の終盤、欲望の悪鬼ゴルディオニとの決戦に向かう主人公とヒロインの前に現れたこいつは、自身の持つ2本の刀をふたりに託して自発的に消滅する。
呪われた秘宝、スーパーサムライソードの真相を彼らに教えながら。
スーパーサムライソードは欲望の悪鬼ゴルディオニを分割封印している呪具であると同時に、いつか復活するであろう欲望の悪鬼ゴルディオニと戦う未来人のため古の侍戦士たちが遺した過去からの贈り物でもある。
刀が呪われているのはあくまでその内側に欲望の悪鬼ゴルディオニが潜んでいるから。奴の封印を解き、奴を斬ったその時、今度こそ26本の刀は万能の願望器として、最終勝利者の願いを叶えるだろう。
連載当時、なんで夢野はそんなこと知ってるんだよ! と多くの読者がツッコミを入れ、考察班は沢山の考察動画を投稿していた。
その謎は劇場版を経た後でも明かされないまま終わってしまったため、大勢の考察班の頭を今でも悩ませている。
「お友達の博士に言い付けるか? 時を駆ける反則野郎がいるって」
「僕が? まさか。僕は君を応援しているからね」
「応援ね。協力はせず応援だけしてられるなら楽でいいわな」
夢野に関してはもう考えるだけ無駄だ。とにかく俺の邪魔さえしないのならそれでいい。
「フフ。期待しているよ竜崎ディノくん。センテイ者である君が絡み合う糸からどんな運命を織るのか」
「全部ズタズタに切り裂いて台無しにしちまうかもな」
返事はなく、奴は悠然と読めない笑みを浮かべるがまま。何がしたいんだか。本当に。




