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第2話 哀愁のY

 サムライバー斬月の世界に異世界転生した転生者ならまず真っ先にやるべきことがある。


「なあ爺さん、ちょっといいか?」


「なんだ坊主。うちの店になんか用か」


「いや、店に用はない。用があるのはあんただ爺さん」


 木野(きの)ギンジ。個人経営の小さな喫茶店・木野珈琲店を営む独居老人だ。彼は愛する奥さんを一昨年肺がんで亡くしている。肺がんの原因は彼が長年愛煙していた煙草だった。


 最愛の妻を副流煙で死なせてしまった。自分が殺してしまったも同然だと、彼は自責の念に今も苦しんでいる。


 そんな彼が『使うと当日の0時に戻れる』という『todaY』の刀に選ばれたのは偶然か運命の皮肉か。


 閉店後に店先の掃除をしていた彼は、店の花壇に突き刺さっていたYの刀を見付け、警察に通報しようとする。そこでYの刀をウッカリ鞘から引き抜いてしまい、契約者に選ばれてしまうのだ。


「その刀、俺のなんだ。返してくれないか」


「坊主。銃刀法違反って知ってるか」


「本物じゃないよ。模造刀。コスプレで使う玩具なんだ」


 彼は金髪頭のヤンキー中学生というろくでもない要素丸出しの俺の外見に警戒を強めたようだった。おまけに時刻は店の閉店時刻である21時すぎ。


「ね、お願い。それ地味に高かったんだよ。必死にバイトして買ったんだ」


「……」


 彼は刀を俺に渡すべきかしばし迷ったようだったが、余計な面倒事には首を突っ込みたくないと思ったのか、それを返してくれる気になったようだ。ありがとう! 本当にありがとう!


『サムライバル! todaY!』


「なんだ!?」


『オープン・ザ・スーパーサムライソード! トゥデェーイ!!』


 だが爺さんが刀を俺に差し出した瞬間、Yの刀がまばゆいセピア色の光を放ち始めた。


「させるかあ!」


 俺は木野の爺さんの手から刀を奪い取り、強引に引き抜く。死なない死に戻り能力とかいう作中でも最強格の能力をみすみす逃すわけにはいかないし、木野の爺さんを死なせるわけにもいかない。


 原作だと彼は暴走したtodaYの力に呑み込まれ、醜い異形の怪人と化して刀に体を乗っ取られてしまう。


 必死に抗いながらも『俺を殺してくれ! 俺を止めてくれ!』と懇願する木野ギンジを、泣きながら主人公である斬月ムサシロウが斬り捨てるのだ。


 不殺主義の主人公が初めて正当防衛ではなくみずからの意思で相手を斬らねばならなくなる名場面。刀を奪うためでなく、相手を助け、呪いから解放するために。


 そこから物語は一段と面白くなるのだが、それは他人事だから楽しめるのであって、当事者になってしまった俺はそんな悲しい結末は回避したいと思う。


「させるかよ! お前の契約者はこの俺だ!」


『サムライバル! t-reX!』


 俺は勝手に鞘から飛び出し木野の爺さんの心臓に飛び込もうとするYの刀を、ティラノサウルス並みの筋力と腕力で強引にねじ伏せた。刀により身体能力を強化された俺は、変刃前の人間体でも恐竜並みの馬力が出せる。


「おとなしく諦めやがれえ!」


「おい坊主! なんだってんだ一体!?」


「うがあああ!」


 呪われた秘宝は1本でも心臓への負荷がヤバイのに、二刀流なんてもっとキツイ。でもやらないと! 頑張れ俺! 負けるな俺! お前はやればできる子だ! たぶん!


 前世ではやってもできなかったけど、異世界転生者になった今なら違うはず!


『サムライバル! todaY!』


 勝った! 力でねじ伏せて無理矢理契約してやったぜ! ようやく観念したのかYの刀が俺の心臓に吸い込まれていく。


 ティラノサウルス並みに強化された心臓を内側からズタズタに切り裂かれるような痛み。だけど俺は、根性でそれをねじ伏せる。世界がセピア色の闇に暗転していく。


『todaY! エンゲェージ!』


――


「は!?」


 飛び起きる。慌てて周囲を見回す。どうやら俺は木野珈琲店のソファに寝かせられていたようだ。


 慌ててスマホを確認すると、時刻は0時2分。どうやら俺は3時間も気絶していたらしい。


 さすがにいきなり2本目の刀と契約するのは無茶だったようだ。だが無理を通したお陰で俺は作中でも最強格の能力である『Y』のスーパーサムライソードを得られた。


 todaYの力はいわゆる死なない死に戻り能力だ。戻れるのは今日の0時までが限界、という制約こそあるものの、それを差し引いても文句なしのぶっ壊れ性能を持つ。


 何故俺が真っ先にこの刀を確保しに来たのか解るだろう? まさに公式チートとも呼ぶべきすさまじい刀である。他人に先に使われたらもう勝ち目ない。


「起きたか坊主」


「木野さん!」


 無事Yの刀も得られ、本来死ぬはずだった木野の爺さんも生きてる。文句なしの結果で万々歳だ、と言いたいところだが、その代償は大きかった。


 0時を過ぎてしまったということは、昨日にはもう戻れない。


 本来なら刀がばら撒かれたであろう20時頃を何度も何度も繰り返して楽してすべての刀を集める予定だったのに、俺の完璧な計画がパァだ。


「て、不味い! 急がないと!」


「おい坊主! どこへ行くつもりだ!」


「木野さんごめん! 介抱してくれてありがとう!」


 俺は慌てて木野珈琲店を飛び出した。今ならまだ間に合うかもしれない!

サムライバー図鑑


 A ? 斬月ムサシロウ/サムライバー斬月

 J ? 葉隠ナデシコ

 t-reX 紫 竜崎ディノ

 todaY セピア 木野ギンジ/サムライバー古月

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