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第18話 愛してL

「部外者が! 僕の邪魔を、するな!」


『Hunter! Unit! Nightmare! Tempest! スーパー・エンゲェージ!』


「エメラルドスライサー!」


「うわああああ!?」


 サムライバー斬月とサムライバー風月。漫画の主人公とライバルの激突。それは本来なら非常に熱い名勝負になるはずだったのだが、斬月ムサシロウは異世界転生者という異物のせいで戦闘経験がかなり減っている。


 本来なら木野の爺さんを手にかけ、円城フレアと命懸けの死闘を繰り広げるはずだったのに、そのどちらも俺のせいで機会を奪われてしまった。それに付随する戦闘経験や人生経験も。


 だから、本来なら互角にぶつかり合うはずだったサムライバー斬月がサムライバー風月に一方的に倒されてしまう光景を見て、罪悪感が俺の胸を締め付ける。


 今更それを悔やんでも、時は戻せない。todaYの刀で戻れるのは当日の0時まで。今日をやり直せても、昨日には戻れないのだから。


「ムサシロウ!」


「ムサシロウくん!」


「ムサシロウ!」


 攻撃を受け吹き飛ばされたサムライバー斬月に、彼の仲間たちが駆け寄る。


 一体何故ふたりが戦っているのか。その理由は、『Love』のスーパーサムライソードにあった。


『私ね、世界で一番大好きで、大嫌いな婚約者に会いに来たの』


 愛原(あいはら)ヒカリ。18歳。木霊ノゾムの婚約者だ。


 幼馴染みでありながら、昔からずっと冷たい態度を取られ続けてきた彼女は、久しぶりに帰国したというのに自分には会いに来ないどころか連絡ひとつ寄越さない婚約者に会いに、谷欠市を訪れる。


 その時、谷欠駅前の広場で大事な思い出のキーホルダーを落としてしまうのだ。困りながら探しているところを、偶然にも斬月ムサシロウ一行に助けられ、互いの素性を知らぬまま仲よくなる。


『不思議ね。あんなに冷たくて素っ気ない人なのに、いつの間にかあの人を好きになっている私がいたの。それはきっと、素っ気なさの裏に隠しきれない彼の優しさが見え隠れしていたからだと思う』


 木霊ノゾムと愛原ヒカリは親が勝手に決めた許嫁だ。木霊財団の跡継ぎであるノゾムは、財団の総帥である『お爺様』に言われるがまま、世界の平和を守護する戦士として育てられた。


 そんな彼にとって、愛原ヒカリは守るべき庇護対象だ。自分の傍にいると危険だから、わざと冷たい言葉で遠ざける。嫌われても構わない。むしろ嫌ってくれた方がいいとさえ思う。


 そうやって幼い頃から意図的に彼女を遠ざけ続けてきた木霊ノゾムが、唯一彼女の誕生日に贈った誕生日プレゼント。それが、彼女が落とした大事なキーホルダーだった。


『何をしに来た? 僕は忙しいんだ。ただでさえこの街では今猟奇事件が頻発しているというのに、そんな危険地帯にノコノコ顔を出すなど何を考えている! 死にたくなければ早急にこの街を去れ!』


 健気な婚約者を冷たく拒絶するのも、一般人にすぎない彼女をこの街から遠ざけるため。不器用な優しさで自分を突き離そうとする婚約者を、愛原ヒカリは愛してしまった。


『ごめんなさい。一目でいいからあなたに会いたくて。迷惑をかけるつもりはなかったの』


『既に迷惑だ! 早くこの街を去れ! 君の身にもしものことがあったら、君の御両親になんて説明すればいい!』


 人、それをフラグという。木霊ノゾムとの面会を終えた後、意気消沈しながら独りぼっちで谷欠駅に向かってトボトボ歩いていた彼女は、運悪く『Love』のスーパーサムライソードの契約者に選ばれてしまう。


 彼女が木霊ノゾムに向ける純粋な愛。その愛に呼応したのだろうか。まるで魅入られるように彼女は桜色の刀を鞘から抜いてしまい、心臓を食われてしまう。


 だが、愛原ヒカリはなんの変哲もないごく普通の一般人だ。欲望の悪鬼ゴルディオニの呪いを受け止めきれるだけの力はなかった。


『きゃあああああ!?』


 呪いに呑まれ、暴走した彼女はラブの怪人と化して、街を破壊し始めてしまう。淡い桜色の、醜い異形の怪人。好きな人と愛し合いたい。普通の恋人同士みたいに、愛し合えたらいいのに。


 そんな彼女の慟哭が街を破壊する衝撃波となって、駅前広場を破壊し始める。やめたくてもやめられない。暴走した怪人は、命尽き果てるか誰かに斬られるまで止まれない。


 そうなれば当然、サムライバーたちが駆け付けてくるわけで。


「アアアアア! ノゾムザン! ノゾムザアン!」


「ダメだよ木霊くん! あの怪人は、君の婚約者の愛原ヒカリさんなんだよ!?」


「わかっている! だからこそ僕が斬らなければならない! スーパーサムライソードに憑り付かれた人間を救う手段はない! 彼女を救うためにも、僕が彼女を斬らなければならないんだ!」


「そんなのまだわからないだろ! クリス博士が今、相手を殺さず心臓から刀だけを抽出できないか研究しているんだ! その研究が成功すればきっと!」


「不可能だ! 世界最先端の科学技術の粋を結集した木霊財団の科学力をもってしても実現不可能だったのに、下町の三流科学者風情に何ができる!」


「博士は三流科学者なんかじゃない! 確かにちょっと、いやだいぶおかしな人だけど! それでもモンテスキュー・クリス博士は世界一の天才科学者だ!」


「ならば今すぐ彼女を救ってみせろ! 暴走した刀は契約者の寿命を急速に削り取る! このままではあと10分と保たずに彼女は生命力を吸い尽くされて死ぬだろう! 僕にはそれを止める義務がある! 木霊財団の代表として!」


「この、わからずや!」


「わからないのはお前の方だ!」


『サムライバル! Ace!』


『スーパー・サムライバル! HUNTer!』


変刃(サムライブ)!」


超変刃(スーパーサムライブ)!」


『オープン・ザ・スーパーサムライソード! エーッス!』


『オープン・ザ・スーパーサムライソード! ハンタァー!』


「サムライバー斬月! 行くよ!」


「サムライバー風月・改! いざ参る!」


 片や巻き込まれただけの一般男子高校生。片やまだ男子高校生でありながら幼い頃から数々の危険な任務をこなしてきた戦闘のプロ。


 原作ではかなり胸熱だった名勝負も、今回は俺のせいでその実力差に偏りが出てしまっている。それでも彼は立ち向かうのだ。愛原ヒカリを斬らせないために。


「私たちはヒカリさんを止めるぞ! 番長! リン!」


「おう!」


「はい!」


『サムライバル! Joker!』


『サムライバル! Ox!』


『サムライバル! Butterfly!』


「「変刃(サムライブ)!」」


「変刃(さむらいぶ!)」


『オープン・ザ・スーパーサムライソード! ジョー・カー!』


『オープン・ザ・スーパーサムライソード! オーックス!!』


『オープン・ザ・スーパーサムライソード! バタファーイ!!』


「サムライバー三日月! 参る!」


「サムライバー岩月! 行くぞ!」


「サムライバー花月! 行きます!」


 総勢5名のサムライバーが集結しての豪華なバトルだ。


「アアアアア!」


「ヒカリさん! やめるんだ! 本当のあなたを取り戻せ!」


「言ってダメなら実力行使じゃ! くう! 女を殴るなんぞ、男の風上にも置けんちゅうのに!」


「言ってる場合ですか! 来ますよ番長さん!」


「アアアアア!」


 ラブの怪人が口からは発する衝撃波を番長が受け止める。


『Joker! Knight! ダブル・エンゲェージ!』


「ジョーカースラッシュ!」


 サムライバー三日月こと葉隠ナデシコが必殺技を放つも、愛原ヒカリを殺してしまわぬよう手加減しているためかその一撃にはキレがない。


 涙を流して慟哭する女性のような顔がついた、剥き出しの心臓に似たグロテスクな見た目の桜色の怪人が、彼女の必殺技を口から放つ衝撃波で相殺する。


 契約者の暴走は、より強い力をスーパーサムライソードから引き出す。だがそれは、寿命を燃料とする諸刃の剣だ。暴れれば暴れるほど、彼女の命の火はより燃え尽きるのが早まる。


「高みの見物とはいい御身分だね。竜崎ディノくん。ちょっと悪趣味じゃないかい?」


「お前もな。その言葉、そっくりそのままお前に返すぜ夢野」


 そんな6人の命懸けの戦いを、谷欠駅の屋上から見下ろす俺たち。ちょうどここから戦場と化した駅前広場が一望できるのだ。


「僕は君を観に来たんだよ、竜崎ディノくん。君はどうするつもりなんだい?」


「さあな。お前には関係ないだろ」


「揺れているようだね。迷い悩んでいる。露悪的に振る舞いながらもその根底にあるのは拭いきれない善性だ。実に興味深い」


「うるせー! 気が散るからすっこんでろ愉快犯!」


 俺らが口論してる間に、サムライバー斬月と風月・改の戦いもクライマックスを迎えようとしていた。


「これは僕たちの問題だ! 君たちにはなんの関係もない!」


「関係あるよ! 君にヒカリさんを斬らせはしない!」


「何故邪魔をする! それで彼女が救えるわけでもないのに!」


「だとしても! 君にだけは彼女を斬らせるわけにはいかない!」


「思い上がるな! 彼女を斬る権利を持つのは、婚約者である僕だけだ!」


「たとえどんな理由があろうと、人が人を斬る権利なんて、誰にもないんだああああ!」


『Ace! Voltage! ダブル・エンゲェージ!』


「ライジングストライカ!」


「部外者が! 僕の邪魔を、するな!」


『Hunter! Unit! Nightmare! Tempest! スーパー・エンゲェージ!』


「エメラルドスライサー!」


 雷をまとった赤い刀と、風をまとった緑の刀のぶつかり合い。譲れない信念と信念の正面衝突。それを制したのは。


「うわああああ!?」


「ムサシロウ!」


「ムサシロウくん!」


「ムサシロウ!」


 サムライバー風月・改。木霊ノゾムだった。

サムライバー図鑑

 Ace 赤 斬月ムサシロウ/サムライバー斬月

 Butterfly 青 天雅リン/サムライバー花月

 Critical 緑 宝田エル/サムライバー満月

 Dream 虹色 夢野メシヤ/サムライバー夢月

 Engagement 銀色 笛吹サチコ/サムライバー恋月

 Fumble 赤 宝田エタ/サムライバー新月

 Gold 黄金 プロフェサー・G/サムライバー望月

 Hunter 緑 木霊ノゾム/サムライバー風月

 Inferno 赤黒 円城フレア/サムライバー炎月

 Joker 黒 葉隠ナデシコ/サムライバー三日月

 Knight 銀色 契約者不明

 Love 桜色 愛原ヒカリ/サムライバー愛月

 Mindcontrol ?

 Nightmare 灰色 密輸人/サムライバー歪月

 Ox 茶色 牛島ウメオ/サムライバー岩月

 Pierrot ピンク 大道芸人/サムライバー笑月

 Revolution 金色 剣ソウヤ/サムライバー嘘月

 Tempest 黄緑 嵐山キョウスケ/サムライバー嵐月

 Unite 黄色 契約者不明

 Voltage オレンジ 契約者不明

 t-reX 紫 竜崎ディノ/サムライバー竜月

 todaY セピア 木野ギンジ/サムライバー古月

 ZZZ 虹色 夢野メシヤ/サムライバー夢月

 ∀rc 黒 谷欠シン/サムライバー神月

 Zero 透明 レイン・ロゼ/サムライバー無月

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