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第15話 切札はE感じ

 acE。jokEr。huntEr。ついでにt-rEx。主人公、ヒロイン、ライバル、そして他ならぬ俺が持つすべてのスーパーサムライソードに共通する『E』の文字。


 よく必殺技を放つ時に電子音声が鳴るだろう。『〇〇! エンゲェージ!』って。あれは実際に鳴っているのだ。なんと刀が喋る。


 そんなEの刀が司るのは『Engagement』。即ち『契約』の力。その効果は『他のスーパーサムライソードを強化する』。いわばブーストアイテムである。


 単体ではなんの能力も持たず、組み合わせることで真価を発揮する異端の刀。


 そんなEの刀に選ばれたのは笛吹(うすい)サチコ。49歳。シンデレラコンプレクスを拗らせ、玉の輿になるため毎日婚活を頑張る専業主婦希望の夢見るパート社員だ。


『サムライバル! Engagement!』


『きゃ!? 何よなんなのよ!?』


『サムライバル! E! ERROR! ERROR! ERROR!』


 婚活アプリや結婚相談所で連戦連敗続きの彼女はヤケ酒を飲んだ帰り道、結婚指輪の如く燦然と輝く銀色の刀を拾い、契約者に選ばれてしまう。


 Engagement自体はそれ単体では特別な力を持たない刀だが、それでもサムライバーに変刃(サムライブ)することはできる。


 たとえ単身では最弱のサムライバーであったとしても、一般人からすればその力は十分凶器になり得るわけだが。


『ああ憎い憎い憎いいいい! 他人の幸せがねたましい! どうしていつもいつも私だけがこんなにも不幸なのに、周りの奴らはみんな幸せそうなのよお!?』


 彼女は契約時に泥酔していたことも相俟って、欲望の悪鬼ゴルディオニの欠片に精神を蝕まれ、呆気なく暴走してしまった。


 銀色の体を持つ、醜い異形の怪物。他人の幸せが眩しすぎて、目を、脳を焼かれてしまった悲しい独身者の末路。


『不公平じゃないの! 私の、私だけの王子様はどこにいるのよ!? 誰か隠してるんじゃないでしょうね!?』


 力に溺れ、呪いに呑まれ、暴走した彼女はその力で他人の幸せを壊し始めることに歪んだ快感を覚える怪物に、身も心も成り下がってしまった。


 幸せそうな家族、恋人、友人。スーパーサムライソードの力で連続殺人鬼と化した彼女は夜な夜な獲物を求め、目に付いた獲物を片っ端から斬り捨てていく。


 最初は職場の同僚を、次は気に入らない上司を、自分に苦言を呈してばかりの両親を。獲物がいなくなったら、今度は無関係な赤の他人を。


『誰!? 誰が私の幸せを奪ったの!? ゆるさないゆるさないゆるさない! 私の幸せを返せ! お前らが私の幸せを横取りしたんだろう! 泥棒! 盗んだものを返せ! 私の幸せを返せええええ!』


 笛吹サチコの厄介なところは、意図的に皆殺しにしないことだ。あえて旦那だけ、わざと彼氏だけ、意図的に子供だけ。満面の笑顔で男だけを殺す。


 妻の、彼女の、母親の目の前で。遺された女性がより不幸になるように。一緒に殺されるよりも、自分だけが生きながらえてしまう方が、より苦しむと解っているから。


『みんな不幸になればいい! 私だけが不幸なのは不公平じゃない! 幸せそうな奴、楽しそうな奴、嬉しそうな奴! みんなみんな私と同じぐらい、ううん、私よりももっとずっと不幸になっちまえ!』


 その気持ちはまあ、わからないでもない。前世、底辺社畜時代の限界独身おじさんだった俺も、他人の幸せが目障りだった。


 人の幸せを喜び人の不幸を悲しめる人間は、令和になってぐっと減ってしまったように思う。世の中が荒んで、他人の不幸を喜ぶばかりの人間が増えてしまった。


 だからといって、それは無差別通り魔を正当化する理由にはならない。頭で考えるだけならセーフでも、実際に行動に移してしまったらアウトなのだから。


「初めまして、竜崎ディノです」


「笛吹サチコで……え?」


 そんな笛吹サチコを釣るためにはどうするか。簡単だ。彼女が利用しているマッチングアプリを使えばいい。大企業の御曹司を装って、彼女を料亭に呼び出す。実際俺は大企業の御曹司なので、嘘は吐いてない。


 本来ならRevolutionの刀とその契約者である剣ソウヤが初登場する選挙編で登場するはずだったこの料亭は、谷欠市の悪徳政治家御用達のヤバイ店。


 金さえ積めば店内で何があったとしても店の人間が揉み消してくれる無法地帯だ。潰れろそんな店! と言いたいところだが、今回ばかりはそれが俺の助けになる。


「え? 子供? 高校生……じゃないわよね。どう見積もっても中学生ぐらい……」


 大企業の御曹司相手に料亭でお見合い! と気合いを入れて恐らくレンタル品であろうすげー高そうな着物を着てきた笛吹サチコは、俺の風貌に面食らっている。無理もない。


「騙してごめん。兄貴の婚活アプリを覗いてたら、すげー俺好みのお姉さんがいたからさ。ちょっと会ってみたくなって。つい兄貴のフリしてメッセ送っちゃった」


「はあ。いやその」


「俺今フリーだからさ。彼女欲しいんだよね。お姉さんみたいな年上の彼女。どう? 確かに俺はまだガキだけど、あと4年もすれば結婚可能年齢になるし、大企業の御曹司だし、小遣いならたっぷりあるぜ?」


 考える暇を与えずグイグイ迫る。冷静になられたらおしまいなので、混乱しているうちにまくしたてろ。


「年収3000万の副社長の椅子が約束されてる年下のワイルド不良彼氏とちょっぴり危険な恋、してみない?」


「ファーーー!?」


 相手はお姫様願望を拗らせた49歳の独身女性だ。少女漫画よろしく金髪不良少年に札束で頬を叩かれながら強引に言い寄られるのはさぞ効果的だろう。


 悲しいかな少女漫画のイケメン不良を気取るには俺の顔面偏差値は全然足りていないのだが、親父の書斎からちょろまかしてきた2億円の最高級腕時計とブランド物のスーツのお陰で多少は誤魔化せる。


「な? いいだろ? お前のハート、頂きだぜ」


「ひゃ、ひゃい!? 不束者ですが、末永くお友達からその! よろしくお願いしましゅ!」


「目、瞑りなよ。契約の証、もらうから」


「ひゃん!? ファ、ファーストキスなので、優しくしてくだしゃい!」


『t-reX! ∀rc! ダブル・エンゲェージ!』


「アークファング!」


「な!?」


 壁ドンからの顎クイコンボで強引に唇を奪う、と見せかけて、俺は紫の刀で奴の心臓を貫いた。


 怪人化していない生身の人間の姿の相手を斬るのはこれが初めてだ。罪悪感がないわけじゃない。でも、やると決めたらとことんやる。


「言ったろ? お前の心臓(ハート)は頂きだって。契約(Engagement)の(かたな)、確かにもらったぜ」


「う、嘘吐きいいいい!」


 笛吹サチコの絶叫とともに、ドオン! と青白い炎がその肉体を焼き尽くす。レンタル品であろう高価そうな着物ごと塩の塊と化してドサリと崩れ落ちてしまったのは想定外だったが。レンタル会社さんには御愁傷様だな。


 なお至近距離で仕留めたため青白い炎が俺の腕にも触れたが、火傷を負うことはなかった。あの青白い炎は契約者の肉体を消し去り刀と融合した心臓と魂のみを抽出する儀礼的呪術式にすぎず、物理的な炎ではないから。


 俺は塩の山と畳に突き刺さった銀色の刀、Engagementのスーパーサムライソードを引き抜きしかと握り締める。


「さて」


『サムライバル! Engagement!』


「もってくれよ、俺の心臓!」


 銀色の刀を自分の心臓に突き刺す。これでやっと6本目。6/26。まだまだ先は長い。だがその前に、Eの刀に俺自身の肉体と魂が耐えられるか怪しい。言っただろ、Eの力は特別だって。


「ぐ!? があああああ!」


 絶叫が木霊する。だがこの料亭はどの部屋も完全防音になっているため、内側からの叫び声が外部に漏れることはない。ほんと、嫌になるぐらいよくできた料亭だぜ!

サムライバー図鑑

 Ace 赤 斬月ムサシロウ/サムライバー斬月

 Butterfly 青 天雅リン/サムライバー花月

 Critical 緑 宝田エル/サムライバー満月

 Dream 虹色 夢野メシヤ/サムライバー夢月

 Engagement 銀色 笛吹サチコ/サムライバー恋月

 Fumble 赤 宝田エタ/サムライバー新月

 Gold 黄金 プロフェサー・G/サムライバー望月

 Hunter 緑 木霊ノゾム/サムライバー風月

 Inferno 赤黒 円城フレア/サムライバー炎月

 Joker 黒 葉隠ナデシコ/サムライバー三日月

 Knight 銀色 契約者不明

 Mindcontrol ?

 Nightmare 灰色 密輸人/サムライバー歪月

 Ox 茶色 牛島ウメオ/サムライバー岩月

 Pierrot ピンク 大道芸人/サムライバー笑月

 Revolution 金色 剣ソウヤ/サムライバー嘘月

 Tempest 黄緑 嵐山キョウスケ/サムライバー嵐月

 Unite 黄色 契約者不明

 Voltage オレンジ 契約者不明

 t-reX 紫 竜崎ディノ/サムライバー竜月

 todaY セピア 木野ギンジ/サムライバー古月

 ZZZ 虹色 夢野メシヤ/サムライバー夢月

 ∀rc 黒 谷欠シン/サムライバー神月

 Zero 透明 レイン・ロゼ/サムライバー無月

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