第6話 ハルトリー衛兵になる
王都では最近ありとあらゆるニュースが凄まじい勢いで発表されている。魔王復活、魔獣襲撃、そして
「本日、新たな勇者が誕生しました」
勇者飽和世界と言われていたこの世界に新たな勇者が発生した。15年、新たな勇者の生まれなかったこの世界に新たな勇者。そして魔王復活の兆しがあるときに新たな勇者の誕生。人々は勇者とは世界の危機に現れる神の生まれ変わりだと、そう噂した。
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「ハルトリー、君は勇者として覚醒している。しかし、国は君を勇者と認めていない。正式な場での勇者覚醒ではなかったとして君を認めるつもりは無いらしい」
かなり時間のかかったステータス鑑定。と思えばこんな事になっていた。
「すまないが、勇者として覚醒したものを冒険者とする訳には行かない。とはいえ君のステータスを入手してしまったのも事実だ。そこで提案なのだが」
ハルトリー=グランデルムをギルド直属の衛兵として雇う。それがギルド長が僕にしてきた提案だった。ギルド直属の衛兵、国内最高戦力の1つである名誉ある職業である。断る理由なんて無い。
「是非! お願いします!」
そして僕は衛兵となった。
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「さぁ! お前ら! 新しいギルド衛兵が生まれたぞ! 祝え祝え! 新しい衛兵、ハルトリーだ!」
ギルド中から歓声が上がる。
「久しぶりの衛兵だな!」
「俺たち荒くれ者の手網はちゃんと握っておけよー!」
「衛兵って給料いいんだろ!? 今日は奢ってくれよ!」
音の圧力で壁が軋んだ気がした。そのぐらいの歓声。そして最後のヤツ、まだ給料出てるわけねぇだろ。むしろ奢ってくれ。
「あー、ギルド長からの紹介通り、本日付けでここのギルドの衛兵となったハルトリーです。至らぬ点も多々あると思いますがお手柔らかにお願いします」
というか、真昼間だってのにどいつもこいつも飲み過ぎだろ。仕事をしろ仕事を。
「おいハルトリー! 俺と勝負しやがれ! 新参者の鼻っ面へし折ってやるぜぇ!」
大柄なスキンヘッドが突っかかってくる。
「俺はここのギルド最強だからな! 衛兵ったって新人だろ?」
うむ。僕は新人だ。とはいえ勇者でもある。さっきまで知らなかったけど。流石に勝てる……と思いたい。それに最強って言った瞬間周りの何人かは物凄い殺意を宿してた。多分こいつの嘘なんだろな。可哀想に。
「まぁ待て待て、衛兵との揉め事は勘弁してくれ。ハルトリー、お前もやる気になるな」
「ギルド長に止められちゃしょうが無いですね」
「おっ? 逃げる気かぁ? ギルド長がなんだってんだ!? やるならとっとと」
コイツめんどくさい。僕が本当に嫌いなタイプだ。
「おい……俺がやめろと言ったんだ。これ以上俺の手を煩わせるなら……分かっているな?」
こりゃギルド長が最強ですわ。凄みが違うもん。
「ほら、ギルド長もそう言ってますしね? ここは穏便に済ませましょうよ」
「ハッ! ちんちくりんの雑魚が! ギルド長にヨシヨシされて嬉しかったんですねぇ!」
うむ。物凄く腹が立つ。
「ハルトリー、お前の初仕事だな。ソイツをギルドからつまみ出せ」
おっ?
「良いんですか?」
「まぁこういうバカのおかげでお前の力量も示せるだろう。それにこれは俺が命じた『仕事』になる。問題ない」
「了解しましたー!」
ヒャッハー! 活きのいい獲物だぜ!
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結論から言えば確かにあの冒険者は強かった。けど僕に傷1つ付けられなかったよね! 弱い弱い!
「よくやったハルトリー。まぁアイツはいつもトラブルを起こすんだがな……実力だけはそこそこあるもんで冒険者資格の剥奪は無理だが、少し痛い目に合わせられりゃ暫くは大人しくなるだろうさ」
「いえ、僕自身もかなりイラついてましたから……ちょっとやりすぎちゃったかなぁと」
鎧を壊しちゃったのは申し訳なかったなって。修理費とんでもないことになりそうだし。まぁ僕には関係ないよね!
そんなこんなで一日目は終わった。衛兵としての仕事は朝から夕方までの治安維持だ。夜間は夜間の衛兵が居るらしく僕は寮へ帰される。正直ハードな仕事ではある。冒険者っていうハチャメチャな人達を相手にしている以上こういった苦労は付きまとうのだろうが、まぁ仕事があるだけ全然いい。
まさか勇者として覚醒していたけど国に認められず、冒険者にもなれないって言われた時は焦ったけどね。そのままだったら無職引きこもりが生まれるところだった。その場合引き込もれる家も無いんだけどさ。とはいえ冒険者ってのもやってみたかったなぁ。仲間達と力を合わせて強大な敵に立ち向かう! ドラゴンスレイヤーみたいな称号とかを貰える凄腕の冒険者! 憧れないわけが無い。爺さんはそこそこ腕の立つ冒険者だったらしいし、冒険譚をよく聞いていたから小さい頃から憧れていたんだよな……
「おーい、ハル居るかー!」
ギルド長? こんな時間に何を?
「ハルー!」
「はい!」
扉を開けると笑顔のギルド長が立っている。
「おぉ! 起きてたか! ちょっと話があってな!」
「分かりましたから少し声を抑えて……もう夜ですから。中に入ってください」
「お? すまんな! それじゃお邪魔するぜ!」
豪快な性格なのは頼れる人って感じがあって良いんだけど……エネルギッシュすぎるんだよなぁこの人。
「ほう、荷解きほとんど終わってないんだな。まぁそりゃそうか。なんだったら手伝うぞ?」
「有難いのですが……ギルドのお仕事は大丈夫なのでしょうか?」
「なぁに、あのギルドには優秀な補佐が沢山いるからな!」
「それならお願いします」
「おうよ!」
直ぐに荷解きも終わった。荷物が少ないってのもあったがやっぱり手伝ってくれる人がいると違うな。
「あまり物が無いが……この剣はなんだ? 随分使い込まれてるようだが」
「あぁ、それは祖父の形見ですね。祖父は冒険者だったらしく、僕が生まれた時に渡してくれって両親に頼んでいたようで」
「ほぅ。手入れもしっかり行き届いているし、素晴らしいものだな」
そう言って祖父の剣を眺めるギルド長。暫く祖父の冒険者話に花を咲かせたあと
「そうだそうだ、お前に伝えておこうと思ってな? 来週、各地のギルドで対抗戦があるんだ。ちょっとしたお祭りみたいなもんなんだが、お前も出ないか? 衛兵代表として」
「僕が……ですか? まだ入ったばかりの新人ですし、戦いなら僕よりも強い方いらっしゃるのでは?」
「いや、お前の戦闘センスはハッキリ言って異常だ。育成機関では対人戦闘は教えられないのだろう? それであの制圧力だ。間違いなく強いぞお前は」
そこまで褒められたら嬉しくなっちゃうじゃないか。
「それに、冒険者達も出場するらしい。人との戦い方を学ぶ良い機会だと思うが?」
「確かに……でもギルドの人達は納得しているのでしょうか?」
「なに、心配するな! アイツらは毎年出てて最近は他の人間を出せって文句を言っている」
それなら……
「じゃあ出たいです!」
「そうか! それじゃあ選手登録しておくな! それまで怪我とかするんじゃねぇぞ! 本当はそれだけを伝えるつもりだったんだがな! 長居しちまってスマンな!」
そういってギルド長は部屋を出ていった。ギルド対抗戦、楽しみになってきたな。
始まりの勇者 通称 始祖の勇者。
聖剣 不明
名称から聖剣まで全て不明の謎の人物。いつから存在しているのか、今も存在し続けているのか謎のままである。しかし、王国は存在を肯定、7席の勇者の最初を始祖としている。
第3の勇者まではその存在を知っていると噂されているが本人達は黙秘。謎の多い人物である