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4話 孵化直前


 魔獣を相手に戦える素質を持っている人間はギルド内に今僕しかいない。さっきの冒険者は暫く戦えないだろうし、基本的には冒険者はみんな正門に向かってしまっている。ここは負傷者が運び込まれる野戦病院のようなもの……それなのにここに魔獣がいるって事は


「正門側が突破された?」


 それしかない。鳥型ならまだしも獣型、それも動きの早い訳では無い熊型となれば突破されたと考えるのが妥当。


「今……君何をしたんだい?」


 ふと見れば先程の冒険者に回復魔法をかけていた人が声をかけてきていた。


「僕のスキルです。僕は勇者育成機関で先日まで指導をしてもらっていましたから」


 とはいえ、勇卵が孵ることはなく、勇者になれなかったものなんだけどねぇ。まっこの場においてその情報は要らないだろう。


「僕ならここを暫く守ることが出来ます。だから魔法使いの人を後方に」

「いや、もう遅いようだな」


 続いて声を上げたのは髭面の強面オジサン。ギルド長だったような気がしたけど……よく覚えてないや。


「あれを見てみろ。正門は既に瓦解したらしい。勇者様が辿り着くまで持たなかったか……王城の方も戦闘音が響いているところを見るにもう襲撃を受けているのだろう。今から移動したところで道中襲われて終わりだ」


 絶望。この2文字がこれ以上似合う場面もないだろう。偶然、偶々ギルドは襲撃の道筋を逃れていたに過ぎない。王国はこの日終わるのだ。誰もが皆そう思っていただろう。僕もそう思っていた。


「おやおや、まさか王国の冒険者方は魔獣の襲撃するまともに耐えられないのかね? おかしな話だなぁ? キミたちの役目は時間稼ぎだろう?」


 遠くから聞こえてくるはずなのにまるで近くで話しかけられているかのような声。


「なにも脅威を退けろって言ってるわけじゃ無いんだよ? 時間を稼げって言ってるだけなんだよね? それなのに……それすら出来ない『無能』がこんなに集まっているなんて」


 透き通るような声からは想像できないような悪態。


「これだから冒険者は嫌いなんだよねぇ。自分達はいかにも勇者と同じ土俵で人々を守ります! みたいな顔してさぁ?」


 心の奥に黒いものが湧き上がるような喋り方。


「まぁ、絶魔もまだ来てないみたいだし? 仕方ないからワタシが少しだけ助けてあげるよ。破壊の勇者、メルテッタがね!」


 そうして吹き荒れる暴虐。彼女の聖剣、戦斧リーチアグスターに触れたものは例外なくチリとなって消える。それがあの聖剣に込められた力。触れた者皆破壊する力。そこに使用者の意思は関係ない。それ故に呪具とされていたが、メルテッタの勇者の力はそれを上回った。今や戦斧は彼女の手となり足となり彼女に仇なす敵は彼女の意志の元闇に葬り去られている。

 今や絶望的だった数刻前の状況はなかった。目に見えて減り始める魔獣。しかし、王城へ向かった鳥型の魔獣と少数の獣型は未だ王城を攻め落とそうと苛烈な攻撃を仕掛けている。


「遅くなりました。フィーペ到着しました。殲滅を開始します」


 フィーペ=タルタリー。絶魔の勇者。聖剣は聖杖アステルダドム。杖の形状をしているが魔剣の一種。魔法の属性を剣に乗せたり剣の火力を魔法に上乗せしたりできる特殊な能力を持つ。


「鳥が厄介ですね。散らします。精霊よ、母なる精霊よ、空は誰のものか、空を統べるのは誰なのか、今一度怨敵に知らしめよ! フラバイシビレージョン!」


 最も近くにいた個体を起点とし、連鎖的に電撃が広がってゆく。その一撃で王城の周りに集まっていた魔獣はほぼ全て感電死した。生き残りも虫の息である。

 勇者、それはこの世界最強の人間。2人の勇者の到着によって王都陥落の危機は急速に納まっていくこととなる。


 王都襲撃から数週間後、世界に激震が走る。今回の襲撃の主犯は『魔王』完全復活こそしていないがそれも目前であると。世界を混沌に陥れた魔王、それが復活することになればまた世界は危機に瀕することとなる。各国は既に動き始めていた


 そうしてもうひとつ、その影でひっそりと動いていた物語。ハルトリー=グランデルムの勇卵はしっかりとこの世界に羽ばたく準備が出来ていた。

第6の勇者 メルテッタ=チェルコ 通称破壊の勇者。

聖剣は戦斧 リーチアグスター

幼少期はスラム街で過ごす。粗暴で乱雑。よそ者には容赦のしない性格であり、七宝剣の中でも異質。メルテッタを勇者と認めない人々も多くいる。

最大の特徴は身長よりも大柄な戦斧を振り回す戦闘スタイル。戦斧に秘められた能力は「消失」メルテッタの意志により選択された対象は触れられると消失する。魔法耐性、物理耐性共に意味を持たず、圧倒的破壊の限りを尽くす戦闘スタイルの為、戦場は更地になる事もある。

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