64.辻先輩の恋愛
「そやから、私の『おとこ』の話や。来る度に口説きよる。私の豊満な体が気に入ったって。そんなこと言われるの飽きたわ。お前、身辺調査、得意やろ?」
○月〇日。
「幸田・・・幸田。おい、起きろ!聞いてなかったんか。」
「すんません、うとうとして。先輩の施術は気分が良くなるんですわ。」
「何、ベンチャラ言うてんねん。消費税上がったら、治療費上げるサカイな。」
「上がるんですか?」「上がるんですかあ?お前、脳天気やな。てっぺんにも針打っておく。」
「何の話やったんですか?」
「そやから、私の『おとこ』の話や。来る度に口説きよる。私の豊満な体が気に入ったって。そんなこと言われるの飽きたわ。お前、身辺調査、得意やろ?」
「得意って、仕事ですけど。その男が、何か企んでいるかもしれんから、ということですか。ほな、後日書類持って来ますけど、調査済んでから。何か手掛かりは、先輩。」
辻先輩は、黙って名刺を差し出した。
クルマに戻ると、倉持の他に、花ヤン、横ヤンがいた。
「今、終って事務所に帰るとこやけど。」と、花ヤンが言った。
倉持が、「犬山さんが、また浮気したそうです。」と、言った。
「うーん、今、辻先輩に頼まれた案件、お二人にお願いしても構いませんか?」
「構いませんか?って、ほな、お願いします、って合図かな?」
「まあ、引き受けますよ、『先輩』。」
俺は、二人に事情を話した。
「結婚詐欺くさいな。了解、了解。」
二人は、さっさとクルマを出した。
自分達のクルマに乗ると、倉持が「先輩。辻先輩に惚れてますね。」と言った。
「何や、いきなり。」
「そんな男、鼻であしらうタイプですよ、辻さん。ワコちゃんけしかけているのは、実は・・・かも。」
「そうかな?」俺は、曖昧な返事をした。
実は、先輩から「押し倒された」のは、1度や2度やない。
まあええ。
犬山宅に駆けつけると、鬼の形相の奥さん、犬山さん、パパ活女らしい若い女の子がいた。
犬山は、泣きついてきた。
「どないしょ?」「どないしょ?って言われてもなあ。奥さん、本庄弁護士に入って貰いますか?」
「裁判ですか?」「いや、家裁で調停して貰いますんや。取り敢えず、落ち着きましょ。」
「取り敢えず、実家に帰りますわ。」
俺達は、奥さんの、埼玉の実家に出発した。
一方、花ヤンと横ヤンは、名刺のある住所に行って、たまげた。
一見、普通のビルだが、テナントには、反社が入っていた。
組長は、ギクッとなった。
「サツは辞めてるよ、組長。あんた、本気で口説いてたんか?」
「旦那やから言うけど、ある組織に頼まれてな。鍼灸院を開きたいって言う、本場那珂国の鍼灸師に『開業』させて欲しいんやって。」
「それで、結婚詐欺師みたいなことして、鍼灸院を乗っ取る計画やったんやな。」
「他の鍼灸院に通院するのは、簡単やわなあ。強制はせんよ。」
澄子の店で合流して、花ヤン横ヤンに事情を聞いた。
「佐々ヤンに報告した後、ガサ入れに行ったら「蛻の殻」やったらしいで。」
「逃げ足、早いな。小さな組やからなあ。まあ、辻さんに『悪い虫』付かんで良かったなあ。」と、おでんを頬張りながら花ヤンは言った。
深夜。澄子は、がばっと起きて、「私の『悪い虫』、退治して!!」と言い、俺に迫った。
俺は、殺虫剤持ってない。
―完―
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