⑧<火消し屋>のアラスター
ぬいぐるみが窓から急に飛び出していって、なんか外が光っていた。
桜子は何が起きたのか分からず、外に出たらなんか銀髪のイケメン、アラスターさんと超でかいモササウルスがいた。
モササウルスの方は多分、あのオレサマぬいぐるみだ。でっかー。
桜子が外に出た瞬間、アラスターさんに脅され、なんか喋る槍が慌てて仲裁して、桜子の命は守られたのだった。
そして、現在深夜、家のリビングにいる。
「どうぞ。」
桜子はアラスターさんに飲み物を渡した。
先週末に新しい来客用の食器買っててよかったぁ〜。
「この湯気が出る白い液体はなんだ?何やら蜂蜜の匂いがするが、毒か?」
「「『はちみつホットミルクです!(だ!)」」』
この場にいる全員がアラスターさんに総ツッコミしてしまった。
「蜂蜜、ほっとみるく?」
イケメン君は首を傾げた。
まじか。
ホットミルクはおろか、牛乳すら知らないのか。
『アラスターさん、あなたはもう大人に近い年齢なのではちみつホットミルクは飲んでも大丈夫です。』
槍が常識人だった。
「桜子、すまない。俺の知識不足だ。」
アラスターさんは一気に飲もうとした。しかし、
「あっちっ!」
「大丈夫ですか!?」
アラスターさんは熱かったのか、口を押さえて、はちみつホットミルクが入ったマグカップを警戒した。
「ホットっつぅ名前があるんだから、熱いに決まってるだろ?
ちょっと息で冷ますことも知らねぇのかよ?」
ぬいぐるみは何か恨みがあるのか、アラスターさんを煽っていた。
「冷ます、とは?」
ふーふー も知らんのかーい。
「ちょっと貸してください。」
桜子は湯気がたちのぼるはちみつホットミルクに ふー、ふーと息を軽く吹き、少し冷ました。
「これでちょっとは暑くなくなりました。気をつけてゆっくりと飲んでくださいね。」
「助かった。感謝する。」
アラスターさんは今度は、ゆっくりと飲んでみた。
「美味しい・・・。冷えた体が温まっていく。」
アラスターさんが笑った。うっわ、イッケメン!
「美味しくいただいてもらって良かったです。」
アラスターさんはマグカップを机にコトッと置いた。マグカップの中は空だった。
「桜子、俺はなんともバカな勘違いをしていた。桜子は優しいし、正直に話してくれる。
なのに俺は君のことを何も知らずに疑ってしまった。本当にすまない。」
彼はそう言って頭を深く下げた。
初対面のあの行動からは全然想像出来ない。そんなにホットミルクが良かったのかな?
「あ、えっと、桜子も何も知らず勝手に<鍵>を持ち去ってしまってすみません!」
桜子も慌てて頭を下げた。
『えーと、本題に入りましょうか?桜子さんは今<鍵>をお持ちですか?』
「あっ、はい!」
桜子はガラスの鍵をポケットから取り出して机に置いた。
「久城市の商店街の路地裏で見つけました。見つけた時は真っ黒な鍵だったんですけど、今はこんなガラスみたいになってます。」
「・・・。」
アラスターさんは顎に手を当て何か考えていた。
『アラスターさん、これって・・・。一体?』
槍はまるで生き物のようにグネグネと曲がりながら鍵をじっと見ていた。
ちょっと気持ち悪い。
「うん。・・・、分からん。」
分からんのかい!
桜子は心の中でずっこけた。
「俺は<鍵>を見たことがないんだ。だから、これが一体どういうことかよく分からない。」
「じゃあ、どうすれば・・・?」
桜子が不安になっているのが顔に出てなのか、アラスターさんはフッと笑った。
「大丈夫。俺の知り合いになんでも知ってる人がいる。その人に一緒に聞いてみよう。多分答えてくれるはず。」
「そうなんですか!? よかったぁ〜。」
『今日はまじで遅いので明日にしましょう。桜子さんは何時がいいでしょうか?』
「明日も学校だから、午後3時ぐらいかな?」
『分かりました。では、<魔法・怪奇現象研究所>にいらしてください。スマホで検索するとちゃんと出てくるので。』
<魔法・怪奇現象研究所>・・・。全然聞いたことないな。ちょっと調べてみよ。
桜子はスマホで研究所の名前を打って検索した。
あっ、あった。これか!
研究所は久城市で1番高いビルだった。あのビルだったのか!一体なんのビルなのか分からなかったけど。研究所だったのか!
「桜子は久城高校に通っているのか?」
「そうですけど?」
「だったら、学校が終わる時間になったら俺が迎えに行く。」
ほわっつ!?
いっ、イケメンがこの平凡などこにでもいる女子を迎えにぃ!?
「俺が追っている異界犯罪者は、桜子が拾った鍵を狙っている。あいつらは普通に武器を持ってて、危険だから護衛が必要だ。俺は一応戦闘慣れしてる。
ま、明日限りのことだろうから、心配するな。」
桜子が心配してるのは、久城高校の生徒たちの反応なんだけど。
明日ぜったい、変な誤解されるってぇー。
『・・・あていの名前、そらそろ名乗りたいんだけど。』
槍が何かボソッと言ったが、聞き取れなかった。