脱出
数多くの円柱が見える。
その中の一つの円柱が動き出す。
円柱の上部と側面の上半分、下部の側面の下半分が分離し、開いていく。
開いた円柱の中には、人の姿があった。
頭部を覆う半球状のアンテナ器具外れる。
同じように腕に接続されてチューブが外れていく。
排泄物処理用の漏斗状の器具も外れた。
胴体や首、腕や足はシリンダー内で暴れないように、ベルトで固定されている。
人体を固定した板が、低い天井から下りたアームで拾われ、移動していく。
真白い小部屋に板が入れられると、人体を固定していたベルトが外れた。
「……」
部屋の中に並ぶ医療機器。有人運用でしようする端末。
画面に『一時休止』と赤く大きな字で描かれ、点滅を始めた。
真っ白な板の上に男が起き上がった。
扉についている小さなガラスが鏡のように男の姿を映し出した。
男はガラスに映った全裸の『それ』が自分であることが信じられなかった。
「まさか」
そして思い出した。
二人は理想の暮らしを求め、ある契約にサインをしたこと。
こんな場所だったのか。
男は頭を振って、自らの頬を叩いた。
「急がないと」
このことが起こることは知っていた。
そしてこれからしなければならないことも。
男は有人運用時の端末を操作し始めた。
まもなく部屋の扉が開いた。
部屋を出ると、天井が低い廊下が続いていた。
男は急いで奥の扉へ走った。
扉を開けると、エアシャワーがある中継部屋を抜け、モニターが複数置いてある部屋についた。
部屋は無人で、モニターだけがついている状況で、暗かった。
男は一つの端末に目をつけた。
「これだな」
ログインを要求する画面が表示されていて、男は記憶に従いキーを打った。
画面が切り替わり、シリンダーのステータスが表示された。
検索用のボックスにカーソルを当てると『佳純』と入力した。
検索結果が表示され、それをクリックする。
「……」
画面には円柱の状態と個人情報が表示されていた。
男は今度は監視カメラの端末に向かい、特定日時のカメラ映像を確認した。
何度かその二つの端末を行ったり来たりする作業を繰り返すと男は、すべての事実を把握した。
男は端末をそのままにして再びエアシャワーがある中継部屋を抜けて、天井の低い廊下を戻った。
そしてロックを解除して部屋に入る。
そこには男が乗ってきた白い板はなかった。
有人運用のための端末を操作すると、部屋の奥の扉が開いた。
男は奥に進むとその先に見える多くの横たわる円柱を見た。
一つのシリンダーが開くと、アームが差し込まれる。
そして男がいる部屋へと白い板を運んできた。
部屋の中に人が乗った白い板が置かれると、男は部屋の中の端末を操作した。
『一時休止』
画面には大きく表示されて点滅している。
白いプレートから男が起き上がる。
ゆっくりと目を開ける。
そして目の前を男を見て言った。
「誰だ?」
「お前が木下吾朗だな」
「……そうか。そっちは直樹。こんなことをするのは秋田直樹しかいない」
直樹と呼ばれた男は、プレートの上に座っている男、吾朗の頬を殴った。
ふいをつかれて、殴られた吾朗は、プレートに激しく体をぶつけた。
「現実の体は小さいんだな。ここでは魔法は使えんぞ」
「お前は俺を殴る為に世界を脱出したのか」
「いや、殴るだけじゃない」
直樹は吾朗の首を絞め始めた。
吾朗は、両足で直樹の腹を蹴って手を外すと、プレートの反対から転げ落ちた。
「殺すって言うのか」
「お前を許すわけにはいかない」
「知ってしまったんだな」
プレートを挟んで二人は対峙していた。
吾朗は続けて言う。
「ここに来た理由も思い出したか?」
「……」
「ここに来た理由だ」
直樹は思ってもいない問いに動揺していた。
頬を殴った手の痛みより、その質問の方がずっと痛烈に直樹に刺さっていた。
「理由なんかどうでもいい」
直樹がそう言った直後、その場で転んでしまう。
吾朗がプレートの下を潜って、足をはらったのだ。
吾朗はそのまま直樹の側に出てくると、直樹の上にのり押さえ込んだ。
「ほら、時間をやる」
吾朗の方が体は小さいが、抑えるポイントが良いのか直樹が必死に体をくねらせても動かない。
足を引っ掛けることも、膝で打撃しようにも、うまく足が曲がらない。
「チクショウ!」
吾朗は直樹の頬を平手打ちした。
その瞬間、直樹の頭の中に記憶が蘇った。




