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ユキエとエリコ  作者: 壱
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3.トシオ

 僕がユキエに出会ったのは本当に偶然だったのだが、この時にユキエと出会えた事は運命なのだと思った。

 初めて、ユキエに出会ったのは僕がよく行くカフェに行った時だった。

 

 そこは読書カフェで様々な本、小説が置かれていて、高校生の頃から読書好きの僕にとっては、まさに楽園のような場所。

 

 その日は、仕事終わりに本屋へ寄ったあとにカフェを訪れた。金曜日は毎週ここに来ている。

 

 店内に入ると、いつものようにBGMが聴こえる。

 クラシックなのかジャズなのか、音楽に疎い僕にはわからない。店長のセンスなのだろうか?しかし読書が進みやすいBGMなのは間違いない。

 

 僕はいつも同じ席に座る。店の1番奥にある誰にも干渉されない位置にある席。いわゆる特等席。


 その席で読書をする事が1週間の疲れやストレスを発散させてくれる癒しになっている。

 

 しかし、そこにはすでに先客がいた。若い女性のようだが、彼女も読書をしているようで、視線を本に落としている。

 俯いているので、顔はよく見えない。

 席を予約してるわけではないので、仕方のないことだと諦め、僕は別の席に座る事にする。

 

 おしぼりを持ってきてくれた店員さんに、アイスコーヒーを注文すると、さっそく先ほど本屋で買った小説を読み始める。

 

 この本は先月発表された、とある賞を受賞した本で、いま最も売れている本と言ってもよいだろう。

 

 読み始めてすぐに注文したアイスコーヒーがテーブルに置かれる。

 僕はコーヒーはブラックしか飲まないのでミルク、砂糖やシロップは入れない。

 やはり、大賞を受賞するほどの作品ということもあって、夢中になりすぎて時間を忘れてしまっていた。


「あの、これ落としましたよ」


 誰かに声をかけられ本に向けていた顔をあげる。

 1人の若い女性が立っている。

 率直な感想は清楚系な美人。

 肩にかかるくらいの黒髪で、服装は白いシャツに黒のスカート、一般的なOLといった印象だった。

 

 こちらが、何も反応せずにキョトンとしていると、彼女は少しだけ首をかしげ、不思議そうに僕の顔を見ている。

 

 彼女が差し出した手を見る。僕の栞だった。革製で、かれこれ十年近く使っている。

 

 どうやら、読書に夢中になりすぎて栞をテーブルから落としたことに気づいていなかったらしい。

 

 差し出された手から栞を受け取る。

 少しだけ彼女の指がトシオの指に触れた。

 彼女の指はすらっとしていて、爪も手入れさているのかピカピカと光っている。トシオは派手な爪の女性は苦手だ。

 マニキュアが塗られていない事に、個人的な好みだが好感が持てた。


「ありがとうございます」と礼を言う。

 

 彼女が一冊の本をトシオに見せた。


「あっ、今僕が読んでるのと同じですね」


「はい、いま私も読んでます。話題の本なので今日買ったんですよ」彼女は答える。


「奇遇ですね。僕もさっき買ったばかりですよ」


「同じ本を読んでる人を見つけると、なんだか嬉しくなっちゃって、あなたが栞を落としたのを見て、これは声をかけるチャンスだと思って」彼女は嬉しそうに言った。

 

 読書好きあるあるなのか、本を読んでいる人を見つけると、どんな本を読んでいるのか気になってチェックしてしまう。

 

 しかし、話題の本と言えど同じ本を同じ空間で読んでる人に出会う事はほとんどない。

 彼女が嬉しそうにする気持ちもわかる。


「あっ、ごめんなさい。読書の邪魔しちゃって」と言い残し、彼女は自分の席に戻る。

 彼女の後ろ姿を無意識に目で追ってしまう。

 

 一番奥の席に彼女は座った。トシオの特等席の先客はどうやら彼女だったようだ。

 

 僕は再び読書に集中する。

 腕時計を見る。19時55分。カフェに入っていつの間にか2時間近くが経過していた。

 ふと特等席に目をやると彼女の姿はすでになかった。読書に集中していたせいで、いつ席を立ったのかはわからなかった。

 少しだけ残念な気持ちになる。

 

 そろそろ帰ろうと思い、本を鞄の中に入れ、会計を済ませた。

 カフェの扉を開ける。


「あれ、雨か」トシオが独り言のように呟く。


「そうですね。困りました」と何故か返事が。

 入り口のすぐ隣に栞を拾ってくれた女性が立っていた。


「私、傘持ってなくて」


「僕もなんですよ。本読むのに夢中で雨降ってるなんて全然気付きませんでした」


「あの、良かったら雨が止むまで中で少しお話しませんか?」彼女の提案に断る理由もない僕は、快くそれを快諾した。

 

 先ほど店を出たばかり者同士が、また同じ店に入店するのを店員はどう思うのだろかと少しばかり考えてしまう。


「席、どこにしますか?」


「あぁ、あの席がいいです」

トシオは特等席を指差す。


「さっき、私が座ってたとこですね」彼女はスタスタと歩いて僕の特等席に向かう。


「この店にはよく来るんですけど、いつもこの席に座るんですよ」僕はイスに座りながら言った。


「あっ、そうなんですね。じゃあ、私があなたの特等席を奪っちゃってたんですね」彼女はごめんなさいと謝ってきた。

 

 自分勝手に決めた特等席の事で謝られると、なんだか気が引ける思いだ。


「僕が勝手に言ってるだけで、どこの席に座るかは自由ですから。謝らないでください」


「あの、お名前を伺ってもよろしいですか?」

 互いに自己紹介を済ませる。


 それからは、今日読んでた本の事、今まで読んだ中での自分なりの最高傑作などの話で盛り上がった。

 

 いつしか、互いにトシオさん、ユキエさんと名前で呼び合っていた。

 

 趣味の話で盛り上がるのってこんなに楽しいことだっけ?と思った。

 それは話をする相手が彼女だからだろう。

 

 彼女は僕の目を見ながら喋ってくれる。その綺麗な瞳に吸い込まれそうだ。

 それに、笑顔もとても可愛らしい。

 初対面のはずなのに、これほど打ち解けられるとは思ってもみなかった。

 

 彼女の笑顔と見つめるその瞳に、僕ははだんだんと惹かれていく。





 


読んでいただきありがとうございます!


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