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ユキエとエリコ  作者: 壱
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2.ユキエ

 ユキエはふと空を見上げる。

 

 どんよりとした灰色の雲が広がっている。今にも降り出しそうだ。

 

 恋人のトシオからのデートの誘いで、今日はとあるレストランへと来た。

 

 ここには一度だけ来たことがある。

 私をトシオの父親に紹介したいと言って、食事の席に招かれた。

 

 トシオはまだ到着していないらしく、雨も降りそうなので、先に中で待ってますと連絡を入れた。

 

 店の中に入ると、受付の女性がすぐに私に気付いた。一度来ただけなのに、私の事を覚えていたのか?と感心したいところだが、なぜ受付の彼女が私を覚えているのか知っている。

 

 この女性は、トシオに好意があったからだ。トシオは父親以外にも、会社の幹部連中とよくここのレストランに来ると言っていた。

 おそらく、社長の息子で次期社長になるであろうトシオにゴマをすってる連中だろう。


 トシオは顔立ちも良いのでモテる。それに、社長の息子で金持ちというステータスもある。

 よくこのレストランに訪れるイケメン金持ちに、この受付の女性も惹かれたに違いない。この女も単純で馬鹿な女だ。

 

 トシオは女好きで女性に優しいので、この受付の女性に対しても気さくに声をかけていたのだろう。もしかしたら、連絡先くらいは交換したのかもしれない。

 

 私がトシオに連れられてこのレストランを訪れた時、彼女は目を見開いて私の顔を見ていた。まさか、恋人がいるとは思ってもいなかったのだろう。その一瞬で受付の彼女の恋は終わったわけだ。

 

 その受付の女性に、予約してある個室へと案内された。

 

 このレストランで食事する時はいつもこの部屋。芸能人や政治家が密会をする時にもよく使われる部屋だとかトシオが言ってたが、正直私は興味がない。

 

 おそらくだが、今日はプロポーズされるのだろう。彼はサプライズのつもりだろうから、気付いてないフリをしなければ。

 

 私に隠し事は不可能だ。

 今の彼の行動は手に取るように把握している。車と家に仕掛けた盗聴器。

 そして、隠しカメラ。それにスマホに仕込んだGPSアプリ。

 彼がいつどこにいるのかも全て私にはわかる。そのGPSアプリによると彼はもうすぐ到着する。

 

 サプライズにかかったフリをしなければいけないと思うと憂鬱になる。演技は得意なので簡単ではあるが。涙でも流してやるか。いや、涙で化粧が崩れたらめんどくさいので却下。

 

 色々と演技プランについて考えてるうちに彼が到着したようだ。

 彼が遅くなってすまないと詫びてきたので、私もさっき着いたばかりと微笑んだ。

 彼は私のこの微笑みに弱い。私が少し笑みを浮かべるだけで、トシオはとても幸せそうな顔をする。

 

 トシオが席に着くと、飲み物を注文してくれた。

 コース料理を予約しているらしく、ここの料理はどれをとっても美味しい。

 こんなに美味しい料理を、彼は小さい頃から父親に連れられて食べにきていたのかと思うと、理不尽な世の中だなと思ってしまう。


 私は5歳の頃から施設で育ったので、外食することすらなかった。こんな高級レストランで食事をしたのも、彼とその父親との食事が初めてだった。

 

 トシオの父はなぜか私の事を気に入ったようだった。トシオの女好きは父親譲りなのだろうから、好みの女性のタイプも似ているのかもしれない。

 私は外見や仕草、振る舞い方などトシオの好みのタイプに寄せるようにしているので、必然的にトシオの父の好みにもなっていたのだろうか。

 

 彼はよく喋る方で、食事中も会話が途切れることはない。気さくに喋りかけるその性格が受付の女性を翻弄させていた事をこの男は知らないのだろう。

 

 私は聞き役なので、適度に笑みを浮かべて適度に相槌を打っておけば、彼が喜ぶのを知っている。

 

 今日プロポーズされれば、ようやく結婚できる。この日が来るまで5年かかった。ここからが、本番だ。私たちの計画はここから始まる。

 

「そういえば、私がここに来る途中雨が降りそうだったけど、トシオさんが来るときは降ってなかった?」と聞いてみる。


「いや、まだ大丈夫だったけど、かなり降りそうだっから今頃降り始めてるかもしれない」

 トシオがそう言うと、私は微笑みながら「良かった」とだけ言って食事を続ける。


「雨の日なると、ユキエと初めて出会った日の事を思い出すよ。雨が降ってたおかげで、今の僕たちがあるようなものだからね」


 彼は出会ったその日を思い出すように言った。



 

 


 



 

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