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ユキエとエリコ  作者: 壱
2/7

1.トシオ

 トシオはふと空を見上げる。

 

 どんよりとした灰色の雲が広がっている。天気予報では晴れのはずだったのだが。

 しかし、天気予報なんてものはあてにならない。

 技術の発展によって天気予報の的中確率は上がっているのはもちろん知っている。

 しかしながら、刻々と変化していく自然現象の動きを人が予想するなんて不可能だ、と僕は少しばかり捻くれた考えを持っている。

 

 そんな事を考えながら、歩みを進めていると、予約してあったレストランの前へ到着した。

 今日は一生に一度と言ってよいほどのイベントがある。

 恋人のユキエにプロポーズをするのだ。

 

 雪絵はすでに到着していると連絡があったので、店の中で待っているだろう。

 僕が先に到着して待っているつもりだったのが、仕事の都合がつけられず、本来予定していた到着時間を過ぎてしまった。

 

 ユキエからの連絡があったのも5分前くらいだったので、それほど待たせたわけではないが、少しばかり心苦しく思った。

 

 僕は人を待たせるのも、待たされるのもあまり好きではない。

 ユキエは物凄くおっとりとしていて、穏やかな性格をしているので、相手側に事情があるのなら何時間でも人を待てる性格だろうと勝手に思っている。

 

 僕は大きく深呼吸をして、レストランへと入った。

 

 ここは、いわゆる高級レストランと言われる店なのだが、大手企業の社長の一人息子であるトシオは、父に連れられよく食事に訪れていた。

 

 行きつけというと語弊があるが、値段もかなりお高めの設定なので、自ら予約してここを訪れるのは実は初めてなのだ。

 ほとんどが、父か、父の会社の幹部連中に連れてきてもらっていて、僕自身がお金を払った事は一度もない。

 

 トシオも大学を卒業した後に、父の会社に入社したわけなので、社長の息子に取り入ろうとする連中が周りに集まってくるわけだ。 

 父も、もう若くはないので、いずれはトップの座を退く事になる。つまり、次期社長になるであろう僕に対して、早いうちに恩を売って気に入られようとしている。トシオはそういう連中は好きではない。

 

 昔からそうだった。学生時代の頃も、僕に言い寄ってくる連中は大企業の社長の息子という肩書きを見ている。付き合った女性達もお金持ちだからという理由ばかりのバカな女達だった。

 

 入口から顔を出すと、受付にいる女性スタッフがすぐに予約をしているトシオだと気付いたようだった。


「お持ちしておりました。お連れ様はすでにお部屋に案内してしておりますので」

 

 そう言われて、予約してあった個室へと案内してもらった。ここで食事をする際にいつも使う部屋。ここはほとんどが個室になっていて、芸能人や政治家がお忍びで利用することもあるようだ。

 トシオも一度だけあの有名俳優と有名女優が2人揃って入ってくるのを目撃したことがある。しかし、ここに通うお客やスタッフ達から外部に情報が漏れることはまずないだろう。

 

 個室に着くと、ユキエはすでに座っていた。テーブルの椅子に座っているだけでも絵になるような美しさが、ユキエにはある。

 遅れた事を詫びると、雪絵は笑みを浮かべながら


 「私もさっき来たばかりだから」と言った。

 

 トシオが席に座ると、ユキエが見つめながら微笑んでいる。


「ん?どうかした?顔になにか付いてる?」

 

「いえ、トシオさん何だか緊張してるみたいな顔をしてて、少しおかしくて」ユキエはクスッと笑った。

 

 たしかに今日は一世一代の勝負の日。しかし、こんなにも緊張が顔に出るとは思わなかった。もしかして、プロポーズするってバレたかな?と思った

 

 ユキエは勘の良い人だ。こんな高級レストランを予約した時点でバレているかもしれない。

 

 ユキエがここに来たのは初めてではない。父に恋人を紹介したいと言った時に、それでは一緒に食事をしようと父に誘われて、トシオ、ユキエ、父の3人でここで食事をした。


 母は僕が小学生の頃に離婚して出て行ったし、ユキエも両親を早くに亡くしていて、施設で育ったと聞いている。

 

 そんな境遇のユキエを父が受け入れてくれるか不安だったが、父はユキエをいたく気に入り、結婚はいつするんだ?と言ってくる始末だった。

 

 料理は事前に予約してあったコース料理の予定。食事の間も、会話は途切れる事はない。

 ほとんどトシオが喋っているのだが、ユキエは僕が話す内容に対して優しく相槌を打ってくれる。ユキエはお喋りな方ではないが、とても聞き上手だ。

 

 見た目は決して派手ではないが、和服の似合いそうな黒髪の美人。和風姿を見た事があるわけではないので、僕の勝手な妄想なのだが、世間一般的に見ても美人だと思っている。

 今日は残念ながら和服ではないのだが、お洒落なドレスに身を包んだ雪絵は、いつも通りの美しさだった。


「そういえば、私がここに来る途中、雨が降りそうだったけど、トシオさんが来るときは降ってなかった?」と雪絵が聞いてきた。


「いや、まだ大丈夫だったけど、かなり降りそうだっから今頃降り始めてるかもしれない」

 

 僕がそう言うと、ユキエは良かったと笑みを浮かべ食事を続けた。


 「雨の日なると、ユキエと初めて出会った日の事を思い出すよ。雨が降ってたおかげで、今の僕たちがあるようなものだからね」

 

 トシオは、思い出を語るようにそう呟いた。



 

 


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