五十七、クリス対ゲルド
クリスとゲルドの戦闘が始まった。ゲルドの後ろで控える二人はゲルドの勝利を確信しているようだが、俺達は違う。この一週間ずっとクリスの事を見てきた。だからこそ言える。クリスは強い。
ゲルドの攻撃を防いだクリスが反撃を加える。槍を使わずに蹴りを入れて。その攻撃が予想外と言った様子のゲルドは、もろにクリスの蹴りを受けた。
「卑怯者、正々堂々と戦えよ」
クリスから距離を取ったゲルドがそんなことを言っている。その言葉に、俺達や二人の戦いを見ている町の人達もマジかといった表情をしていた。
今回仕掛けてきたのはゲルド。しかもルール無しの戦い。そんな戦いで卑怯なんて言葉は存在しない。それなのにそんなとぼけたことを言うなんて考えられない。
「はぁ~、あなたは何を言っているんですか?」
クリスがため息をつきながら言っている。それそうだよな俺も思う。
「これはあなたから仕掛けて来たことで、私は自分の身を守るために戦っているだけです。それに卑怯も何もありません」
クリスが力強く言う。それに対して何も言わずにただクリスを睨みつけるゲルド。
「ファイアーショット!」
ゲルドがクリスに向かって火魔法を放つ。小さな火の弾を複数。貫通性の高い攻撃、一週間前のクリスではこの攻撃で終わっていたかもしれない。
だが、今は違うよな。
「ウォーターシールド」
クリスは正面に水の盾を出す。水の盾により、ゲルドの放ったファイアーショットは全て打ち消されてしまう。元々火と水で相性がいい上に、実力もクリスの方が上、防げないわけがない。
「お、お前、そんな魔法使えなかっただろうが!」
「この一週間で覚えたんです」
そう言うとクリスは、ゲルドへと向かって行く。今度は自分の番だと言わんばかりに。
真っ正面から放たれる高速の突き、同格の相手であれば簡単に防がれてしまうような攻撃。だが、クリスとゲルドとの力の差はかなり離れている。そのことは鑑定を使えないクリスでも理解しているだろう。だからこそのこの攻撃なのであろう。
「そんな攻撃……!」
何かを言おうとした瞬間にクリスの攻撃が襲い掛かって来て、防ぐのに精一杯になるゲルド。先ほどまでの余裕の表情はなくなり、険しい表情へと変わる。そのことから、クリスがかなり強いと理解はしたんだと思うが、
「その程度かよ。少し厳しい表情をしたら手を止めやがって、余裕のつもりかよ」
かなり強がっている事は一目瞭然。そのことは冒険者でもない町の人達でさえ分かる。
「もうやめにしませんか?」
クリスがゲルドに声を掛ける。
「こんな無駄な戦いを続けても何の意味もありません。だから、もうやめにしましょう」
クリスらしい提案だ。俺が同じ立場でもそうしていたと思うが。
「お前は何様のつもりだよ。自分の立場を考えて物を言えよな!」
ゲルドがものすごい勢いでクリスに向かって行く。そのことに対してクリスは、
「はぁ~、そうですよね。これで話を聞いてくれるなら苦労はしてませんよね」
槍を構えてゲルドに向かって行く。
クリスに向かって剣を振り下ろすゲルド。それに対してクリスは最低限の動きで攻撃を躱し、一歩後ろへ下がる。そして、手に持っている槍でゲルドへと攻撃をする。ただし、槍を逆に持ち。
「これで終わりです」
クリスはゲルドを倒した後、俺達の元へと戻って来た。それと同時に、ミラーさんがギルド職員の人達を連れて戻ってくる。
「マイルさんこれは」
「今さっき終わりましたよ。クリスの勝ちですね」
「そうですか。では皆さん、彼ら三人をギルドへ連行してください」
「はい!」
ミラーさんの指示でギルド職員の人達が、戦意消失しているゲルド達を連行していく。そこから残ったギルド職員の人達が町の人達に事情を聞いてくれている。
「これでクリスさんの一件も終了かな」
「そうですね。ただ、今回の件に関しては、彼らに何の話もしなかった俺達にも少し責任があるような気もしますので、出来る限り穏便に済ませていただければと思います」
「私からもお願いいたしますお姉様。彼らはあれでも私の幼馴染ですので」
「分かりました。仲間のお願いです。出来る限りの事はさせていただきます。マイルさん、私はギルドの方で今回の件についての処理が有りますので、先に冒険者ギルドへと戻っていますね」
「分かりました。俺達はゆっくりと戻ります」
ここで一旦ミラーさんと別れる形となった。それから少しギルド職員の人達から話を聞きたいと言われたので、先程の一件について話した。職員さんの話によると、町の人達との話とも一致しているために、クリスは特に罰が下ることはないそうだ。ただ、今後は町の中での戦闘だけが控えて欲しいと言われて解放されたため、冒険者ギルドへと向かうのであった。
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