護剣使い
一時的に代表作とします
ジェントさんの合図と同時に、リフィアさんが駆け出す。
速い。
集中していてギリギリついていけるレベル。
「先手はいただくぞ。守りな」
リフィアさんの忠告とともに、強烈な横斬りをくらう。
体ごと後ろに飛ばされたが、体勢を保ったお陰で壁に激突は防げた。
重い!
これが木剣の威力なのかと疑ってしまう。
リフィアさんは同じように距離を詰めてくる。
上からの攻撃を左へ流す。
「耐えるとはやるじゃねえか」
「どうもです」
「じゃあこいつはどうだ?」
リフィアさんは横薙ぎを仕掛けてくる。
まだついていける。
薙ぎを剣で受け、その力を利用して体を一回転。
カウンターの横斬りをお見舞いする。
「おっと」
リフィアさんはやすやすと弾き返す。
少し体勢を崩してしまった。
「そこだな」
僕の右肩に向けてリフィアさんは突きを飛ばす。
「危ない!」
体を捻って突きを避け、地面に左手をつく。
リフィアさんの驚く顔が視界に映る。
(少し意表を突いてみようか)
右足で地面を蹴り、リフィアさんが持つ木剣を天井めがけて蹴り上げる。
バカン、と大きな音が鳴る。
木剣から手を離すことはなかったものの、リフィアさんは予想外だったであろう僕の動きに面食らってしまったようだ。
しかし、すぐに意識を変えたらしいリフィアさんはそこから怒涛の剣撃を繰り出してきた。
その剣撃を落ち着いて対処していく。
時には受け止め、時には流し、時にはカウンターを混ぜ入れて。
先程のようなミスはしない。
攻め時を逃し少し慎重になったであろうリフィアさんは、虚を衝くように下から切り上げを仕掛けてきた。
これには少し驚いてしまう。
咄嗟に剣の平で受け止めたが、体を浮かせてしまった。
曲芸師の如く空中を二回転し、着地する。
僕は落ち着いて後ろに跳び距離を取る。
「はっはっはっ!こいつは予想外だったぜ!」
リフィアさんは快闊に笑う。
「確かに体術を使うな、とは言ってねえからな!これは一本取られたな」
「ありがとうございます」
「いや、凄えな。剣捌きは勿論のこと、体術も目を見張るもんだよ。後半なんざあたしの動きにほとんどついて来てたぜ」
リフィアさんは首を鳴らせて言う。
「ハルク、あんたは一人前の長剣使いだ。あたしが認めるよ」
周りが軽くどよめく。
流石に二つ名で呼ばれている方に認められると嬉しいな。
リフィアさんは軽く深呼吸し、長剣を構え直す。
「サービスだよ。全力で打ち込んで来な、護剣使いの凄さってもんを見せてやるよ」
リフィアさんの雰囲気が劇的に変わった。
第二回戦に突入だ。
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「…あのガキ中々やるな」
「"赤銅"の剣にあそこまでついて行くのは素直に凄いですね」
「長剣使いにしてはやけに身軽だな」
「前衛やって欲しいんだけど…スカウトしようかな」
「…カッコいい」
観客の冒険者たちがひそひそと話している。
まあ目の前で繰り広げられている激戦を見ていたら仕方のないことだろうけど。
僕は今、一人の旧友と一人の少年が闘っているのを見ている。
模擬戦の立会人としてだ。
リフィアは相変わらずだ。
豪快に攻め掛かり、しかし的確に相手の動きを見て一撃を篭めて放つ。
守りに主眼を置く長剣使いには珍しい、攻めの戦法だ。
今までどんなモンスターもどんな冒険者もその戦法で打ち負かせてきたものだった。
僕も最後まで苦手だった。
彼女には何度自慢の槍をはねとばされてきたか。
加えて彼女は全盛期の成長には及ばないものの、現在もなお更に強くなっている。
彼女は僕の知る限り最高の長剣使いだ。
そんな彼女に、少年が良い勝負を繰り広げている。
到底信じられない光景だった。
当初、その少年、ハルク君にはリフィアとまともに闘えるほどの実力はないと思っていた。
その予想を裏切る闘いとなった。
リフィアは真剣にハルク君に向かっている。
今なんて、ハルク君を認めた宣言したからね。
ここまで楽しんで闘う彼女の姿は初めて見たかもしれない。
ただ、ハルク君。リフィアは手強いよ。
彼女は長剣使いのその先、
護剣使いだからね。