まずは防具を見繕う
時間がないです
レフの圧倒的なステータスに驚いた僕は、同じく顎を外しかけたジェントさんとアリーナさんに見送られて冒険者ギルドを後にした。
そして今僕は、防具屋に向かっている。
知る人ぞ知る名店で、店主の腕はこのバルクスク一であると言われているらしい。
ギルドを出る前にジェントさんに教えていただいた。
その時僕は薄めの外着とリュックサックしか身に着けておらず、防具を持っていなかったことに初めて気がついた。
確かによく考えたら僕長剣しか持ってなかったわ。
これでよく問題なくギルドに入って受付できたな、と自分に呆れた。
狩りの時も基本、固めの革の上着しか着てなかったから防具がないのを変だと思ってなかった。
心の中でジェントさんに感謝しておこう。
------------
そうこうしているうちに目的の場所に到着した。
防具屋“天の吊橋”という店だ。
こじんまりとしていて、外装も少し控えめだ。
「いらっしゃい」
ドアを開けると細身で背の高い若そうな男性が出迎えてくれた。
「見ない子だね。冒険者希望かい?」
「はい。今日登録したばっかりなんです。ギルドマスターのジェントさんの紹介で来たんですけど」
「何、ジェントが?それは嬉しいね」
ジェントさんの名を聞いて男性は嬉しそうに笑った。
「お知り合いなんですか?」
「古くからの付き合いさ。あいつが駆け出しの冒険者の時に出会ってね。そのころ僕はまだ行商人だったんだけど荷物持ちとしてずっと冒険に同行していたんだ。勿論、今も大事な友人だよ」
だとしたら年は近いのか?
この人はジェントさんほど老けては見えないけどな。
「さて、ジェントの紹介なら張り切らないとね。僕はジェスターという。君は?」
「ハルクです」
「よろしくハルク君。腕によりをかけて君だけの防具を作るよ」
------------
「え?今から作るんですか?」
突然のジェスターさんの発言に驚いた。
「うん。うちはオーダーメイドを売りにしているからね。そこらに飾ってあるのも全て僕の手作りさ
」
壁に掛けられている革の鎧や鉄製の丸盾、果ては高そうなローブも全てジェスターさんが作ったそうだ。
「ジェントから聞いてないのかい?」
「はい、そういうことは何も」
「そうかー、じゃあどうしようかな。ハルク君、予算どれくらい持ってる?あんまり多くないならサービスするけど」
初心者には手痛い出費だと思われてるのかな。
「いいんですか?」
「いいよいいよ。その代わりこれからもこの店をご厚意によろしくね」
なんていい人なんだ。
この町こんな善人ばっかりいるんか?
「じゃあ作業に取り掛かりたんだけど、まず希望を聞かないとね。どんなものにしたい?大体のリクエストには応じるつもりだよ」
「そうですね…なんかこう、あんまり目立たない無骨な感じがいいんですけど」
「ほうほう。重さはどうするの?」
「最低限の部品だけのやつにしてください。硬さよりも軽さ重視で」
「それでいいのかい?君が背負っているのは長剣みたいだけど」
確かに本来長剣戦士は長剣と厚い鎧で敵の攻撃を受け止め、カウンターを狙う戦術を行うのがセオリーだ。
だが、僕の戦い方は特殊だった。
「僕は受け止めるよりも回避する方が得意なんで…硬い装備は要らないんですよね」
身長があまり高くないのを活かして回避主体のスタイルで戦っていたのだ。
「んー…なるほどね。あー、ちょっと待っててくれるかい?」
ジェスターさんはカウンターに置いてある通話機で誰かと連絡を取り始めた。
使い慣れているのかタイピングが恐ろしく速かった。
「よし。いきなりなんだけど、ハルク君に会ってほしい奴がいるんだ。すぐに来ると思うけど…っと来た来た」
振り返ると女性が勢いよく扉を開けて店に入ってきたのが分かった。
通話機
…魔力を通じて簡単な連絡が取れる魔道具。
電話みたいなもの。