呼び出しを受ける
十一月に定期テストが控えています
「…お待たせしました、ハルクさん。こちらがギルドカードです。私、受付員長をしていますアリーナと申します」
さっき受付をしてくれた女性はアリーナさんというらしい。
「それではギルドについて説明いたしますのでこちらへ」
僕はアリーナさんに率いられてロビーの端の丸テーブルに座り、説明を受けた。
言われたことを要約すると、
・ランクは下からE、D、C、B、A、S。
・Eランク冒険者は採集任務10回、討伐任務1回でDランクに格上げ。
・受付は新規登録受付、任務受付、解体受付、依頼受付、ヘルプ受付に分かれる。
・パーティー結成はDランクから可能。
・任務は予約制。出発前に任務受付での予約が必要。
・任務の同時予約は二つまで。
・ギルドカードの再発行は銀貨十枚。
・ギルド内での冒険者の互いへの妨害行為は禁止。場合により処罰がある。
こんな感じ。
「重要なのはこれくらいですね。おいおい疑問を持たれましたらヘルプ受付にお越しください」
もう説明終わったのか。
全部覚えられるか心配だったのに。
まあでも忘れたときはヘルプ受付に行けばいいか。
やけにさっぱりした説明だったわ。
アリーナさんの説明がわかりやすかったんかな。
「あ、ハルクさんすいません。少しお時間頂いてもよろしいですか?」
早速防具を見繕いに行こうと思ったらアリーナさんに呼び止められた。
「はい、大丈夫ですけど」
「お手数おかけしてすみません。こちらへ」
彼女に案内されて着いたのは地下運動場だった。
「少しここでお待ちください」
アリーナさんはそのまま運動場を出て言った。
それにしてもすごいな、地下に運動できる場所があるなんて。
ギルドの一階分の広さはあるんじゃないか。
かなり頑丈そうで、六方が石壁で短い間隔で鉄柱が備わっている。
ただそれでも破損することがあるのか、所々改修されてるのが見てわかる。
「おお、君がハルク君かな?」
地下運動場を観察していたら、アリーナさんが大柄な男の人を連れてきた。
「はい、そうですけど」
「僕はここのギルドマスターをしているジェントだ。よろしく」
「ご丁寧にどうも、ハルクです」
屈強な見た目によらず、腰が低い温厚そうな人だ。
「ところで、なぜギルドマスターのジェントさんがわざわざ僕に?」
「ああ、そのことなんだけどね。いきなり本題に入るけど、君の従魔を見せて欲しいんだ」
レフを見せて欲しい?
「いいですけど、何故ですか?」
「いや、ただの確認なんだ。新人の従魔術師にはギルド職員による確認が義務付けられているんだけど、君の場合はあの"指定警戒A"の邪腕をテイムしているなんて、にわかには信じられなくて」
"指定警戒A"?
「しかも上位種の暴虐腕に進化しているなんてね」
「すいません、その"指定警戒A"って何ですか?」
「ああ、ごめん。知らないのも無理はないか。実はね…」
そこで僕が聞いたのは、このレミスト共和国で起きたとある事件のことだった。
通称、エマナ邪腕事件。
エマナの市長が邪腕の存在に気づき、近くの街の領主に討伐を申請したが無視され、そのままエマナが邪腕に滅ぼされたことがあったらしい。
その邪腕はAランクパーティーによって討伐されたらしいけど、それでも事件が広まるにつれて邪腕への恐怖が強まっていったようだ。
そりゃ怖いよね。単体で都市を一つ滅ぼせるんだからね。
ちなみにその領主は公開処刑。自業自得だと思う。
「だから君が本当に邪腕を手なずけていて、勝手に暴れることがないのを証明してほしいんだ。ステータスボードを見ればテイムされているのは明らかにわかるんだけど」
「それならいくらでも証明しますよ」
「じゃあ早速お願いするよ」
「わかりました。レフ、聞いてたでしょ?出てきていいよー」
僕がその名前を呼ぶと、レフはその丸太のような筋肉とともに地面から現れた。
「おお、これはこれは立派なものだね」
「…」
ジェントさんは軽く驚きつつも目を輝かせているけれど、アリーナさんは恐れるようにレフを見上げていた。
「…なんというか、僕が現役冒険者だった時に一度見たことのある邪腕とは大きく違ってやけに健康的な筋肉を持っているけれど…暴虐腕に進化するとこうなるのかい?」
「進化による変化はわかりませんが、僕の場合は見つけたときすごく弱ってたんですよ。倒した魔物を目いっぱい食べさせて家の農業を手伝わせていたらこんなことになってました」
村では主に荷物の運搬を任せていたからなあ。
藁の俵三十個くらいなら引きずることができてたしな。
「そうなのか。ということは意思の疎通は問題ないか」
「大丈夫ですよ。人間をはじめ大体の生物の言ってることわかるっぽいんで」
近所の飼い犬たちと追いかけっこしてたり牧場ゾーンの牛たちと会話みたいなことしてたりしていたのを見たことがある。
「うーん、じゃあ問題ないかな。ハルク君、レフ君の従魔登録を承認するよ」
「ありがとうございます」
「あ、ちなみにこれは義務じゃないんだけど、出来たらレフ君のステータスも見せて欲しいんだ。もちろん絶対に他言しないし記録にも残さないよ。僕の興味本位だから」
レフのステータスかあ。
確かに気になるしなあ。
「それならいいですよ。いいよね、レフ?」
レフは同意するように頷いた。
「ありがとう。アリーナ、あれを」
「こちらに」
アリーナさんはさっきの水晶をジェントさんに渡した。
「レフ君、これに手をかざしてほしい」
それ、レフの手に比べたら小さすぎると思いますけど。
レフもそう思ったのか、悩んだ末に人差し指を水晶にちょんとつけた。
その後、僕の時と同じようにレフの目の前にステータスボードが出現した。
水晶に写し出されたものを見てジェントさんは冷や汗をたらし、アリーナさんは目を見開いていた。
そんなに驚くものなのか。
僕は横からレフのステータスボードを覗き込んだ。
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名 前:レフガンディ
年 齢:24
種 族:暴虐腕・A
状 態:健康
従 主:ハルク
称 号:アタカ村の守護者 名持ち
クラス:狂戦士
個 技:『献身』(A)
レベル:30[285/3000]
体 力:4985/4985
魔 力:3555/3555
攻 撃:394
防 御:258
俊 敏:16
知 性:84
器 量:16
スキル:拳術Ⅳ・闇魔法Ⅴ・空間魔法Ⅲ
体力増強Ⅳ・攻撃増強Ⅲ・防御増強Ⅱ・闘気Ⅱ
投げⅢ・掴みⅢ・光魔法弱点・物理耐性Ⅲ
運搬Ⅴ・耕作Ⅳ・採集Ⅱ
身代わり・状態変化・再生・腐食液・影潜り
忍耐・献身・食いしばり・ノックバック
必殺技:地割り・狂戦・影送り
エアーガード・ダークサイド・ディメンションウェーブ
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確かにこれは村を滅ぼせちゃうやつだわ。
ジェント(化け物だけどハルク君が嘘をつくと思わないし大丈夫だと信じよう…恐ろしい化け物だけど)