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「ていうか、私もそろそろ卒業したかったし。考えてみたら、他にもわりのいいバイトいっぱいあるし。だから、りなも辞めたがってるのかなーと思って」
「安井さんにチクれば店が潰されて、それで自分もりなも辞められると思った?」
「てか、ウザい!めんどくさい!気持ち悪い!何なの、もう帰るよ」
沙希はアヒルのように可愛らしく唇をとがらせて立ち上がる。
私はさっき食べていたイカスミスパゲッティーが急激に喉を逆流してくるのを感じて、トイレに駆け込んだ。
グレープフルーツジュースみたいな味のゲロを吐いて、便器のそばの薄汚い床にうずくまる。
何もかもがひどく臭かった。
「……気持ち悪い」
こんなの初めから分かっていたことなのに。
額が汗ばむ。嘔吐したての胸底が、きな臭く痙攣している。
私は目をつむった。
これ以上何も見たくない。
ただ誰からも見捨てられたこの場所で、這いつくばりながら蛆虫のように聞いていよう。
私の中で少女が死んでいく、その脆くて眩しい、たった一つの音を。
【終わり】