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りなが学校を辞めたのは、12月末のことだった。
10月に入ったころから学校に来なくなっていたりなの存在を誰もが忘れ去り、退学は自然消滅として受け入れられた。
家から遠く離れた精神病院に入院しているのだとも、男と一緒に海外に逃げたのだとも、いろいろ言われてはいる。
そのどれもが本当でないことくらい、私には分かっていた。
「鈴木さんだったんだって」
いつものファミレスでドリンクバーからメロンソーダを持ってくるなり、沙希はさらりと切り出した。
「何が?」
「りなの彼氏」
いきなり何、と鼻白む私に気づいているのかいないのか、沙希は紙ナプキンで鶴を折りながら続ける。
鈴木というのはあの事務所で働いていた人で、安井さんの部下だ。
年は鈴木さんのほうが大分上だけど。
いつもきまってる安井さんとは違って、鈴木さんの格好はみすぼらしくて、卑屈な笑い方をするおじさんだった。
「何か鈴木さんって、安井さんに内緒で勝手に違うお店やってたらしいよ。それで女の子たちが皆そっちに流れちゃったんだって。それを手伝ってたのが、りなだったらしい」
ふっと指先に息を吹きかけて、不安定な白い鶴はぐしゃりと墜落する。
私は背筋が嫌な具合に湿っていくのを感じていた。
「それ、誰に聞いたの」
「てか、私もちょいちょい手伝ってたんだよね、あのお店。2つかけ持ちすんの超しんどかったー」
「誰に聞いたのか聞いてるんだけど」
「何怒ってんの。こわーい」
と茶化す瞳は不遜で愛くるしい。
聞いたと同時に、答えは手のひらの上に乗せられていた。
私はそれを、確かめたくなかっただけだ。