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「もしもし」
『あー、もしもし?俺だけど』
「お疲れさまです、安田さん」
『お疲れ。菜子ちゃん、今どこいる?』
「家の近くですけど」
『急で悪いんだけどさ、今日出勤できねえ?』
「いや、無理ですね」
『マジで?超困るな。今日さ、未央ちゃんも智香ちゃんも出れないって言うんだよ。誰か来てくんないと、店開けらんないんだよね』
「はあ」
『最近何で皆出勤しないのかと思ってたら、何か西口で他の奴が同じ商売始めたらしくてさ』
そのあたりからだろうか、安井さんのやけに陽気な声の裏側で、何か鈍い音のような、うめき声のようなものが聞こえ始めたのは。
背筋がざわついた。
『で、うち辞めた子とかも皆そっちに引っ張っていかれてるらしいのね。給料倍払うからとかつって。こっちの許可もなく、マジ営業妨害だわ。なあ?』
その瞬間、聞き覚えのある声が、甲高い悲鳴となって私の耳に突き刺さった。
りなだ。
受話器の向こうに、りながいる。