13
「小さい声で話してたから、よく聞き取れなかったけど、何か一方的にりなが男の人に怒ってる感じだったよ」
「感じだったって、声かけたんでしょ」
「廊下でたまたま会った時にね。でも、すぐ逃げるようにブース戻ってった。で、ブースの中で喋ってた会話をその後聞いたの」
「何でがりがりだったの」
「さあ……何か聞けるような雰囲気でもなかったし」
そう、と私は呟いた。
「そのネカフェの場所教えて」
「いいけど」
名前を教えてもらい、スマホで検索して地図を出す。
新宿の駅前にある、最近できたインターネットカフェだった。
トレイを持って立ち上がると、後ろから元樹君が追いかけてきた。
「ねえ、何でいきなりりなのこと捜してんの」
私が黙っていると、
「やばいことになってるんじゃないよね」
「やばいことって何」
「だから、その……」
と元樹君は口ごもる。
「よく分かんないけど、組関係の人とかさ」
「何それ。そういうんじゃないから」
知ってる。あやすように言った私の言葉なんて、元樹君は聞いちゃいないんだってこと。
何のなぐさめにもならないような言葉さえ、縋ろうとする人には嘘みたいに綺麗に光るから、だからいつまでたっても、狭苦しいフラスコの中から出られないんだってこと。