12
元樹君から連絡があったのは、その日の夜だった。
元樹君というのは、りなの元彼の元カノの今彼というよく分からないつながりで、要はクラブで遊んでいるときに知り合ったその他大勢の1人。
今は将来バーテンになるべく、バーでバイトしているらしい。
「何か、りなのこと捜してるらしいって聞いたから」
呼び出されたマックに行くと、彼は神経質なネズミみたいにポテトをかじっていた。
家出してからは貧乏暮らしで、ポテトのSサイズと水だけで毎日食いつないでいるという。
未成年の間はいきがらないで親のすねをかじっておいたほうが利口だな、とこういう人種を見るたびに思う。
「見たの。どこで」
「ネカフェ」
と元樹君は言い、がりがりと氷を噛んだ。
一見普通に見えるけど、白目がどろんとしていて、肌が不健康そうにかさかさしている。
「俺、あの辺あちこち泊まり歩いてるからさ、たまたま会ったんだけど、何か超がりがりになってたからびっくりして。思わず声かけたんだよ」
「彼氏と一緒にいなかった?」
「あれ、彼氏なのかなあ」
語尾を濁らせて、元樹君は私のチーズバーガーを物欲しそうに見つめた。
あげないよ、と私はばりばり包みを開いて食べ始める。
「21歳、イケメン、金持ち、読者モデルの大学生」
油まみれになった指をぺろぺろ舐めながら、元樹君は目を丸くした。
「誰が?」
「りなの彼氏」
「いや、違うよ」
「何でそう言えんの」
「絶対違う。だってそいつ、おっさんだったよ」
まさか、と思う心と、やっぱりな、と思う気持ちが半々だった。
いや、違う。3対7で嘘だと思っていた。
嘘であれよと願っていた。