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「ね、聞いてる?」
軽く肩を小突かれて、私は「聞いてるよ」と頷き返す。
たれ流しているのは凡庸で陳腐な曲、がらくたのように耳を素通りしていくけれど。
「どうやったら感動ってできるの」
「は?」
テンプレどおりの会話じゃなくなると、途端に沙希は不機嫌になる。
不安だからだ。自分がついていけないのと、馬鹿にされるんじゃないかというのと。
「感動ってしたことないんだよね」
「それ、心冷たすぎじゃない?」
「いや何か決められてる感じがすると、身構えちゃって。卒業式とかで皆が泣いてると、余計しらけるっていうか。『さあ泣けよ』って言われてる感じがしちゃって」
「そういうんじゃなくても、もっといろいろあるでしょー」
「あんのかな」
「ていうか菜子、めんどくさい」
と言って、「じゃあね」と沙希はCDショップに入っていく。
仕方がないから、私は帰りたくない人がいっぱい集まっているところへ行く。