ご飯食べたら行きましょう
久しぶりにまともなご飯が食べれるわね、と笑うマイ。一応俺だって一般人であるので罪悪感だとか、そんあ感情がないとは言えないんだが。
ただ俺はオタクなどが割と起こったらいいな~って思ってる異世界召喚イベントが起こったのにこんな扱いを受けて許せるほど寛大ではないし、なんなら俺は狭量だし、言っては何だが快楽主義者である。
外に出たら見たこともないものが沢山あって楽しそうだろうにこんな所で殺されたら確実に後悔する。そしてそんな楽しそうな事を邪魔するなら仕方ないよね。
分厚いベーコンはステーキにマッシュポテトを揚げたもの。味噌汁完全に料理に合ってないけど飲みたかった。炊き立てでツヤツヤ輝くお米は罪。お箸を配っていただきます。
「かぶりついて食ってね」
「は~~めっちゃ美味くないか最高だな」
「ベーコンってこんな肉汁出ましたっけ?美味しい…」
「この揚げ物なに?アタシ初めて食べたわ」
「トモこのソースめっちゃ美味しいんだけどマスタードとなに入ってる?」
「オリーブオイルとねぇ、黒胡椒と醤油とマヨと蜂蜜」
「料理出来るっていいな…」
各々感想を貰って俺は大満足です。凝ったもん作ってないけどね。
「んでさぁ、飯も食い終わったしあれなんだけど」
「ん?」
「やっぱり脱獄したいと思うんだよ。いつまでも牢屋の中は嫌だろ」
「レン、戦力が足りないって言ってるじゃない。この中でまともに攻撃系の魔法もスキルもアタシしかいないって、」
「ミコとケンがいる。なるべく穏便に出たいと思ってるよ、人殺しなんてしたくないんだ。それは盗賊のスキルでなんとかしてしまえばいいし、攻撃されても僧侶なら攻撃を防ぐスキルもあるだろうからな」
「、それじゃあトモはどうするの?トモは調理人で完全に戦い向きじゃない。それを考えたらもう少し待った方がいいわよ」
「それは、」
「一番きつかった食料問題はトモでなんとかなるじゃない。なにをそんな焦ってるのよ。それとも、早くここを出なきゃいけない理由でもあるのかしら。ここにいる皆を危険に晒してまで。学者が聞いて呆れるわ」
思わずうまいな、と思った。言ってる事は最もらしいし、レンが怪しいのではないかという疑問を出して疑心を植え付けるような発言すらしてみせた。言うて人間2パターンあるからどうとも言えないよな、逃げれるわけない、って考える人間ならこの状況を甘受するだろうし、そうでないならどんな事をしてでも逃げる。自分の自由を妨げるものを許さない。それが例え人を殺すことになったとしても。
この国の人間やマイの誤算は俺達が後者の人間だった事だ。正直、俺はレン達の事を完全に信用してはいない。今は意見が一致しているだけだ。だから、もしマイが一緒にいくのであればそれはそれで良かった。まぁ言動的にそんなつもりはさらさらないみたいだが。
「…そこまで言うなら仕方ない、言う通りにしよう。脱獄は今はやめる」
「解ったならいいわ。もう寝ましょ」
「あぁ」
再び男女間でカーテンがかかりサイレントがかけられた。仕掛けたものが効きだしたら作戦決行。
『ミコは脱獄したいなんて言わないよね?ってずっと聞かれるんですが』
「いい感じに返事してあげて」
『いやあの、なんか様子が変です。聞くの忘れてましたけどなんの毒仕込んだんですか』
マイが食べた揚げ物は芋などの野菜に似た毒草だ。食べると異常な行動に出て走り回ったり叫び散らしたり幻覚を見たりする。対処が早ければ死なないだろうが、
「この国の医療は魔法と錬金術に頼り切りだ、難しい病は治せない。また、他の国から医師が医療を広めようとすると神への冒涜だと言い切ったそうだ」
「…じゃあこれからアイツ暴れだすんだろ?ミコ大丈夫かよ」
「ごめんねぇミコちゃん本格的に騒ぎだしたら助けにいくから~」
『トモさん丑の刻参りってご存知でしょうか』
「すぐ助けるから勘弁してください」
「ケン、サイレント解除しておいてくれ、今から黙るぞ」
「りょーかい」
サイレントが解除され膜が消えるがマイは気付かないらしい。ずっとミコに「逃げないわよね、逃げないわよね、ずっと一緒にいるわよね」と呟いている。うわちょっと怖いかも。レンとケンの顔見たらどっちも苦い顔してるから多分2人もちょっと怖がってる。時折ミコの『向かい合ってる私が一番怖いんですよ全員蟲毒を送り付けますよ』なんて声が響いて少し緩和された。
「に、に、に、にげ、逃げたりなんかし、したら、ころ、こ、殺されるわ。会ったの、この、この国、国の兵隊みた、みたいなの、」
「マイさん…?」
「あ、あ、あのね、ここにい、いた、いたら安心、よ。お、女、おんなおんなはこ、ころさないって、殺さないって!!!!し、城に、もど、もどしてくれ、戻してくれるの、い、良いとこ、よ。ば、馬鹿にされ、ないし、なにしてもほ、誉めてくれる、は、が、!ひゅ、お、ぇ」
「マイさん?大丈夫ですか?もう寝ましょう、落ち着いて」
「…逃げたりしないわよね」
「さっき話し合いしたじゃないですか、顔色が悪いです、ほら、横になって」
「あぁあぁぁ!!!、ぐ、なんなの!なんなのこれ!」
一際大きな声。牢屋の外から鎧のガシャガシャというやかましい音が聞こえてきた。ケンに目配せをする。
カーテンを開ける。マイは立ち上がりうろうろとミコの周りを歩いていた。こっわと思ったが声に出さないように頑張ったが『ハチャメチャ怖いんですけど』って冷静な声が頭に響いて笑いそうになった。訴訟。
「マイ、どうしたんだよ」
「五月蠅い!よ、よらないで」
「ん?具合でも悪いんか?顔真っ青だぞ」
マイは自分自身でも体がおかしい事に気付いてはいたが、もうまともな思考なんて出来なかった。ただ、目の前でニタリと笑うこの男が何かに関与しているのかと、近付いてきて何をする気なのか、
まさか殺される?脱獄を反対したから?自分はまた誉められたいだけだ。認めてもらえる場所に、この任務が終われば戻れるのだ。なのになんで、なんで、なんで。
近付いてこないで。来るな。こないで
「、あぁあああああああああ!!!!!!」
「おっと」
マイが錯乱して暴れだした。魔法使われてたら危なかったな、錯乱しているからかスキルを使う素振りはないし。そこらのものを投げつけてくるのでかわす。「何をしている!」と見張りの声が響いた。
「錯乱してる。早く連れていけよ」
鬱陶しいという顔で言えば兵士は苛立った顔をしたが錯乱しているのがマイだと解ると牢から連れて行った。マイの喧しい声が遠ざかり、聞こえなくなったあたりでケンが先程の見張りからくすねた鍵を取り出した。
「ミコ大丈夫?」
「人が錯乱するのって怖いですね、幽霊に悩まされた人並みに怖いです」
「そっか寺の娘…」
「人が目の前で死ななくて良かったなとは」
「言うてこれから殺すかもだが?」
「優しく瞬殺しましょうね」
「お前が怖いよ俺は」
「よし、じゃあ手筈通りに。行こうか」
ケンが牢屋の鍵を開けた。脱獄決行である。