“役立たず乙”
地下にある牢屋には陽もささず、およそ人が居ていいような場所ではなかった。ジメジメしている。カビとかすげー生えてそう。あれ今のネズミの糞じゃないか?不衛生すぎる·····
「入れ」
ドラマとかでよく見る鉄格子を開け放り込まれた。ガシャンと錠をかける音と共に精神的な疲労で座り込む。
·····いきなり呼ばれたと思ったらすぐ投獄ってなに????礼儀知らず過ぎない?
「おい、大丈夫か?」
先に中に居た人の1人が話しかけてくれる。なんとか、と答えようとするがその容姿にお?と目を瞬かせる。
「え、もしかして日本人?」
「おう、この部屋の奴は全員日本人で全員王様に“役立たず乙”って言われた奴だぜ!」
「草生える」
「草超えて藻」
「それな」
まともに話した人間が同郷と知ると少し心が安らいだ。他の人たちも状況がよく解っていない俺に自己紹介してくれる。
「俺は健人、3日前“盗賊”で『お主悪の手先じゃな?』ってぶち込まれた社会人。ケンって呼んでくれ」
今俺に話しかけてくれた奴だった。ぶっちゃけRPGとかって盗賊とかの職業もあるのにこの世界ねーのか??まぁ響きは犯罪者には違いないけど呼んどいてこれはなぁ·····
「私はミコ、4日前召喚された“僧侶”です」
「え、僧侶って普通に使える職業じゃありません?」
「実は私家が寺でして」
「はい」
「この国の神を信仰することは出来ませんが存在は認めますと言ったら『邪教の者』とかほざかれまして·····」
「王様ぶん殴ったんだっけ?」
「アグレッシブだなこの人」
「お恥ずかしながら·····」
見た目が黒髪ロングで割とお淑やかって感じするのに暴力的な人だった。家が寺でも別に宗教に無関心寄りではあったが小さい頃から身近にいた神様の事邪教とか言われたらそりゃ腹立ちますよとの事。そりゃそうだ。
「“魔女”の舞花よ、マイって呼んでちょうだい」
「“学者”の蓮だ、レンと呼んでくれ」
「あたし達は1週間前同時に召喚されたんだけど、とりあえずこっちは良いわ。貴方は?」
「あ、俺は“調理人”の友哉。トモって呼んでくれ」
バッッッ、と全員の視線が俺に向いた。どうかしたのか?と問うと“盗賊”のケンが涙目で言う。
「この牢の飯クソ不味いんだわ」
「そうとなったらこの世界の情報共有しちゃいましょう、早く、迅速に」
「スキルの使い方も早めに教えなきゃならないな」
「スキル?」
「職業に関するスキルが俺達は使える筈なんだ。この牢屋は“魔法”は使えないようになってるが、スキルは使える。そこから話そう」
“学者”のレンが周りを見回し、見張りが近くにいないことを確認してから小声で『ホワイトボード』と呟くと何も無かった空間にホワイトボードが出現した。というか浮いている。
「便利だねそれ」
「他にも言うことあると思うんだが」
「あと魔法とかスキルとかめっちゃファンタジーだね」
「肝座りすぎてヤバいな君。よし進めよう」
まず、レンとマイは修学旅行中の学生達に巻き込まれ偶然召喚されてしまったらしい。“魔女”とは言うものの本当は“魔法使い”で、これは即戦力と喜ばれたが“学者”のレンは少し嫌な顔をされ役立たず·····と言われかけたが、嫌な予感を察知したレンは戦略を組み立てるのが得意、謎解きが得意と自分を売り込み一時的に有用だとされたのだそう。一時的に。
「よくそんな事スッと言えたね」
「あからさまにマイと反応が違ったしね。将棋とかやってたし全然違うけど間違ってないだろ?」
「なるほど」
そこでまずレンは王宮の書庫に籠り、この国の事を調べた。この国はアールベナという小国で周りに四つの大国があり、今はオリハルコン(ファンタジーだな)が取れるダンジョンがある国だからと見逃されているがいつそれが奪われ狙われるか解らない状態にあるらしい。先代の王までは賢王で、周りの大国とも上手くやっていた·····というか、先代は四つの国の王ととても懇意にしていたので、今代の王が少し馬鹿でも大目に見ているそうだ。
だが、今オリハルコンが取れるダンジョンは層が10まであり、この国の冒険者は3階層までしか潜れなく数も少なくなってきた。はるか昔に召喚された異世界の勇者はその10階層まで潜れたそうで、オリハルコンは山のようにあったそうだ。
魔王の力が強くなると各地のダンジョンにいる魔物も強くなるらしく、それこそあの馬鹿王が言ってた昔の予言から「せや、もっかい勇者召喚しよ」となる。魔王を倒したらダンジョン潜りやすくなると思ったんだな。
そして魔王を倒す勇者を召喚した国は他の国から相応の目で見られる。もし召喚した勇者が魔王を倒したら英雄だしな。
ただあの馬鹿王は本当に馬鹿で、
「たくさん召喚したらそれだけ魔王討伐まで早いんじゃないか?」
そう、思ってしまったらしい。
「傍迷惑過ぎない?」
「俺達の他に召喚されたのは7人程確認されてるよ、今頃洗脳も終わってレベル上げでもしてるんじゃない?」
「じゃあ俺と一緒に来た子達も含めて10人か。洗脳って?」
「この国馬鹿しかいないんだけど、役に立ちそうな職業の奴等をほんと馬鹿みたいに持ち上げるんだ。ね、マイ」
「そうね、あたしも最初は凄かったわ」
「でもその有用な人材なのになんでここに?」
「その前に魔法とスキルの話をしましょうか」
あの監視が通り過ぎてからね、と言う言葉と共に金属の擦れる音が近付いてきた。