第19話
久々に長い(?)
疑問、という物はいくらでもある。
「シバ、そういえば、何でカノンは盗んでいたか知っているか?」
これは、昔から思っていた疑問。
何故盗んでいたかを、私は知らなかった。依頼者のシバなら知っているのかと思い、今回聞いてみた。
「んー、俺は知らない。本人に聞けば?」
頬に痛々しい傷を負ったシバは、突き飛ばすように言った。
本人(本猫?)は、その話を耳に挟んでいたようで、食べていた猫まんまを飲み込んでから話した。
「ああ。湿地の魔女の仕業ね」
意味が分からない。
私は親父さんから分けてもらったパンを頬張った。普通に美味い。
「うーん、なんていうのかしら。魔女に動物にされたら、100回悪さするようになる、って聞いたわ。実際、貴方に捕まった日、100回目で、それから悪さしなくなったのね」
湿地の魔女は、人々を動物にしただけでは気がすまないらしく、悪さまでさせるようだ。
「体が操られている、という感じじゃなくて、自分が思っちゃうのよ。『これを盗みたい』『殺したい』とか」
詳しいことまで教えてくれた。
「大変なんだな」
「だからこそ、倒したいのね。自分の記憶も知りたいしね」
「ああ」
猫は、私に笑いかけた。それに答えて、ぎここちなく微笑む。
「あの。その、ショナさん」
クレアがオドオドしながら話しかけてきた。猫からクレアへと視線を向けると、何か決心したように立ち上がった。
「あと、お父さんも。あたし、昔から旅に出たいと思っていて……。それで、巫女辞めて旅立ちたいんです。ショナさん、あたしを連れて行ってくれませんか」
衝撃だった。
湿地の魔女倒しに人は多いほうがいい。返事をしようと思ったら、親父さんが話しに割り込んできた。
「なっ……! クレア、正気か! 考え直せ、クレア!」
必死に講義する親父さん。しかし、娘の意思は揺らがない。
「嫌です、お父さん。あたし、昔から旅に出たいと思っていたんです。夢なの。今が絶好のチャンスなの、お父さん」
負けずに言い返した。
私は、口を挟まず、じっとして聞いていた。
「それに……。もうこんな生活イヤ! 見物チケットが手にいれられなくて、暴力振るってまで欲しがる人もいるし!」
クレアの目尻に、涙が浮かんだ。頬を伝わりそうなほどに溢れている。
「クレア、お前……」
「お願い、お父さん! もう嫌なのっ!」
首を振って、体も振って、拒絶しようとするクレア。
親父さんは、目を見開いていた。
「暴力……受けていたのか?」
「昨日殺された、あの不良達! あの人達、路地裏であたしに暴力してくるの! 神聖な場所に、彼らを入れたくないから、渡さないんだけど……。ねぇ、お願い。私を連れて行って。戦力になると思うから……」
親父さんは、目を瞑ってしばらく考え込んでいたが、ゆっくりと開き、私のほうを見てきた。
「……。クレアがそんな目にあっているだなんて知らなかった。アンタ、連れて行ってくれ。クレア、生きて帰って来いよ」
「お父さん……」
クレアは、父に人目構わず抱きついた。
「分かりました」
「おい、ショナ――」
「別にいい。戦力は増えれば増えるほどいい」
シバが突っかかってきた。
ちなみに双子は、手を打ち合って喜んでいた。
「すぐ出発しましょう。私もあまりここにはいたくない。クレア、私達の目的は湿地の魔女退治だ。協力、してくれるか?」
「はい」
彼女は精一杯の笑みを浮かべた。
気がつけば、親父さんは食堂にいなかった。
もうすぐ終了式。
……違う。もうすぐではなく、明日だ