第14話
キーワードは『包帯』『電車』・・・ハイ、包帯はほとんど関係ありませんかr(殴
――私が起きたのは、真っ白な場所であった。どこかに運ばれたのだろうか?
ふっと思い出す、思い出したくない記憶。
『何あんな雑魚に血なんて流しているんだよ!』
『だって、強かったんだも……』
『言い訳は聞かん!』
そして、鞭で叩かれたものだ。
『やめてよ! イタァッ!』
酷い仕打ち。それ以来、それらを見れば、トラウマが蘇る。
「怖い、怖い、怖い、怖い、怖い……」
何故私は声に出しているのだろう?
真っ白なドアが開き、1人の人が入ってきた。
「起きたか。調子はどうだ? 俺ら心配したんだぞ?」
そいうって、こちらに歩み寄ってくる。
「こないで……」
何故か、その人が父に見えた。
「へ?」
「こないでよって言ってんでしょ!!」
「うぇっ!」
思いが、反射的に足を動かしていた。
足で蹴ると、視界の端っこに服が見えた。ゴスロリを着ていない。
「視界から消えてよ!」
足は、容赦しなかった。
「……ショナ、俺だよ俺! シバだよ! 何過去に浸っている? それとも俺が嫌いなのかよ?」
はっとして、よく見る。そこには、父ではなくて、シバがいた――
そして、父でないと分かった事で、緊張感が解け、顔と横腹に痛みを覚えた。
思わず抑える。
「――――っ」
「お、おいっ! ショナ! 無茶するからっ!」
ふっと倒れこむ私を、シバが支えた。
そして、騒ぎの音でも聞いたのか、シエル達がドアからこちらを見ていた。見慣れない人までいた。
「大変だ、来てくれ!」
† † † † †
もう一度起きると、そこにはあいつ等が囲んでいた。
なんとなく、恥ずかしい。
「おお、起きられましたか。いやぁ、かなり酷い出血でしたねぇ」
声の方向を見れば、白衣を着た人が、机に向かって何か書いていた。
手を止めて、私達の方を見る。
「あ、武器拾っておきましたよー。なんか、すごい危険物ですねー」
「そりゃどうも」
冷たくて、突き放すような声で私は言った。
「で、ショナ大丈夫か? お前が倒れていたの、すげぇビックリだったぞ?」
「ああ、そうか。確か、ハウィン公爵と戦っていた……」
傷跡を見ると、そこにはちゃんと包帯が巻いてあった。今更、きついと感じる。
「で、ここは?」
「ここはですね〜、アレイン病院ですよん」
ああ、私は運ばれてきたんだ、と思う。
確かに、真っ白さがいかにも、「ここは病院です」という雰囲気を漂わせている。
「さて、退院するか!」
「ちょっとまて、早いだろぉおお!」
部屋を出ようとする私を、シバが服をギュッと掴んだ。
「ん、体が治っていないのか心配なのか? 大丈夫、父がこの状態で鞭振るってきて私ピンピンしてたからさ」
「でも……許可貰わないと」
シバが、よりいっそう強く掴んだ。
そして、それを聞いた医師(と思われる人)が、考え込んでから口を開く。
「ハイハイ、どうぞ退院していいですよー」
私は、シバの手を振り解き、部屋から出た。
その後を、シバ達が追った。誰もが、包帯グルグルの顔を気にしていた。
† † † † †
「酷いですね……」
警察に任務完了したことを伝えに行って、まず最初に言われたのがこの言葉だった。
「まぁいいか」と警官は1回ため息を吐く。
「え〜、どうやら完了したようですが……」
「ああ、したぞ。この通り、酷い怪我を負ったがな」
私は、怪我をした顔を押さえた。
「あ、すまないな、ゴスロリ、汚してしまった……」
突然その事を思い出し、頭を下げた。
「あ、いえ、全然okです!」
警官は、オロオロしながら顔の前で手を振った。
「……というかさ、優勝したはいいものの、賞金が出なかったのだが……」
「こちらで出せ、って奴ですか……まぁ、いいでしょう。全額15万の報酬となります」
どこからか出された報酬を受け取り、軽く礼をして警察を出た。
† † † † †
「さて、電車乗って、ダファ行くかな」
そう言って、シエル達を見ると、目を輝かせていた。
今は、宿に今までの家賃を払い、電車に向かって歩いているところだ。
「私、電車って初めてなんですよ。だから、とても楽しみなんです。ショナさんは、どうですか……?」
よく見れば、カノンもシバも、いつもよりか機嫌が良さそうだった。
……それにしても、町の人々からの視線が痛い。きっと、この怪我のせいだろうが――
「あ、ああ……運賃がちと痛いが、まぁ、楽しみ……かな」
最後の方は、なんとなく声が小さくなってしまった。
駅と呼ばれる場所は、賑わっていた。
私はてっきり、人があまりいない駅とでも思っていたのだが、違ったようだ。
白の大きい建物に入れば、見慣れないものが沢山あった。
ふと、ある変なものに寄る。
これは、何かを販売する機械だろうか。『ダファ町往復千円切符(大人)』とか、『ダファ町片道六百円(子供、大人両方)』などがあった。
「あの、これどうやって使うんですか?」
近くにいた駅員さんに聞いてみた。
「ああ、お金を入れて行き先のボタン押して、下から出てきた切符をワシにくれぃ」
後ろから、声が聞こえて振り向くと、何人もの人が並び、その遅さにいらだっていた。
早くしなければ――
ゴスロリ大会ほどの緊張はなかったが、また別の緊張感があった。もしも間違えると、お金が減ってしまう。
お金を600円入れて、『ダファ町片道六百円(子供、大人両方)』を押した。
下から、ほんの小さな音がしたので見ると、そこにはちゃんと切符があった。
これを、3回繰り返した。カノンは……とりあえず、鞄の中でも入れておくか……などと、普通はしてはいけなさそうな事を考える。
機会をよく見ると、一番下に『小型、中型動物乗車券片道百円(どこの町にも可)』というのがあった。
ラッキーだと思い、即購入した。
「あ、ごめんなさいね。どうぞ、お待たせしてしまいました」
そう言って、列から出て、駅員さんの場所に行った。
「ん〜……はい、いいですよ〜。1番ホームでお待ちくださいじゃ。次は、12時55分発じゃよ。気ぃつけてなぁ」
駅員さんの暖かい送りを受けた後、まだ外にいるシバ達を手招きして、1番ホームに入った。案外空いている。
今の時間は、12時54分だ。かなり微妙な時間だ。
向こうで、黄色い物体がやってきて、私達の前で止まった。
「かなり危ない時間に来たなぁ。それにしても、楽しみだなぁっ! 早く乗ろうぜ!」
私達は、ドアが開いたとたんに飛び込んで、景色が良さそうな席に座った。
後から続々と出入りが続き、それも落ち着いたころ、発車した。
少しずつ、速度が増す。それとともに変わる風景。誰もが、歓声を上げた。
「次の停車駅はダファ町、ダファ町でございます。ここから約10分の場所となります。それまでは、ごゆっくりどうぞ。繰り返します――」
アナウンスが聞こえたが、私達は受け流していた。
眼中には、美しい風景しか写っていなかった。耳の機能まで、すべては窓の外に向けられていた。
畑で働く人々、そして、かごを持って、叫び続ける人。働く人々は、手を止めて農具を捨て、かごを持っている人に群がる。きっと、ご飯でも持ってきたのだろう。
ちょっとした公園で、家族4人が遊んでいる。私がこんな経験をしたのは、1回ほどしかない。なんだか、涙が出そうだった。
はっと我に返れば、停車したとの事。私は何も言わずに荷物を背負い、景色に見とれている者を引きずり、電車から降りた。
次から、第3章に突入予定です!
・・・え? 予定じゃ駄目だって?