第12話
午後6時。宿屋2階の、私と白猫の部屋からは、描写で表せるかどうかも分からない状況であった。
部屋の外には、シエロとシバが壁に寄りかっている。
「ま、まぁ、俺らが人の裸見たら……もう、想像するだけで吐き気がするな」
シバは、吐くまねをした。シエロは、気持ち悪そうにう口を押さえた。
それと同時に、部屋の中から奇妙な声がする。
「……シバ、僕達中に居なくて良かったんだよね」
「当たり前だよ。中居たら、命がいくつあっても足りないぜ」
そう、部屋の中は――
† † † † †
部屋の中では、ゴスロリへの着替えが行われていた。
必死に抵抗する私。無理矢理着替えさせるシエル、そして、いつもこういうときに遠慮し、苦笑いしているカノン。
約5分後――
「フフフ、こうしていると施設に居たときのこと思い出すのん」
「怪しい……」
「さて、最後に染めるのです〜」
着替えは終わったのだが、今度はシエルの考えていたことをするらしい。
うぇ、染める? 髪をぉぉおお?
シエルはポケットから『短時間色素変え』を出した。
「ああ、確かそれ6時間ほど髪、瞳の色素を変えるという奴?」
「お、するどいですねん。んじゃ、いきますねん〜。ええとぉ、髪の色素を銀から黒にぃ、瞳の色素をぉ、赤から水色にぃ、ですぅ〜」
そう言うなり、髪に何かが塗られた。全体的に馴染まされた後、今度は目薬を取り出し、『短時間色素変え』中に入れた。
「大丈夫ですよ、これ、中になにも入っていませんから〜」
もう、されるがままだ。
目を大きく開けられて、右目に、かなり近い位置から液が落ちてきた。続いて左。
シエルはそれを見た後、手を離す。
右と左の両方を瞬きすると、なんだか染み込んだ気がした。
「完了なのです〜。ヘヘ、これで完成〜。後は行くだけですね〜」
そういい、笑うシエル。
その言葉を聞いたらしく、男子が部屋に入ってきた。そして、男子の歓声。
「うぉおおっ! ちょちょちょ、これ、鼻血出るって! うは、可愛い……」
「別人になっちゃったです……頑張ったら、ツンデレ表現も可能です〜」
「でしょっ? シエロもやっぱ思うよね!」
「うんうん!」
……どうやら、あっちはあっちではしゃいでいるようだ。あいつ等の未来が心配なのは私だけ……?
私は、鏡の前に立ってみた。あ、案外いける……しかし、もう脱ぎたい……
「うしっ、任務頑張るぞ! これは、任務のためだけに着ているんだ! うん!」
自分で自分を説得させる。こうでもしないと、"脱ぎたい衝動"が来そうだからだった。
気合を引きしめる。
「任務のだけじゃなくてぇ、常に着ていてくださいよ」
そういうシエロの前まで行き、頭をコツンと叩いた。
頭を抑えるシエロを、シエルが慰める。シバは、そのやり取りを見て笑っていた。
いつものことだなぁ、と本当に思う。
「さて、んじゃぁ、行くか! エントリーもしないとだしなっ!」
おうっ、と気合をいれて右手を突き上げるシバに、私はどうしても気になる事を言ってやった。
「場所、知ってるの?」
その一言で、シバは手を動かさず、顔を動かさない。硬直したらしい。
待っている間に、探して欲しかったな……
† † † † †
午後7時半過ぎ、私達は荒い息で、大きなお屋敷の前に立っていた。ゴスロリは、特に汚れていないのが何よりだ。
――あれから、さ迷い続けた私達は、なんとかここに来たのである。
約15秒後、私はなんともなくその場に立っていた。
「ショナ、お前、疲れてないのかよ……」
シバが、その場に座り込んで言った。
「へっ、殺し屋はこうでないと務まらない」
「流石です〜。だから憧れるんですよ〜」
シエロが、シバと同じように座りながら言った。シエルも、同じように座る。
「先行っているぞ」
こいつらは、しばらくこのままの状態であろう。だから、先に行ってエントリーをしておかなければ――
「あれ? ショナ、自分から進んでするのか。そうかそうか、そんなに早くしたいんだな?」
シバがはやし立てる。
「んなぁっ……お前らがやれやれ言うからだろ? それに任務のためだ。仕方なくしているんだ。仕方なくな!」
最後の仕方なくを強調すると、なんだか怒っているように聞こえた。
思いをぶちまけてから、門の中へと入っていった。気持ちがスースーする。
後は、シバたちがシーンとして、声1つ発しなかった。それほど本音を受け止めたのだろう。
† † † † †
門を潜り抜けると、巨大な庭があった。一体、どれだけ金を出しているのだろう。
それを通れば、屋敷の明かり。闇と明かりが、これまた美しい。
扉を開け、中に入る。
そこには、赤い絨毯が敷いてあった。
さまざまな人々が、この絨毯の上にいた。
「受付、受付――」
キョロキョロしながら、唱えるように呟く。
そんな時見つける受付場所、そして、後ろから聞こえる聞き覚えのある声。
「おい、ショナ――」
そんなあいつの言葉を無視して、足はどんどん受付の下へ。
「あの、参加したいんですけど、まだ受付していますか?――」
いつもとは違う優しい声で言った。
「えぇ、まだ大丈夫ですよ。お名前は?」
ここで本当のことを言われると、正体がばれるので、偽名を使った。
「ええと……ファイです」
「……では、そこの角を曲がった先にある待機室へどうぞ」
ペコリとお辞儀をして、言われた場所へ向かう。
待機室には、様々なゴスロリを身に纏った人がいた。
どっと出てくる緊張感。優勝できるかどうかの不安。2つが合わさり、じっとしていられない。
そんな中、遠くから始まりを告げる声。
人が呼ばれて出て行く。
緊張と不安が、ピークに達した。時間が、止まったように思えた。いや、もしかしたら普通の何倍ものスピードだったかもしれない。
「次、ファイさん待機をしてください」
かちこちな足を動かし、待機場所に行く。
すると、そこにいた人に説明を受けた。何でも、初めてなので、どんな事をするか知らないから、という。
舞台の方から歓声が上がる。
「まぁ、舞台の真ん中に出てポーズするだけでいいですよ。頑張って下さいね〜」
そう言い終わるか言い終わらないかという時に、背中を押され、舞台に出るギリギリぐらいの所まで行かされた。足がよろける。
「次は、初登場のファイさんでぇええす!」
心臓が高鳴る。大きく深呼吸をして、後ろを見ると、ニコニコ笑って手を振っていた。今の私には、嫌味と感じ取れる。
唾を飲み込み、もう一度深呼吸した。
「……あれ? どうしましたか? 欠場ですか?」
会場がざわめく。私は、舞台へと飛び出した。
今回の仮小説タイトル:土曜更新打ち破れっ!
まぁ、もう土曜更新が定着しているのでなんともいえませんが...