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氷姫といっしょに人探し  作者: 軽井広@北欧美少女コミカライズ連載開始!


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赤いマフラー

 屋上へと続く階段はいつもどおり閉鎖されていた。

 といっても、平気で立ち入ることはできる。

 「立ち入り禁止」と書かれた看板が置かれているだけだで、他に何も障害はないからだ。


 とにかく、この旧校舎はぼろい。


 壁のペンキが剥がれている。蛍光灯も全滅だ。

 ついでに、校舎は凍えそうなほど寒かった。

 まだ十二月なのに、先が思いやられる。

 寒さのあまり、和弥は制服のネクタイをぎゅっと締めた。


 ようやく屋上手前の鉄製の扉の前に立った。ドアノブに手をかける。

 ここの鍵を持っている生徒は、限られている。和弥は勝手に作った合鍵を持っていた。

 が、扉の鍵はかかっていない。


 もう、姫宮が来ているのだ。


 扉を開けると、埃がかすかに舞い、強い風が吹き込んだ。冷たい風に当てられ、思わず身震いをする。

 一歩踏み出すと、頭上には寒々とした曇り空が広がっていた。

 立ち入り禁止になっているこの屋上には、何もない。転落防止のためのフェンスが端に設置されているだけだ。

 

 奥にあるフェンスの手前に、姫宮雪姫の後ろ姿があった。

 他には誰もいない。

 彼女の長い髪が、風でたなびいていた。首に赤いマフラーを巻いている。

 和弥は、コンクリートの床を踏みしめて、姫宮に近づいた。


「姫宮?」

「あ、神谷。遅かったのね」


 姫宮はにこりともせずに言った。

 和弥は腕時計を確認した。


「まだ四時までは、二分あるはずだよ」

「でも、わたしを待たせたことに違いはないわ」

「時間を決めたのは姫宮だ。それに、屋上に人を呼び出すなんて不良みたいな真似をしたのも姫宮だ」

「不良はそっちでしょう?」

「心外だな。俺は不良じゃないよ」

「でも、学校でタバコを吸ってた」

「それは根も葉もない噂だ」

「ホントに?」

「本当だよ。だいたいさ、俺がタバコを吸ってて、似合うと思う?」

「似合わないかな。神谷って、ちっちゃいから」

「ちっちゃいとか言うな」

「でも、神谷は全然、背が伸びてないし」

「どうせ俺は小柄だよ。そういう姫宮はまた背が伸びた?」

「一七〇センチを超えたわ」

「なにかスポーツでもやったら? バスケとか」

「そういうのに向いてる性格じゃないって、知ってるでしょ?」

「知ってる」

「女子でこんなに背が高くても、何もいいことはないわ」

「スタイルが良いんだから、自慢するべきことだと思うけどね」

「ほんとはそんなこと、思ってないくせに」

「思ってるよ」

「ふうん」


 姫宮は長い髪を手でいじっていた。

 身長のことは、和弥にとっても姫宮にとっても頭痛の種だった。

 和弥はフェンスにもたれかかって、真下に見えるグラウンドを見渡した。

 運動部の生徒たちが、練習に励んでいる。

 野球部の姿もそこにはある。

 強く冷たい風が、二人のあいだを吹き抜けた。

 コートかなにかを着てくるべきだった。ブレザーだけでは、あまりに寒い。

 和弥は震えながら、姫宮を見た。


「寒くない、姫宮?」

「べつに。平気」

「早く用件を済まそう。というより、もっと暖かい場所を選んでほしかった」

「冬は寒いから、冬なのよ。暖房の効きすぎた教室よりずっといいわ」

「なら北極にでも行けばいい」

「北極に季節はないわ。知らないの?」

「知っている」

「それに、南極のほうがずっと寒いのよ。知らない?」

「……知ってるけど知らない。ここも十分に寒い。寒いのが平気なら、そのマフラーをくれないかな」


 和弥は、凍えそうな指先を姫宮の首元に向けた。

 姫宮はちらりと自分の赤いマフラーを確認し、うなずいた。


「貸してあげる」

「本当に貸してくれるとは思わなかった」

「なんで?」

「いや、なんとなく。ありがとう」


 ちょっとためらってから、和弥は首に赤い布を巻きつけた。

 姫宮の体温がまだ残ってる。


「姫宮さ、クラスメイトに話しかけるのを遠慮する必要なんてないよ」 

「どういう意味?」

「さっき教室で俺に話しかけたとき、緊張していた」

「わたし、緊張なんてしてないわ」

「そうかな。俺をあんなに睨んでたのは、声をかけるのをためらっていたから。無表情だったのは、緊張していた証拠。違う?」


 姫宮は目を伏せた。


「何でもお見通しってわけね」

「普通に考えれば、誰にでもわかることじゃないかな」

「でも、他の人はそんなふうにわたしのことを見てくれないわ」


 それはそうかもしれない。

 姫宮の瞳がゆらいだ。

 誤解のされやすい人間は損なだと思う。

 姫宮は少しためらいがちに言った。


「こうやって神谷と二人きりで話すのも、久しぶりだよね」

「あとちょっとで高校二年生か。どう? 高校生活の感想は? 中学生のときと違う?」

「何も変わらないわ。知ってるでしょ? そっちは?」

「何も変わらないね」


 この学校は私立の中高一貫校だし、中等部も高等部も大した差はない。


「俺の背は高くならないし」

 

 和弥はぼそっと付け加えた

 姫宮がはじめて、くすりと笑った。


「そこで笑う?」

「ごめんなさい。つい」

「ところで、俺を呼んだ理由は?」

「神谷のことだから、ひょっとしてわかってる?」

「隣のクラスの関係かな。ひょっとして夏原智樹のこと?」


 和弥は、幼なじみの名前を口にした。

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