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氷姫といっしょに人探し  作者: 軽井広@北欧美少女ノベル5巻が8/25から発売!


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19/19

その人の居場所

 見慣れた場所だ。

 そこは、和弥にとって、どこよりもよく知っている場所だった。

 薄暗い部屋は、誰も使っていない部屋だった。その奥の押し入れの扉を思い切りよく開ける。


「そこにいるんだろう、智樹?」


 返事はなかった。

 だが、膝をかかえ、丸まっている一人の少年の姿があった。

 怯えたように目を伏せた彼の肩に、和弥はぽんと手を載せた。


「怖がらなくていい。俺は怒ってなんかいないよ」

「本当か?」

「ああ」


 智樹はおそるおそる、押し入れの外へと出た。

 埃が舞う。

 そこは和弥の住むアパートだった。

智樹はぼそりとつぶやいた。


「いつから気づいていた?」

「気づいたのは、昨日の夜だよ。もっと早く気づくべきだった。おまえの友人の家で、その家の親のことを気にしなくてすむ。そんな家はここしかない。ここに隠れるように、うちの父親が言ったんだろ?」

「ああ。おじさんがそうするように言ってくれた。事件が落ち着くまで、ここに避難していれば安全だって。おじさんは昔の事件のことを知っていたし、うちの両親とも親しいからな」

「この家は俺と父さんが住むには、広すぎるからね。部屋も余っているし、俺にも気づかれない」

「黙っていて悪かったよ」

「言ってくれれば良かったのに」

「そんなこと、言えるか? オレはおまえを裏切った。そのうえ、俺が殺人犯の息子で復讐のために狙われるかもしれないから、ここにいさせてほしいなんて、とても言えない」

「俺にはともかく、葉月には言ってやるべきだったよ。あの子は智樹のことをとても心配している」

「そうだろうな。だけど、俺が人殺しの子だと知っても、そうやって葉月は思ってくれるだろうか」

「怖いんだな。今までの人間関係が壊れるのが」

「ああ。父も母も、葉月も、東雲も、部活の連中も、クラスの奴らも、俺のことを今までみたいに見てはくれない」


 智樹はささやくようなかすれ声で言った。

 人気者の智樹。

 だけど、それはほんのちょっとしたことでも、崩れかねない地位だ。


「俺はね、智樹が誰の子どもだとか、そんなことはどうでもいい。智樹は俺を裏切ったくそ野郎だ。だから、俺は智樹のことが嫌いだけど、それはおまえが人殺しの息子だからじゃない」

「慰めてくれているのか?」

「一応ね」

「おまえはいいやつだよ、和弥。だから、オレはおまえのことが怖いし、羨ましかった」

「羨ましい? そんなバカな」

「こないだ喧嘩したとき、東雲が俺になんて言ったかわかるか。『智樹くんはすごい人だよ。だけど、あたしは和弥くんと一緒にいる方が楽しいよ。和弥くんは優しいから』」

「喧嘩の飛び道具に俺のことを引き合いに出しただけだ」

「そうじゃない。なにかあると、東雲はいつもおまえと俺を比較していた。『和弥くんなら』っていうふうに」


 和弥は黙った。

 そんなことは想定していなかった。

 東雲は、智樹に近づくために、自分を利用した。

 それだけのはずだった。

 東雲本人も、そのつもりだった。

 けれど、途中で変わったのだ。

 少なくとも、東雲にとって、智樹はそれほど価値のある存在ではなかった。


「和弥、俺はこれからどうすればいい?」

「好きにすればいいよ。ここにいたいなら、そうすればいい。うちの父さんの許可もあるし、連続殺人事件のこともある。問題は時間が解決するさ」

「そうか?」

「東雲さんにも、葉月にも、俺の方からうまいこと説明しておくよ」

「和弥」

「なに?」

「ありがとう」

「礼はいらないさ。俺は他人から頼まれて、おまえを探して、見つけただけなんだから」


 和弥はそれだけ言うと、いったん部屋から出た。

 たぶん、この先、智樹のことを羨ましく思うことはあっても、それはそれほど深刻な問題じゃない。


◇


 十二月二十二日。

 和弥は姫宮を学校の屋上に呼び出していた。

 赤いマフラーをした姫宮は、不思議そうに首をかしげた。


「神谷のほうからわたしを呼び出すなんてどうしたの?」

「ちょっと用があってね」

「その用事が何なのかわからないわ。教室でも言ってくれないし」


 和弥はそっと姫宮に紙袋を手渡した。


「プレゼント。えっと、誕生日おめでとう、姫宮」

「あ……覚えていてくれたんだ」

「忘れるわけないよ」

「開けていい?」


 姫宮が包装をとると、そこにあったのはちょっと高めのブックカバーだった。


「こんなものしか思いつかなくて」

「ううん、すごく嬉しい」


 姫宮は頬を赤らめ、プレゼントを抱きしめながら、言った。


「大事にする」

「ありがとう」

「わたしも、今度の神谷の誕生日には何かプレゼントしてあげる。だからね、神谷が何を喜ぶか知りたいの」


 姫宮は一歩、和弥に近づいて和弥の手を握った。

 ひんやりと心地よい冷たさが和弥に伝わってくる。


「わたし、神谷のことが知りたい」

「えっと、その……」

「わたしは神谷のことが好きなの」


 姫宮は柔らかく微笑んだ。


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