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氷姫といっしょに人探し  作者: 軽井広@北欧美少女コミカライズ連載開始!


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18/19

氷姫の真実

和弥は大きく伸びをした。

 これから大事なことを大事な人に尋ねるというのに、自分のことながらずいぶん落ち着いているものだと思う。

 和弥が立っているのは、歩道橋の上だった。

 まだ日は高い。今ごろ教室では古典の授業中のはずだ。

姫宮が早退して帰ったと聞いた和弥は、適当な理由をでっち上げて学校を抜け出した。どうせ出席日数は足りている。

 そして、桜通の上にある歩道橋で姫宮を待っていたのだった。

 歩道橋の反対側に、とぼとぼと歩く女子生徒の姿が見えた。

 姫宮だ。

 こちらには気づいていない。

 和弥はそっと近づいた。


「ここに来ると思ってたよ、姫宮」

 顔を上げた姫宮は凍りついたように固まった。

 逃げられても困るので、和弥は姫宮の腕をつかんだ。


「……離して」

「それはできない。さぼりはよくないよ」

「神谷だって、同じじゃない」

「まあね」


 姫宮は和弥を鋭く睨んだ。


「何の用?」

「話を聞きたいだけだよ」

「神谷は、全部、わかっているんでしょう?」

「まあ、真相の一部はわかっているつもりだ」

「なら、それでいいじゃない。神谷はわたしのことを助けてくれないくせに」

「そうかもしれない」

「東雲さんから何かを聞いたの?」

「そう。興味深い話を聞いたよ。でも、東雲さんは真相からは遠い位置にいた」


 姫宮は和弥に好意を寄せいてる。

 東雲はそう言った。

 けれど、それが事実かどうかはともかく、姫宮が智樹を探す理由とは無関係のはずだ


「確かめたいことがある

「なに?」

「智樹に復讐しようと思ってはいないよね?」


 姫宮はため息をついた。


「やっぱり、知っているんだ」

「確信はなかったけれどね」

「続けて」

「君の母親は、十五年前の七月に殺された。容疑者は仲木戸一。夏原智樹の実親だ。君とが智樹を探す理由は、十五年前の殺人事件に理由がある」

「そのとおりよ」

「意外とあっさりと認めるんだ」

「いまさら神谷に隠しても仕方がないから」

「それで、智樹を見つけてどうするつもりだった? 」

「わたしはどうすると思う? いま起こっている連続殺人事件みたいに、復讐のかわりに夏原くんを殺す?」

「姫宮自身、わかっていないんだろう? 智樹を見つけたあと、どうするつもりか」

「そう。わからないわ。会ってみないと、わからない」

「仲木戸一は懲役刑を受けた。そして、刑務所内で病死した。もう、智樹とは何の関係もないことだ」

「理屈ではわかってる。夏原くんは何も悪くないって」

「どうやって智樹の秘密を知った?」

「夏原くん自身が言いに来たの」

「なるほどね。智樹らしい」


 姫宮はため息をついた。


「言っておくけど、神谷の同情なんかいらないから」

「わかってるよ」

「でもね」

「でも?」

「ときどき『どうして、わたしはわたしなんだろう』って思うの。父がわたしのことをどう思っているか、わかる?」

「わからないよ」

「わたしのことを見ると、母が殺された事件のことを思い出すんだって。だから、父はわたしのことを避けてる。嫌な記憶を思い出したくないから」

「だから、一人暮らしをしているのか」

「そう。父は数年前に、別の女の人と結婚したから。わたしにはお金を渡すだけ。もうずっと会ってもいないわ」


 和弥は何も言わず、姫宮の目を見つめた。


「わたしには誰もいないわ。家には誰もいないし、学校でも氷姫だなんて呼ばれて、どこにも、わたしの味方はいない。なのに、夏原くんは? ……夏原くんには、親切で優しい両親がいる。仲の良い妹だっている。友人も多いし、可愛い女友達もいる。なのに、わたしには誰もいない」

「そんなことはないよ」

「気休めはいらないわ」

「役立たずのクラスメイトなら、ここにいるよ」

 

 姫宮はくすりと笑った。


「それって、神谷のこと?」

「姫宮の妹になったり、女友達になったりはできないけれど」

「女装でもする?」

「それは勘弁してほしいな」

「なら、神谷はわたしの何になってくれるの?」

「それは俺の決めることじゃないよ」


 姫宮は、そうだね、と言って笑った。


「でも、神谷はわたしのことを氷姫なんて呼ばないでくれる」

「うん」

「ありがとう。ね、これから、神谷はどうするの?」

「智樹に会いに行く。実のところ、居場所はもうわかってる」

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