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氷姫と、教室の片隅

サスペンス&ラブコメ要素あるファンタジー作品『追放された万能魔法剣士は、皇女殿下の師匠となる』(日間ランキング総合最高3位)も書いてますので、そちらもよろしくお願いします!

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 誰かが自分を見下ろしていることに気づいた。

 同時に、教室が急に静かになった。

 昼休みを思い思いに過ごしていたクラスメイトたちが、こちらを振り向く。

 和弥は冷や汗をかいた。

 

 ちょっと困った。

 

 注目を集めている原因は、和弥の目の前に立っている少女にあった。

 彼女は無表情のまま、和弥を睨んだ。


「放課後、午後四時。旧校舎の屋上に来なさい。いい、神谷?」

「なんで?」

 

 神谷は和弥の名字だから、姫宮が用事があるのは和弥で間違いない。

 眉間に人差し指を突きつけられ、和弥は目を白黒させた。

 目の前に立っている少女は、椅子に座ったままの和弥の額をつんつんと白い指先でつついた。

 人に頼み事をするときの態度としては、褒められたものではない。

 

 彼女の名前は姫宮雪姫。

 クラスメイトだ。

 

 ついでにいえば、中等部のときも同じクラスだったことがある。

 話すのは久しぶりだが、見慣れた相手だ。

 

 それでも、一瞬見とれてしまうほど、姫宮は人目を引く容姿をしている。

 姫宮はすらりとした長身の美人だ。たぶん、同学年の女子の中では一番背が高い。

 お嬢様然とした姫宮には、制服である緑色のブレザーと胸元の赤いリボンが似合っていた。

 まるで、学校のパンフレットの表紙に載っている写真みたいだった。

 氷のように冷たい目をのぞけば。

 和弥はとんとんと机を指でたたいた。


「……何の用事か先に言ってくれないかな、姫宮?」

「屋上に来てくれたら、話すわ」

「いま言ってくれると助かるんだけど?」


 和弥の問いに姫宮は何も答えなかった。

 姫宮は肩まで伸びた髪を軽く払った。

 そのまま沈黙が続く。

 和弥は周りの様子を伺った。近くのクラスメイトは興味津々といった様子でこちらを見ている。


 容姿端麗な姫宮は、しかし、他のクラスメイトに滅多に話しかけない。

 今日は隣のクラスの女子と喋っている姿を見かけたが、あまりに珍しかったので二度見してしまった。

 そもそも姫宮は休みがちであまり学校に来ていないということもある。

 その姫宮が、何の前触れもなく、目立たない和弥に声をかけたのだ。

 好奇の視線に耐えられなくなった和弥は、仕方なくうなずいた。


「わかったよ。姫宮の言うとおりにする」

「遅れないように」


 姫宮はささやくくように言った。その瞬間、かすかに姫宮の目が笑ったような気がした。

 だが、姫宮はすぐに踵を返して廊下側の自分の席に戻っていった。

 

 和弥は、腕を組んだ。

 さて、いったい、何の用事だろうか。

 ある程度、予想はできるが。

 

 周りのクラスメイトたちは、しばらくの間ひそひそと何かを話していた。

 和弥はそのなかの一人をちらりと見た。

 目の合った大柄な男子生徒は、少ない友人の一人だった。

 彼はにやにやしながら小声で話しかけてきた。


「おいおい、神谷よ。いったい何の用事で呼ばれたんだ?」

「わからない」


 和弥は言った。


「告白とかか?」

「まさか」

「だよな。氷姫に限ってそれはない」

「氷姫、ね」

 

 氷姫、とは姫宮のことだ。

 名字の「姫宮」の姫。それと下の名前の「雪姫」の雪を氷にかえて、「氷姫」。クールな感じの美少女にはぴったりのあだ名かもしれない。

 けれど、もうひとつ理由はあるだろう。

 姫宮は誰とも決して打ち解けない。氷のような性格だとみんなは思っている。


「氷姫の、姫宮さんのあの冷たい目を見たら背中がぞくっとくるね。殺されるんじゃないかって思う」


 友人は大げさに両手を広げて言った。

 和弥はため息をついた。


「大げさな。殺人犯と会ったことは?」

「あるわけないだろ」

「俺は、姫宮はいいやつだと思うけどね」


 珍しいものを見るような顔で、相手は和弥を眺めた。

 そして、声をひそめた。


「まあ、姫宮さんは美人だけどな」


 けれど姫宮は敬遠されている。

 知っている。

 和弥は何も言わず、代わりに肩をすくめた。

 そして、ちらりと窓の外を眺めた。

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