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(未完放棄作品)  作者: 小林一二三
第2章:ピツンノイア遺跡
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第5話:新しい道を往く者たち

 5月(篝火の月)4日。サーフル公国は首都、パイゼングイート北西には山岳が広がっており、数々の歴史的建造物が、それらに興味を抱く者を待ち構えている。


 ここ、ピツンノイア遺跡もそうだ。


 時が流れるその前、さらに言えば、光なき常闇の時代から存在するこの遺跡は、他の遺跡と異なる。丘陵と自然によって、人目から隠れるように佇むこの遺跡を発見できる者は限られる。


「ビンゴ」


 フィンガースナップを響かせた後に、()()()()()()()は笑みを浮かべて言った。


「ビックリ箱だ。中にどんなビックリが潜んでると思う?」


 野太い声に暑苦しく動く四肢、()()()()()()()()()()()()()()()()()()は白い歯を輝かせながらサンハクに問いかけた。


「アンデッドに巨大ネズミ、病気でも持ってないといいが」


 ()()()()()()()()()()は右手の甲をサーベルの護拳に擦りつけ、溜息交じりに不満を吐いた。


 サンハクとアンドレアスがホルティの愚痴を聞き取ると、2人は顔を見合わせ、


「らァッ!!」

「ふんッ!!」


 遺跡の威容を封じ込める重い鉄扉を、蹴り開けた。


 直後、密閉された遺跡の空気が、3人を追い返すように這い出る。


「足の骨が折れたかも」

「1本ぐらいどうってことない」

「行くぞ……」


 目を開いていた3人は、遺跡の洗礼をその身に浴びてしまった。偶然としか言えないが、遺跡の暗闇がそれを呪いだと裏付けるには十分なほどに、気味が悪かった。


「埃と多湿は最悪の組み合わせだ。飯が不味くなる」


 鎌首をもたげた遺跡の空気が、全身を逆撫でる。サンハクは持ち手を軸にトンファーを回転させると、クシを取り出して髪を整えた。


「裏方を労ってほしいね」


 アンドレアスはライターを手に、遺跡の柱に固定された松明へ点火した。驚くべきことに、1箇所の松明が灯ると、他の松明や篝火も超小規模の爆発を伴って、火を宿した。それと同時に、アンドレアスが葉巻にも火を与える。


「マジックの優れた点と言ったところか……?」

 

 だが、それは歓迎の灯火などではなかった。遺跡の時が動き出し、ドレイド【1】達が朝を迎えたように、重い瞼を開いたのだ。


 【1】古代の墓地を守護すると言われているアンデッド。多くの個体は、エンバーミング処理が施された死体に、魔法陣が描かれている。どういった目的で何を原因として、遺跡を徘徊しているかは不明。名は、乾いた死体の意。


「おっと、なんだ」


 明かりは松明と篝火だけの仄暗い遺跡だが、柱と柱の間に死者のベッドがあることと、道が2つに分かれていることが判明した。その内の1つは、崩落によって封じられているが。


 遺跡の入り口を見回していたところで、ようやく4体のドレイドが死者のベッドから這い出てきた。


「リ……ヴァ・モ……ラ……フ・レーヒ……!」 


 ドレイドは、理解できない言語をしわがれた声で口々にこぼした。そして、ホラー映画よろしく、ドレイドは立ち上がろうとする。人間に比べたら遅い動きだが、敵に恐怖を植え付けるには、適切な動きだ。


「なんてぇ?」


 サンハクが耳に手を当て、惚けている間に、鈍い音と、刃物を振り下ろす音が響く。既に4体のドレイドは動くこともない死者となっていた。 


「死人に口はあったようだぜ」

「これで遺跡全体のアンデッドが動き出しただろう。楽できるのは今回だけだ……」


 その分厚い肘を叩き込んであろうドレイドの頭蓋を、アンドレアスは灰皿代わりにして、葉巻を押しつぶした。


「それって死者への冒涜だな」

「いや、遺跡のお掃除屋さんだ。死者じゃない」

「死人に口なし……」

 

 遺跡に3人の笑い声が響く。3人はそのまま道を左に進んでいった。





 同刻。


 計画が一頓挫を来し、夢を掴みそこなった硲鉄郎、何らかの秘密をひた隠す我修院大和、興味本位か、はたまた何かしらの意図があるのか柴島隼人、胸の内を明かさないが、事の帰趨を見届けるつもりである忍足肇、閉塞された空間から飛び出したジェネカ・ゴットシャル。


 以上の5人は勅令に従い、国立図書館から北西に位置する街、ポガショサに向かった。


 北に広がる山岳が街を見下ろし、街中には()()()()を横断する橋が存在する。そんな街だ。


 何か面白い出来事があるか? と住民に聞けば、必ず『北に向けば遺跡群があるが、おすすめはしない』と口々に言う。


「柴島、ピツンノイアから()()()()()()()までどれくらいだ?」


 刺激がない街といえど、近代化は進んでいるようだ。柴島との会話を尻目に、硲は銀行の入り口で、メモ帳とペンを忙しく動かしている。


「早くて1週間、トラブル込みだと2週間」

「……わかった。お前らは食料と必需品の調達頼むぞ。金を下ろしてくる」

「まぁ待て。あーその、お前1人じゃ不安だ。ワシが付いてよう。ほら、散った散った」


 我修院がサラシを巻いた両手を広げると、柴島、忍足、ジェネカが四方山に散っていく。


「好きにしろよ。アンタのこと信じてたのに、裏切りやがって、次は何だ? 『お前は方向音痴だから1人にできません』かよ?」

「そうカッカするな。別の手段を示そうと思っただけなんじゃよ。ワシも」


 銀行の窓口までは、人混みの間隙を縫って進むしか方法はなかった。だというのに、硲と我修院は激しく言葉をぶつかり合わせる。傍から見れば、とんだ迷惑だ。


「いいんだぜ? アンタは学校休んで好きな旅でもすりゃいい! いつになっても卒業できないだろうがな!」

「全てはお前のためじゃ。この力を得たのも、いや……このチャンスを掴んだのだって旅の途中じゃぞ!」


 銀行に群がる集団は言葉を交わさずとも、『迷惑な奴らだ。さっさと窓口まで進ませて退散してもらおう』と、行動にでた。硲と我修院を細い目で睨みながら、周囲の集団は海を割るように、離れていく。


 不幸にも、割れた先に姿を現したのは、銀行の警備員であった。


「これもアンタのせいだ」

「そりゃどうも」


 『アンタなんかより兄貴の方がよっぽど頼りになる』、その一言をなんとか抑えた。


 


 喧嘩っ早い2人が銀行で警備員のお世話になっている頃、街の中心部で開かれる市場にて。


 刺激の少ないこの街の楽しみといえば、この市場だ。照りつける太陽の下、各々が心血を注いで育てた野菜、肉、さらには宝石や、鉱石などが街ゆく人の視線を浴びている。


「……鋼鉄を2つ」


 中でも一際、熱い視線を浴びせたのは忍足だ。忍足は数分の間、インゴットを取っ替え引っ替え手に取り、顎に手を当てては市場を歩き回った。が、ようやく決心がついたのか、ポケットマネーで鋼鉄のインゴットを2つ購入した。


 忍び装束で市場を歩き回ったので、恐らくは『不審者だ』と思われただろう。彼が、住民の視線に対してどう思っているかは不明だ。


「どうすンだ? そりゃ」

「……例の女子(おなご)の実力を測る。それより」


 話があるんだろう? そう言いかけ、柴島は忍足の口に人差し指を当てた。


「その女には手伝ってもらおう。内兜を見透かせるかもしれない、そうだろ?」

「……そのような手は潔しとしないが……、この場合は致し方ない。……そろそろ彼奴も気づくべきだ」


 柴島は深く息を吐き、


「夢は長いもんだぜ」

 

 そう呟いた。

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