表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
(未完放棄作品)  作者: 小林一二三
第2章:ピツンノイア遺跡
18/18

第15話:二人三脚

「テツ! 隼人! ごっこ遊びは後にしろ! ここは直に崩れるぞ!」 


 硲と柴島、両者が言葉も交わさずに深く思いを巡らせていると、仰々しく、鬱陶しい我修院の声が響いた。それと同時に、硲は柴島の左肩に置いた手をさっと、離した。ごっこ遊びをしていたわけではない。 


「走るぞ!!」


 石と石を擦り合わせるような音が響いたと思うと、──最初はそんな音だったが──昂っていた心臓の鼓動を掻き消してしまうほどの重く、低い音が響き、()()()


 見えない恐怖への不安と、精神的な疲労、その2つが柴島の肩にのしかかっている。だが彼はいつものように、『なんともない、平常だ』とでも言いたげな顔で我修院を小突いた。


「何が起きてるってンだ? 肇は?」


 我修院に答えを求める。この男は──柴島から言ってしまえば──低知能な愚か者に過ぎないが、今まで起きたこと、これから起きることのほぼ全てを把握していることは明白だ。


 身体に悪影響を及ぼす姿勢で長時間拘束されていた我修院は、気が抜けた視線を柴島に落とすと、


「水銀じゃ」


 の一言。


「ンだって?」


 我修院に促され、背中に這い寄る暗闇に目を向けてみると、そこには波のように押し寄せる大量の水銀が!


「ンだこりゃあ……」

「やっと出口か……!」


 二言目を受け取る前に硲が口を開いた。


「あー、どうなさいましたか?」


 出口では貴族の令嬢が、首を傾げて3人を待ち受けていた。悪魔のような面で走り寄ってくる男共に歩み寄り、手を挙げて注目を浴びようとするが、彼らの視線は遥か頭上に焦点を結んでいた。


 入門者を威圧する男女の像だ。


「オイオイオイオイ、倒れるんじゃねぇのかッ!?」


 事実、硲の勘は当たることになる。石灰岩の巨像が倒れ、たちまちそれは魔法を掛けられたように水銀と化し、ジェネカ・ゴットシャルを追った。


「間に合わんッッ!!」


 幸いなことにも、4人は集団として固まっていた。だが、不幸なことに四方八方を水銀の波に囲まれている。


 このままではほんの数分で、考える隙も無く溺れ死ぬ……、


「やむを得ないかッ!」


 そう言った我修院の顔は正に鬼の形相。額に太い血管が浮き上がり、目が充血している。


 そんな我修院が硲、柴島、ジェネカの3人を強引に引っ張った。


「狂ったか!」

 

 我修院の考えではこのまま全員で死ぬのを待つ、それが最善の策で、今から神に会いに行こうとでも思っているのか? そう(いぶか)しむ硲でさえ、もう死ぬしかないのか、と思考を強制的に停止させていた。


「“愛しき神よ、我らが女神よ、潤いを地に、眼差しを民に、聖杯の加護を我に授けよ”」


 何らかの呪術的な詠唱か──だが言い終えた時、我修院の手に握られていたのは直剣だった。


 柄と鍔にあたる箇所にダイアモンドのような……何らかの鉱石か、はたまた何らかの()()が固定具や溶接もなしに自転し、光を放っている。


 その瞬間に硲と柴島は、またしてもこの男の謎に足を踏み入れたのだ。一方、ジェネカは、一連の詠唱と、それらから引き起こされた現象を鑑み、ある物語に共通点を見出した。


 だが、それは今語られるべきではないだろう。




「そ、そこが一番傷が深い……」


 危機は去った。未だに水銀は広い洞窟に満ちているが、我修院が放った光で、一定の空間だけは確保できた。今は薄い膜のようなものが彼らを護っている。


「…………」


 あれから1時間は経った。未だにアドレナリンが身体を走り回っている気がしてならない。硲は落ち着くこともできずに、爪先から頭頂まで傷だらけの我修院と、それを手当てする柴島とジェネカを見守っていた。


「動くと余計に傷が広がってしまいますよ、少しの……辛抱です」

「この傷口にゃあ消毒液に漬けたガーゼを詰めたほうがいい。止血が最優先だ」


 この1時間で猫科の肉食動物に襲われたわけでもなければ、不満を爆発させた硲に袋叩きにされたわけでもない。ただの人間には認識することさえできない何かが働いた。


 その力は体感で、我修院に宿っている原初の炎(オリウス)を遥かに超越した力であるとわかる。


「肇、探してくる」 


 硲は喉に込み上げた数々の疑問をぐっと飲みほした。それを我修院に投げかけたとして、彼を我修院たらしめる謎という1つの魅力を、紙のように容易く破り捨てることはないだろう。


「ッチ、待ちやがれ」


 硲の肩に、柴島の繊細な5本の指が食いこむ。 


「わかるだろ、時間がないんだ。1人で事に当たる」


 この場にいる男女は既に15を超えている。その年なら当たり前だが、所謂下の毛も生えているわけで、それが彼のアイデンティティになるわけではないが、もう互いに『友達』だの、『仲間』だのと言えるような低いプライドはない。


 それを一番理解しているのは柴島だ。が、自らが見てきた硲の生き様からして、ここで1人で無茶をさせれば、必ずや辛酸を舐めることになるだろう。 


「噛みついてでも行ってやる。後悔したくないなら、他人を少しは信用すべきだ」


 柴島は覚悟を決めて、硲の隣に並んだ。


「…………」


 硲は鼻から大きく息を吐いた。


「プライドを守りたいのは理解できるがぁ、あっしがいないと困るぜ、アンタ」


 硲の肩から柴島の指が離れたと思うと、今度は柴島の右腕が肩に掛かった。


 同時に、柴島の右手の甲も視線に入る。透き通った蒼いルーン文字が奔っているのがわかるが、対照的に硲の手の甲は稲妻のような黄金色が消え失せていた。


「それに……どうする気だったんだ? この薄い膜から出りゃあ、水銀に呑まれるゼ?」


 嘲笑するように、そして鬱陶しい柴島の囁き声が、硲の片耳に入り込んだ。


「……わかったよ、カッコつけて悪かった」


 こうしている時間は無駄だと理解しているが、硲にはどうしようもない。


「貸しができたンじゃねぇか?」


 柴島の意志に呼応し、手の甲のルーンが一層、輝きを放ちだした。

レポートという名の学業のせいで集中できず、執筆に精が出ませんでした。

ですが、レポートなどというものは既に過去の遺物!! これでようやっと執筆ができるぞ!!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ