表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
(未完放棄作品)  作者: 小林一二三
第2章:ピツンノイア遺跡
17/18

第14話:Familiar

「うっ……くっ、う、動け……!!」


 おそらく、絶体絶命という状況は人っ子1人の儚い人生で1、2回ほどしか立ちはだからないだろう。


「く、に……じま……!!」


 我修院は今がその絶体絶命という状況であることを本能的に理解した。心臓の鼓動は痛みを感じてしまうほどに鳴り響き、流れてはいけないマズイ汗がだらだらと皮膚の上を奔る。


「…………」


 そんな中で正常な思考を巡らすのは至難の業と言えるが、我修院は死を前に瞑目した。


 オリウスという力を硲や友人に誇示することができても、あの力だけはこんな状況、そして仮にも同じ釜の飯を食った友人に使うべきではない。授けられた聖なる力を無礼に、そして大胆と発揮するのは罰当たりだ。


「くっ……!!」


 我修院は込み上げてくるベストの選択をなんとか押しつぶした。それさえ採択してしまえば、一気に状況を打破できるというのに、なんとも惜しい事だ。


 一方、硲は鳩尾から絶え間なく続く痛みに、苦しみ喘いでいた。


「が……ッシュ……!」


 こんなところで大事な友人を失うわけにはいかない。頼む、力を貸してくれ……硲はその時だけは神と悪魔を礼賛し、祈った。


 殺意……悲哀の籠った覚悟……届きそうで届かないもどかしさ……ここまで強力なエネルギーが働くと、起こってはいけない事が起こってしまうのではないか、という考えが芽生えてしまう。


「貴族だろうが……神でも悪魔でも……バカな流入者でも……便所の蝿でもいい……一瞬だけ、ほんの少しだけ()()()に力を寄越しやがれッッ……!! クソが!!」


 そうして、何度も、何度も、あの忌まわしい貴族が創った歪なナイフを砂岩に突き立てる。


 もう時間は残されていなかった。我修院へ、柴島のクリスタルの大剣が振り下ろされた。


「お前も……もう一度力を貸せ……!!」 


 我修院の目前に大剣が迫った刹那、右手で突き立てたナイフが神々しい光を放った。


 ──僅か1秒、果てはそれ以下かもしれない。ナイフが光を放ったと思うと、右手の甲に再び、あの紋章が黄金の輝きを放って浮かび上がった。


「…………?」


 そして稲妻が奔ったと思うと、砂埃を巻き上げて()()()切り落とされた。


「鳩みたいなアホ面だぜ、今のオマエ……」


 科学技術が大きく進歩した昨今、魔法などという人の知恵や常識的な理論で説明のつかないものは跡形もなく消えた、そう硲は信じていた。


 だが違った。説明のつかない力は頭だけでなく、体全体、そして魂をも駆使し、考えるのではなく、感じて……そして信じることで発現した。


「調子に乗るのは後にしておけ! 今は……お前しかやつを説得できん……!!」


 余韻に浸かるのはまだはやいようだ。我修院に喝を入れられると、硲は大きく息を吸って……構えをとった。


「歯ぁ食いしばれ……」


 拳を合わせ、わざとらしくポキポキと音を鳴らし……、


「テツ……!! 説得っちゅう言葉を理解できんのか貴様ッ……!!」


 煩わしい傍観者の声を頭から消し去り……、 


「オラァッッッッ!!」


 柴島の放った拳よりも、遥かに重い拳が、柴島の鳩尾にめり込んだ。そう認識した瞬間に、柴島の身体は大きく弧を描いた。


「カ゛ハ゛ッ゛ッ゛……!!」

「これで……おあいこだぜ。全部チャラだ」

「テツ……とち狂ったか貴様は……!!」

 

 数分前の空間が嘘のようだ。この四角錐の建造物内には、もうネガティブなエネルギーなど感じ取れない。


「部外者は黙ってろ!! これはオレと……俺達の問題なんだよ……」


 まるで鬼のような表情で、硲は我修院に叫んだ。その鬼気迫る気迫は、さすがの我修院でも跳ね返すことはできなかったようだ。


「隼人……こうやってサシで駄弁んのは久しぶりだな。んでよぉ、覚えてっか? あの日の事」

「か゛ッ゛……、く゛……」


 歯を食いしばり、痛みで歪んだ顔を柴島が浮かべている。硲は横たわる柴島を見下ろすように座り、我修院の言う“説得”を開始した。


「お前が家出した日のこと、テメェでテメェを嘘偽りで塗り固めた日のこと、それから……」


 硲はしばらくの逡巡の後、徐に口を開き、


「……オレとオマエで暴れ回った日のこと、オマエにオレの夢をぶちまけた日のこと、そしてオマエもオレに色々とこぼしてくれた日のこと……おっと、臭ぇセリフは苦手だったな」


 硲は愉快に口角を上げて満面の笑みを浮かべたが、柴島は以前として無表情を貫いた。


「んで、あの日が来た。オマエとガッシュや肇までも、オレのくだらねぇ夢に一枚噛んでくれたがぁ、その前にオレの限界が来ちまった。俺はオレを見失っちまった」


 柴島の憎しみを込めた視線は、満面の笑みに一筋の涙が落ちたことを見逃さなかった。


「でもこうして……一時的にだが……戻ってこれた。まま、タイムリミットはねぇけどな」


 その一筋の涙は頬を伝い、硲の右手の甲にぽつりと落ちた。


 見ると、右手の甲の輝きは既に失われていた。


「はは、ほら、もうすぐでオレは消えちまう。またあの時の俺に戻るんだ」


 (はな)を啜る音が聞こえた。次の瞬間、堰き止めていた涙が、硲の頬に濁流のようなスピードで流れ落ちていく。


「オマエもオレも、テメェを見失ったからなぁ……」

「ナニガ……言イタイ……」


 無言を突き破り、遂に柴島が口を開いた。硲は決心した。『ここで畳み掛ける』と。


「んじゃ、テメェを見失ったバカ同士、また人生ってのに意味(過程)を見つけねぇか?」


 あの日の言葉だ。その言葉に価値などなければ、他人が耳にして感動することもない。だが、柴島にとっては特別な言葉に違いなかった。


「結果は……」


 すると、柴島の目に人間らしい光が灯った。


「……その後で掴み取ろう……ッてか……? 馬鹿馬鹿しい。感動もクソもねぇよ……」

「ハハハ、こっちぁお前に臭いセリフ吐かせただけで満足だぜ」

14話です!

ご指摘、ご批判、その他、小林へぶつけたいことはTwitterのDMや感想欄へどうぞ!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ