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(未完放棄作品)  作者: 小林一二三
第2章:ピツンノイア遺跡
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第11話:Countdown

 大地が重低音とともに激しく揺れ、周囲の石壁や遺跡の跡が、蛹から蝶になるように形を変えていく。


 本来ならば絶対に逆らえない法則を突き破り、洞窟が巨大な遺跡群となる。ほんの数分前までは、身長185cmの我修院が飛べば頭上に手が届いたというのに、今ではまるで距離感がつかめず、真っ黒だ。


「こりゃあどうなっとるんじゃ……?」 


 目の前の現実を目にして、我修院はあんぐりと口を開けた。こんなことが起きる原因は、大規模な魔術か神々の悪戯、その2つでしかありえない。


「強い深み(マグス)【1】が感じられますわ……!」


 不可視の力を感じ取ったのか、ジェネカは地に両手をつけ、瞑目した。


 【1】ミルマニア大陸の果て、通称“世界の終わり”“深淵の沼底”“暗闇の手”から湧き出る暗黒流体エネルギー。この世界の住人が魔術や創造を扱えるのはマグスの恩恵である。(流入者は例外だが)。


 幸いなことに落石などの危険はなかった。が、一連の摩訶不思議な洞窟の変形の影響で、我修院は自分がどこにいるか、どこが出口で、何があるのか、完全に脳みその回転に限界がきていた。


「んだぁ? せぇっな……」


 さすがに激しい揺れで目が覚めたのか、硲が寝袋から顔を覗かせた。だが、無理もない。暗い空、砂岩の壁、目の前にある黒鉄【2】の柵の向こうには、四角錐型の建造物が聳えている。


 【2】鋼鉄にマグスのエネルギーを混合させてつくられる特殊合金。 


「あぁ……。はは……」

「おいガッシュ。どうなってんだ」


 言葉を失った我修院は目つきの鋭い硲に頬を引っ叩かれ、ようやく心に落ち着きを取り戻した。


「洞窟……じゃな。形は変わったが……いや、これが本来のピツンノイア遺跡なのかもしれんぞ……」

「そうか。じゃあ、行くぞ。生憎だが時間がない」

 

 黒鉄の柵を開けるため、硲はすぐさま壁から吊り下がったレバースイッチを強引に引っ張った。すると同時に金属音が鳴り響き、黒鉄の柵が下へ下へと沈んでいく。 


「あ、あの……」

「ん? あぁ、アンタか。いつも世話になってるようだな」


 ようやっと会話の隙に斬り込んだジェネカは、靴ひもを結んでいる最中の硲の肩に手を置いた。


「ど、どちらへ行かれるのでしょうか?」


 手を置いた肩が普段の硲より、広いように感じた。恐らく、心理現象なのだろうが、バンダナを額に巻いた硲は別人のような目つきと、燃えさかる情熱に身を包まれているような気がする。と、ジェネカは困り眉で頬に手を当てながら考えを巡らせた。


「どちらへって? そりゃあ流れに身を委ねて先へ進むんだろうがよ」


 それから硲は一息整えて、


()()()にとって、重大な選択の時が迫ってる。そこでだ。お嬢さん、ガッシュ、力を貸してもらいたい。可及的速やかに事を終わらせる必要がある。あのバカどもを起こさにゃならん」


 図太く、熱が籠った早口で想いを伝えると、硲は我修院と向き合った。


「説明はいらんようじゃな」

「頼む」


 硲が右手を高く掲げると、我修院もそれに応じて高く右手を掲げる。


 ──シュボンッ!! 小規模の爆発音が響いたと思うと、我修院の右手を包み隠していたサラシが炎に巻かれ、灰となった。


 熱を巻きつけた我修院の右手と、硲の右手が勢い良く重なると、──バチンッ! と音が響き、硲の右手が我修院の右手から弾かれた。


「迷いがあるようじゃな?」


 我修院は眉間に皺を寄せ、硲の眼差しを圧倒する。


「今は無理でも、先に託す。そん時のオレによろしくやってくれ」


 この数分の間、ジェネカは頭上に疑問符を浮かばせるしか選択肢がなかった。だが、なんとか双方の意志を汲むことはできる。恐らく、消えた2人に何かよくないことが起こったのだろう。だが、なぜ硲はそのことを知っているのだろうか?


「あ、あの! 才能がないので歪な一品になってしまいましたが……! どうかこれを!」


 ジェネカは、鋼鉄を基に創造した歪な形のナイフを、不完全燃焼で垂れさがった硲の右手へと託した。


「こりゃ確かに出来が悪いな……だが、文句も言ってられねぇ。今は隼人と肇が先だ」

「どんなことでも、逆境になればなるほど燃えてくる……!」

「才能はありませんが……それでも貴族の端くれ。不肖、ジェネカ・ゴットシャル、一族の名にかけて成せるものはなんでも成しましょう」 


 熱く渦巻く硲の情熱が、冷えきってしまった2人の薪を燃やす。そうして3人は四角錐の建造物の大門へと走り出した。





『隼人……! 自分がやろうとしていることの重さが解らないのか!? 汗水流して積み上げてきたものを無かったことにするんだぞ!! 今からでも遅くない! 戻ってくるんだ……!』

『隼人! お父さんの言う事をなぜ聞けないの!? 確かに貴方がそういう時期なのは理解できるけど……でも、今まで集めてきたものを手放すなんて……お父さんとお母さんへの裏切りなのよ……!』

 

 頭に響く声は、どれも憎しみと疑問、その他あらゆる感情を向けた人物に間違いなかった。人生という長い道を歩く()()に、その者達はあらゆる難題と、思想を押しつけてきた。


「う……るせェ……ぞ……! 出てけェ……! あっしはあっしだ……! 指図すンじゃねェ!!」


 そんな無理難題をこなしてきた自分は、正に唯一無二の存在だった。


 このままレールの上を走っていけば、いずれ来る時に世界を引っ張る偉人となるのだろう。それは彼を見る誰もが確信したことだし、彼自身も胸高らかに誇っていただろう。


「違ェ……。違う!! 消えやがれ……!! ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!!!!」


 そんなある日、自分は気づいてしまった。


 柴島隼人はやっと……自らの首に鎖が巻かれていることに気がついた。


 柴島隼人のは才能と学習能力は留まるところを知らず、いや増す好奇心と探求心は、だが柴島を視野狭窄に陥れていた。


「結果……。結果……ね……。あァ……結果が全てだ。敗北者は何も語れねェンだからヨォ……!」


 またある時、柴島は到達した。肉親に結果(勝利)を提示され、それに向かってただひたすら、邁進していただけだという考えに。それだけに、彼は勤勉で、従順で、類稀な才能をもつ優秀な人間だった。


「だからよォ……。過程(意味)を教えてくれるよなァ……? 鉄郎(兄貴)ヨォ……!」


 意味が付随しない行動や知識に、過程を軽んじる結果に、満足感と責任感は生まれなかった。


 そうやって、柴島隼人は疑問と筆舌に尽くせない感情に苛まれるしかなかった。


 そこへ一筋の光が手を伸ばした。鎖から放たれた猛獣に。

11話です!

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