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(未完放棄作品)  作者: 小林一二三
第2章:ピツンノイア遺跡
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第10話:火の目覚め

「朝じゃな……」


 心臓に響き渡るほどの音で我修院は目を覚ました。


「あァよ……」


 彼らにとっての朝は特別なものに違いなかった。日が昇ったことも、月が落ちたことも、彼らにはわからない。言わずもがな、こんな洞窟では携帯電話を充電するコンセントなどないため、アナログ時計の目覚ましと、忍足の盛り付けた朝食から漂う、なんとも香ばしい匂いで起きるしかないのだ。


「……飯だ」

「起きてくださいまし!」


 忍足が忍び刀の鞘で、目覚めの悪い2人を文字通り叩き起こした。時刻は8時30分。どうやら忍足とジェネカは先に起きて朝食の準備をしていたようで、シートの上には温かい料理と、瓢箪をくりぬいたコップに茶葉が浮いたマテ茶が我修院と柴島を待っていた。


「……目覚めぬわな」


 目覚めの悪い2人が匂いに釣られて忍足の方へ向かうのに対し、忍足は逆にテントと寝袋の方へ向かう。


「……柴島よ、(のち)の水汲みに同行を頼む」


 重みのなくなったバケツを手に、忍足も朝食の輪に加わる。


「ッチ、だりーな」

 

 柴島はいつもこうだ。興味の湧くこと対しては情熱的だが、それ以外のことは、まるでその存在を認識していないかのように振る舞う。それが彼の魅力的な個性であるのかもしれないが。


「……して、貴女(きじょ)にはこれを頼めないだろうか」


 柴島の横腹を柄で小突いた忍足は、素早い動作でジェネカの方へ方向転換し、胸元から鋼鉄のインゴットを取り出した。


「えーっと……」

「……創造」

「なるほど……」


 流入者には備わっていない才能を、この世界の住人はもっている。ジェネカもその一人だが、魔術や奇跡、創造【1】や遷移【2】は個人の才能によって完成度が違ってくるのだ。


 【1】暗黒流体のエネルギーを用いて、人間の手では加工できない金属や、木材などの物質を、自らが思い描く形に加工すること。魔術や遷移などと組み合わせる高度なテクニックを駆使する者も存在する。

 【2】使用者が食してきた生物の生体情報(情報を得たい生物の新鮮な脳みそか心臓、或いは体の80%を生食する必要がある)を自身の身体に反映させること。魔術や創造によって具現化することも可能である。


「学院での成績はあまり、よろしくありませんが……」

「……武器になるものを頼む」


 尻込みするジェネカに、忍足は鋼鉄を握らせた。


「な、ナイフであるならば……、30分ほど頂ければ、ですが……」

「……ではその()に水を汲んでくる」


 ジェネカにとって、とても断れる頼みではなかった。元はと言えば、閉塞された空間から脱し、箱入り娘を卒業したいがために、無理を言って同行してきたため、ここで自らの価値を証明する必要があるのだ。


「行く先々で女を困らせるヤツじゃのう……」

「困らせてるッて自覚はねーぞ、多分」


 我修院と柴島は呆れた表情を忍足にみせた。


 それに気づいた忍足が、 


「……()くぞ」


 と柴島の背を(こじり)【3】で小突く。


 【3】刀剣の鞘の末端。


「ッたく、世話焼かせやがってよォ……」

「ドレイドにゃあ気を付けるんじゃぞ、何かあったら叫べ」


 はいはいそうですか、と言いたげに柴島が鼻を鳴らす。それに気づいたのか、忍足が柴島を小突いて、2人共に洞窟の奥へと消えていった。


「あの……作業に入る前に、1つ、よろしいでしょうか?」

「あぁ、お嬢さんがワシに聞きたいことなんざ、1つしかないわな」


 我修院が一息つき、硲の方へ顔を向けると、徐に口を開いた。


「質疑応答でいこう」





「……待て」


 昨日の件もあり、忍足は普段以上に周囲を警戒している。そして、何かが這うような音が耳に入ると、すぐさま、忍足は抜刀のできない忍び刀を然も、『近寄る者は切り捨てる』と言わんばかりに柄を握った。


「あ~?」


 広い空間を見渡せど、蛇やゴキブリなどは見当たらない。が、


「おい肇」


 柴島が視線を落とすと、腰から下が無いドレイドが2人の足を掴もうと這い寄ってくるではないか!


「……こやつらも、乾いた肉体では満足に戦えぬだろう」


 バケツを柴島に投げ、忍足は足の裏でドレイドの頭を踏みつけた。冒涜的な行為であることは承知の上だ。


「……石を」

「オイ、コイツ、なンか持ってんぞ」


 忍足が10m先にある石を拾ってこい、と指をさすと、柴島は石ではなく、再びドレイドへ視線を落とした。よく見てみれば、ドレイドの右手に何やら、『鱗』のような化石が握られている。


「……気をつけろ」


 その一言で柴島からバケツを受け取ると、忍足は蛙を睨む蛇のように、鋭い眼差しをドレイドへ向けた。


「面白れェ、ンだこりゃ?」


 ドレイドに抵抗する力は残っていないようで、その姿はさながら、ご主人に『待て』を告げられた犬のようだった。


「魚の鱗かァ?」

「……寄越してみろ」


 忍足は既に用済みとなったドレイドを片足で蹴り上げ、柴島から鱗を受け取る。一方は、美しい六角形が規則的に並び、また一方は粘土にいい加減な線を不規則に刻んだような鱗だ。どちらも、厚さは1.5cmもあり、石のように硬い。


「ンだ、痛ェ、ぞ……?」


 すると突然、数秒前に化石を握っていた柴島の右手にピリピリとした痛みが走り、だらん、とだらしなく力が入らなくなった。


「肇ッ、今すぐに捨てろッ……!」


 なんとか左手に力を入れ、柴島は忍足の右手と化石を精一杯の力で叩いた。


「ぐッ、ンだよ、畜生……!?」


 遂には、全身に力が入らなくなる。土埃を周囲に撒き散らし、柴島はその場に倒れてしまった。


「……どういうことか!」


 激しい痛みに耐えられず、顔を歪める柴島に寄り添い、忍足は黒のジャケットとTシャツを即座に脱がせた。


「み……ぎ、手……、だ」


 食いしばった口から血が垂れるが、柴島はなんとか、痛みの原因を伝える。


「……これは……?」


 裏返った右手を表に返すと、なんとも奇怪な現象が起こっていた。


 握った右手は氷のように冷たく、手の甲から肘関節にかけて、刺青のような模様が蛇のように奔っている。


 その瞬間、忍足も右手に異常を感知する。


「がしゅ……う……!」


 痛みと同じくして、()を感知した洞窟が形を変え、2人の流入者が姿を消した。

すごく遅い。とにかく遅い。

投稿が遅れたのに言い訳はござらんッ!

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