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(未完放棄作品)  作者: 小林一二三
第2章:ピツンノイア遺跡
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第9話:Brotherhood

「ぐっ……あぁ……、ここ、は……?」


 まるで自らの存在を否定するように、激しい頭痛と、海水にでも浮かんだような、そんな不愉快な感覚が硲を襲う。


「い゛、痛゛ぇ゛……!!」


 あまりの不愉快さにやはり、人間は耐えられない。そこで、ようやく硲は感覚を認識した。だが、己が身をみてみれば、霧のように不確かな肉体が、何も無い、真っ白な空間に跪いている。


「……よォ、兄弟」


 不愉快さと疑心の中で、硲の頭に声が響いた。その声は硲鉄郎という男の声で間違いなかった。


 そして、その声を認識すると、真っ白な空間に、バンダナを目深に巻いた硲鉄郎が現れる。硲にとって、これは不思議でしかなかった。ドッペルゲンガーか? はたまた、大麻でも摂取しすぎたか? 幸いなことに、その瓜二つな自分を認めても、両者は狂気に陥ったりはしなかった。


「ンのダラズが……、無茶苦茶しやがったなァ?」


 硲鉄郎は、跪いた軟弱者に向かっていく。軟弱者が立ち上がらないことを確信すると、硲鉄郎は拳──右手の甲が金色に輝いている──で軟弱者の顎を突き上げた。


「なっ──!?」


 顎に思いきり、拳がめり込む。軟弱者は何メートル、何百メートル、何千メートル飛ばされたことか。鈍い痛みが稲妻のように走り、ようやく軟弱者が壁に衝突した。


 彼は、天文学的な数字で後方へ吹き飛んでも死ななかった。音も、速度も、時間も、全てが無だと感じられる。


「や、めろ……! テメェらぁ!!」


 ただそこにあったのは、痛みと苦しみ、そして、何よりも()()の首を絞めたであろう、同胞の声。壁に刻まれた文字から声が響く。それらの声には、明らかに侮蔑や、マイナスな感情が込められている。


『いい歳して、まだやってたんだな、その……研究?』

『貴方に、くだらない幻想を抱いてる暇があるの?』


 中には、血族の声もあった。


「苦しいか? 苦しいよな……誰よりも。だが、お前(オレ)がちっぽけな夢に……、知らなくてもいいことに心血を注いじまったんだ」


 硲の首を絞めた声はいつしか、消え去っていた。だが、軟弱者の前に、また硲鉄郎が立ちはだかる。


『最高にイカれてンぜ、アンタ。脳みそでもファックしたのか? ヘヘヘイ、冗談だよ』

『……まだ立ち上がるか。否、それも既に限界とみた……。楽にしろ、拙者は見捨てぬ……』

『ビッグな夢じゃ。いや、ちっぽけだろうな。他人からすりゃあ。だが、夢なんてそんなモンじゃろう? なんにせよ、ここが正念場だ』


 硲鉄郎は立ち上がった軟弱者に、友の声を聞かせた。それが彼をもう一度、心身ともに奮い立たせる。


『何か、熱心に研究されてるとお聞きしました。よろしければ、この私にもお聞かせ願えないでしょうか? お役に立てるかもしれません……!』


 突然、潤った女の声が響く。低く、粗野な男の声とは違うために、それが女の声だとわかる。


「いい女だな、好きなのか?」

「……いや、ちげーよ……」


 その問いに、軟弱者は目を泳がせる。軟弱者の気持ちなど、硲鉄郎には筒抜けだ。まさに、目は口ほどに物を言う、だ。


「思うに、彼女は自信がないだけだ。力を合わせてみろ」

「そうかよ……」


 まったく関心がない。いや、恐らくは恥じらいを抑制しているのか、軟弱者は下を向いた。


 その視線を追うように、硲鉄郎は腰を落とす。 


「オレゃあ、もう消えるかもしれねェ。……次が最後だぞ。もう力は貸せない」


 そう言い終えると、硲鉄郎は腰を上げ、額に巻いたバンダナを取り、軟弱者へ投げた。


「選べ、オレかお前か。もう一回言う、次が最後だ」


 硲鉄郎が軟弱者に“最後”を言い残すと、硲鉄郎は文字通りの()となり、軟弱者の身体へ吸い込まれ、染み込んでいく。


「最……後……」


 硲には、まだそこが夢の中だと実感できる。鼻が食欲をそそる匂いを嗅ぎつけるが、このまま瞼を閉じてしまいたい。そう思うと、硲は夢の中で眠りについた。

HDDの磁気ヘッドが壊れたんですよ、データ復元頼んだんですよ、無理でした。でも、なんとかできるらしいんですよ、提携業者に頼んで。いくらかかるんでしょうね……?

今作に関するデータが消えてしまったら……もう終わりだぁ!

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