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ぼんやりエッセイ  作者: 中一モクハ
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2018年12月_煽り運転

今朝起きた出来事を取りとめもなくまとめてみました。

 今朝は雨が降っていた。

 寝坊した私は会社に立ち寄る前に近くのコンビニで朝ご飯を買いに行った。

 

 朝食を買いコンビニから出ようとしたとき、同じように老人が傘を出して外に出ようとしていた。

 老人は私に気付いていなかったのだろう、何も気にせず傘を思いっきり開いた。

 私は傘の飛沫を受けて全身が少し濡れてしまった。

 

 今思えば、服に少し濡れた程度なので問題ないと笑って見逃していたはずだった。

 しかし、寝坊したことや朝食を取っていなかったこともあり、今朝の私には“余裕”というものが全くなかった。

 

「おい! 水飛沫がかかったんだけど!」

「……」

 

 私の声を無視したまま、老人は先へと歩こうとした。

 その態度が、さらに自分を苛立たせた。

 

「おい、アンタだよ! 聞こえてんだろ!?」

「……」

 

 老人は隣にいる私を無視したまま、歩く速度を少し上げ前へと進む。

 唇を閉じたまま前だけしか見据えていない。

 ―――どうやら完全に私を無視するつもりだ!

 

 怒りで頭に血が上った私は、老人の後ろを追うようにした。

 何故、自分がそうしたのか冷静になって当時の気持ちを思い返すと。

 

 明らかにこちらに正義があり、この老人が悪いことをした。

 なのに、老人はそんな自分を無視している状況。

 ―――許せなかった。

 

 後ろを追いかける私に気付いたのか、老人はさらにスピードを上げた。

 その老人を追いかける私。

 

 完全に無視を決め込み前を急いで歩く老人に対し、私は次に老人の前へと入り、老人にやられた不快なことを逆にしてやろうという気持ちになった。

 

 掲げていた傘を少し閉じ、老人の前に出て思いっきり水飛沫を浴びせてやる。

 そう思った時、連日ニュースで流れている“煽り運転”の事件を私は思い出した。

 

 痛ましい事件だとニュースを見ながら感じていた。

 なんで煽り運転なんて危険なことしたのか、被害者の方々に深く同情するとともに、容疑者の心理が全く理解できなかった。

 

 だが、今自分は少しだけ容疑者の気持ちがわかってしまった。

 わかりたくなかったのに、今やっている行動は正に煽り運転をしている人達と何ら変わらない行動をしているじゃないか。

 

 私は開こうとした傘を閉じ、その場に立ち止まり老人から距離を開けた。

 そして、大きく深呼吸をした。

 肺の中に冷たい空気が入るのを感じ、少し冷静になることを感じた。

 そして、思いっきり自分の頬をバンと両手で叩いた。

 

「―――よし!」

 

 何が良しなのか自分で言っててもあまりわからなかったが、そうしたくなった。

 周りの人達が自分の奇妙な行動に驚いていたが、そんなことは今はどうでも良かった。

 ―――良かった。冷静になれて。

 

 どうしてあんな馬鹿げた行動をしたのか、大人であるはずの自分に深く反省した。

 

 気持ちを切り替えて、私は会社のあるビルへと入った。

 すると、ビルのエレベータの近くに、私が煽ろうとしていた老人の姿があった。

 しかも、タイミングが悪いことにちょうどエレベータが開いたのだ。

 

 遅刻すれすれということもあり、私は老人と一緒にエレベータに乗った。

 

「……」

「……」

 

 沈黙がとても痛い。

 エレベータからなる微かな振動音が鮮明に聞こえる。

 

(早く着いてほしい)

 

 それだけを思いながら、表示板の階数を眺めていると。

 

「すみませんでした」

「……はい!?」

 

 前を向いていた老人が私を見て頭を下げた。

 私は突然の老人の行動に驚くだけだった。

 

「水飛沫をかけたことは悪かったと思っている。しかし、決してワザとやったわけではないのだ。本当にすまなかった」

「あっ、いえいえ」

 

 老人は私を無視した理由を話してくれた。

 

「恐かったんじゃ。ワザとやったわけじゃないのに、何故こうも責められる。そう思って君を無視し続けた……すまなかった」

「いえ! 私もあんな馬鹿な行動をして本当にすみませんでした」

 

 私も老人に頭を下げた。

 そして、互いに頭を上げて笑みがこぼれた。

 その後、老人とは別の階で別れたが、さっきまで心の中にあった有耶無耶が晴れた気がした。

 

(良かった。あの時、冷静になって本当に良かった)

 

 

 これが今朝、起きた私の出来事だ。

 今、私はこうして冷静になって当時のことを思い返しながら書いている。

 

 今朝の私の場合、まだ車ではない分マシだったのかもしれない。

 しかし、もしこれが車ならどうなっていただろう。

 

 車だと自分と相手の顔があまり良く見えない。

 相手の顔も分からない状態というのは、私が老人に無視された気持ちに近いのかもしれない。

 車寄せや前方に割り込み自分を無視するなと、危険な主張を行うのかもしれないと、私は自分がとても怖くなった。

 

 今朝の私の反省点。

 ・寝坊して朝食を取らなかったことで心の余裕が全くなかったこと。

 

 今朝の私のファインプレー

 ・深呼吸して冷静になれたこと。

 ・素直に相手に謝れたこと。

 

 朝は皆どこか心の余裕がない。

 混雑する通勤ラッシュのイライラや仕事でのストレス。

 どこかピリピリした気持ちが張り詰め、心にどこか余裕がなくなる。

 そうなると、ちょっとしたことがきっかけで、理性を失くした“鬼”へと人は変貌する。

 

 このお話の結論。

 心に余裕を持った行動をとりましょう。

 朝苛立つ気持ちを抑えるときは、少しその輪から外れ大きく深呼吸をしましょう。

 

 そして、今、煽り運転をしている方々へ。

 絶対に止めましょう。こんな悲しい事件はあんまりです。

 ちょっとした怒りが、幼い子供達にとって大切な両親の命を奪うことなど、決してあってはいけません。

 煽った側もその後、「何であんなことをしたんだ」と必ず後悔しますよ。

 

 誰にとっても得をしない話です。

 だから、煽り運転は絶対やめましょう。


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