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教師傷害事件  作者: ゆっきー
4/5

事件を解決する緊張の一面

それから二十分ほど経ち、特に何か出来たわけではないため、町田警部は生徒に教室に戻るように言った。

(どうしたら警部に伝わるんやろう……?)

留理はどうしようと悩むが、引き止める以外に他はないようだ。

「警部!」

留理は緊張しながらも町田警部を呼ぶ。

「なんや?」

「犯人……わかりました!」

「なんやって!?」

留理が事件を解決するという事にまったく期待していなかった町田警部は驚いている。

それは水野刑事も同じだった。

「とりあえず話してくれ」

話だけでも……、と思う町田警部は期待しないで言った。

留理ははい、と返事をすると、緊張を深呼吸に吐き出した。

「まず、富永先生を刺した犯人は山下先生です!」

最初に結論を言ってしまう留理。

その留理の言葉に、動揺してしまう周囲。まさか、犯人から言うとは思ってもみなかったようだ。

「なんで僕が犯人なんや?」

一郎太は不快な表情を浮かべながら逆に聞く。

「富永先生の携帯の留守電に襲うという類の言葉を入れて、今日実行した。山下先生がこの脅迫電話をしたのは一週間前。富永先生はこの一週間、怯えながら過ごしていたと思います」

留理は自分の胸の高鳴りを抑えながら話す。

「だからってそれだけで僕を宮永先生を刺した犯人やなんて心外やな」

「私が先生に話を聞いた時、刺される事をわかっていたかもしれないって言いましたよね? 前もって脅迫で言ってたんやないですか?」

「だから、それは今朝から富永先生の顔色が悪いからそう思っただけの話や。証拠はあるのか?」

犯人だと名出しされた一郎太は、終始不快な声で言う。

「あるに決まってるやないですか。男子トイレに脱ぎ捨てたナイロン製のパーカーです。鑑識さんに聞きましたが、指紋が付いていたそうです。その指紋は山下先生のものです。もちろん、富永先生が襲われた時に付いた指紋の可能性もあります。でも、少なくともナイロン製のパーカーのどこかに山下先生のDNAが付いてると思います」

留理は事件の話をする前に篤史からアドバイス通りに話す。

「でも、私が職員室から出た時はそんなもの着てなかったで」

有美子はそんなものを着ていた記憶がないと反論する。

「長井先生は私と一緒にいましたよね? ましてや、犯行まで少し時間があったから見てなくても当然です」

有美子の反論にも卒なく答える留理。

「残りの四件の脅迫電話は誰が誰がかけたんや?」

町田警部は内心留理の推理に感心しながら聞く。

「それは長井先生です」

「ちょっと待って。残りの四件は長井先生をストーカーしろという電話だぞ? なんで長井先生は自分をストーカーしろなんて言わなきゃいけないんだ?」

水野刑事はわけがわからないでいる。

「それは富永先生を陥れるためです」

「陥れる……?」

町田警部は首を傾げる。

「そうです。三年前に赴任してきた長井先生は、山下先生と富永先生が犬猿の仲だと知り、自分をストーカーさせた。そうですよね? 長井先生?」

留理は有美子のほうを向く。

「それは違う。確かに二人が犬猿の仲だとは知ってる。でも、私は何もしてへん」

有美子は否定する。

「事件をわかりやすく言えば、最初に長井先生が声を変えて、自分をストーカーするように脅迫する。それを長井先生が切羽詰った感じで学校側に伝える。それを知った山下先生が富永先生を脅迫する。そういうことです」

留理は有美子の否定には何も言わず、わかりやすく事件の概要を話した。

「僕と長井先生を脅迫したっていう証拠を見せてくれよ! 君の言ってる証拠は何の証拠にもならへん!」

痺れを切らしたと一郎太は大きな声で反論する。

「それは……その……」

突然の一郎太の反論にしどろもどろになってしまう留理。

「証拠は脅迫電話の声や。分析すればわかる。それに声変えたって話し方は変わらへんで」

どこからか少年の声が聞こえてきた。

全員が声のするほうに向くと私服姿の篤史がいた。

「篤史っ!」

「小川君、どうしてもここに!?」

「留理に事件の話を聞いたんや。警部、富永先生の留守電を聞かせて欲しいねん」

篤史は町田警部に留守電を聞かせて欲しいと願い出る。

わかったと言った町田警部は健一郎の携帯の留守電を再生する。

「お前は長井さんをストーか0してるやろ? 生徒に知られたくなかったら五百万用意しろ。そうやないと襲うぞ」

声を変えた健一郎は金銭を要求している。

「次に四件のうちの一件を再生する」

四件も流すのは……、と思った町田警部は、一軒だけに絞って再生する。

「長井有美子を今月も付きまとえ。そうじゃないとぶっ殺す」

次に声を変えた有美子が女性らしからぬ言葉を使って健一郎を脅す。

「二人は別々に富永先生を脅迫電話をかけていた。この話し方からして山下先生と長井先生ですよね? 留理が言うたと思うけど、富永先生を刺したのは山下先生や」

篤史は健一郎が生きている以上、証言すればわかることだと言う。

「そうや。僕が富永先生に脅迫電話をかけて刺した。確かに犬猿の仲やったけど、少し脅かしたかっただけなんや。まさか、長井先生まで脅迫電話をかけていたなんて思ってへんかった」

一郎太は自分が健一郎を刺したと素直に認めた。

「長井先生はなんで自分をつけるようにしたんですか?」

篤史は有美子に聞く。

「それは……」

有美子はそう一言言った後、俯き加減で戸惑いの表情を見せる。

そして、意を決したように顔を上げた。

「実は私は宮永先生と不倫をしてるんです」

有美子の口から衝撃的な言葉が出た。

その言葉は全員まさかという表情が出ていた。

「三年前に赴任した時から富永先生が好きで、他の教員にわからないようにアタックをして、二年前から不倫関係が始まったんです。富永先生には奥さんと子供がいる事は知ってるけど、富永先生を愛する気持ちを止められずにいました。家庭を壊すつもりはなかったけど、どうしても富永先生と一緒にいたい気持ちがありました。家庭を壊す気持ちはないといっても奥さんと別れて欲しい思いで富永先生を脅しました」

有美子は全てを白状した。

「二人共、そこまでして富永先生を脅迫して何考えてるんですか? 仮にも教師ですよ? 教師としても人間としてもしてはいけない事をしたんですから、きちんと罪を償って下さい」

篤史は険しい表情で自分が通う高校教師二人に言った。

「水野、二人を頼んだぞ」

町田警部は部下に被疑者を連れていくように指示する。 

水野刑事ははい、と返事をすると行きましょうと二人に言う。

「長井先生……」

そこに留理が有美子を呼び止める。

瑠璃に呼び止められた有美子は振り返る。

「私が川崎さんに嫌味を言われた時、長井先生は庇ってくれましたよね。あの時、嫌味を言われた生徒の事を考えつつも嫌味を言った生徒にも相手の気持ちを考えるようにと言ってくれた長井先生が、なんて素敵な先生なんやろうって思いました。なのに、富永先生と不倫なんて……。長井先生の事を見損ないました」

留理は自分の気持ちが裏切られた事を残念だときつく言い放った。

そう言われた有美子は、生徒にそんなふうに思わせてしまった事に自分は教師失格だ、と思っていた。

そして、二人の教師は水野刑事と共に署に行く事になった。

「それより小川君、病院は?」

三人を見送った町田警部は、虫垂炎で入院中だと聞いていたのに、なぜここにいるのかを尋ねる。

「さっきも言うたけど、留理から事件の事を聞いたから……。オレ、病院に戻る……いっ……いたっ……」

病院に戻ろうとする篤史は、術後間もない体で動いたため、再び下腹部の痛みが襲う。

「救急車や! 救急車!」

町田警部は近くにいる部下達に救急車を呼ぶように大声で指示した。

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