堕ちる
「なんで裏から来ました?」
「そちらの社長と話が付いた。
そちらの株式を我が社が2割保有する代わりにそちらが雇用責任を負わない社員を数名彼も含めてそちらに在籍させる。
あとは、葛葉井澄をそちらとの二重在籍にさせ、彼の育成を加速させるという形で、そちらの発展を我が社、我が国が、全力で後押しするという形で。」
答えになっていないが、
「その関係で、入館証が発行されて、店長室に挨拶を行った序でに来たと。」
「そういうこと。なんか悩んでるね。店長さんも葛葉も、えっと、Kさんだったかな。彼も、これには難儀してそうだね。」
ホスピタルと呼ばれる一角に入ってきた宗主が目を向けたのは一台のデスクトップパソコン。
「症状から言うとオーバーホールが妥当だと思うのですが。宗主様はいかがですか?」
「現時点では不治。オーバーホールしても部品交換しても不治。」
「「え?」」
宗主の診断にカウンター内が固まる。
「メーカー側も想定外。OSベンダー側も。―、これをつないで。
マクロファージ解析モード。解析対象OS名…。解析対象機器…株式会社製……。症状………さっきっから、―は何震えてる。あ?あ~そう。よかったねぇ。
さて、これは放っておいて、結果から言うと、特定ソフトと、単独で特定の容量を越えるユーザーデータ、そしてハード。特にこれ、メモリ電源関係だな。それらの複合。メーカーでもニッチ症状だから、コストかけて回収すべきか悩んでるみたい」
「ありがとうございます。」
「まあ、これはいろいろと伝手と権限とがあるから使える手であってあまりおおっぴらにはしない方がいいね。…で、壊れたと。」
「サイドボタンが効きません。」
「それスマホの意味ないよね。」
指紋センサーと自動ロックがあるから困っていないと嗤う―。
『お疲れ様。今戻り?』
井澄の声にテンションが上がる―。
「本当にうちの親戚で一番血が濃そうだよあんたは。」
「そういえば、魔女関係って捜査が進んでいるんですか?」
「ああ。うん。例の師弟は潔白であるとあのぶっ飛び官庁が裏付けたしうちらも確認した。事情を話したら、協力するってさ。」
数日後、井澄のみが、宗主の元に呼び出されていた。
「うちが行けるのはここまでです。」
宗主が待つ家を含む集落に向かう坂の麓で井澄を下ろした―が頭を下げる。
坂を上り、家の敷地に入ると、澄んだ空気が井澄を包んだ。
「お待ちしておりました。」
伊勢と呼ばれた女性が再び井澄を迎える。
伊勢の後について、一寸急な階段を上がると、
「相変わらず、この急に人の気配が消えるのは気味が悪い。」
「この廊下から先は神域ですので。」
「へぇ。」
光刺す障子越しに一定間隔でてるてる坊主のような影が見える。
それを伊勢に問うと、
「悪しき者はそこへしか寄りつけません。」
とだけ言ってすたすたと歩いて行ってしまう。
廊下を曲がると、少しだけ生活感のある空間が見える。
「この光景は落ち着くなぁ。」
階下にある間取りと同じ間取りがそこにある。
階下では仏間に当たる場所の前で伊勢が止まる。
「葛葉井澄様、ご到着です。」
通せの声に伊勢が障子を開け、井澄は部屋に入る。
「突然の招集に応えてくれ、礼を言う。今回の対象と、目的、あの場で何があったかがようやくまとまったが、魔素感染が酷い―は話を聞けば悪化する。耐性というかどちらかというと無効化しているといえるおまえにのみ伝え、対応してほしい。
それから、紹介しておく。おまえの血筋における総元締めの次代当主である摂津氏だ。」
そこには長い髪をゆったりとまとめた女性が座っていた。
「私は、部屋に居ます。何かありましたら。」
そういって、宗主が退室する。
「何から話せば良いのやら。」
「話せることからでかまいません。」
「まずは、君を師匠と慕うあの子やけど、来週単独でここに来てもらって、人間じゃなくなってもらうことになってるんよ。
そうせえへんと、魔素感染が酷くて、このままでは魔素を爆発的にまき散らすことになってしまう。つまりは、細胞を構成する元素という元素が全て魔素に返還されて辺り一面にまき散らされてしまう。そうすれば当然死ぬわけやし君とも今生の別れ。
言い方を変えると、通勤や、一寸した買い物の足がなくなる。あの子は結構君の仕事上の愚痴は、口も挟まずじっくり聞いてくれるやろ。それがなくなるだけでも人間結構ミス増えるもんや。」
渋みのある紫を基調とした着物を纏う摂津と呼ばれる女性が、淡々と語る。
「最終的な施術は私が行うけど。それから君は今からその施術を受けてもらう。」
そう言って、摂津が井澄に対して真っ赤な玉を3つ渡す
「一つは、君の輪廻を絶つ丸薬。一つは元の情報を元にDNAを今の30億塩基対から60億塩基対、2重鎖から4重鎖へと変換するナノマシンの詰まった丸薬。最後は、先の二つが終わるまで君の体を病原体から守る毒の入った丸薬。
これらを時間がかかって良いから飲んで欲しいんよ。」
井澄は生まれつき食が細い。というよりか、あまり一度にたくさんの物を飲むことが出来ない。
たまに―と―行きつけの店に食事に行くと、彼ののどの太さというか、一度にどれだけ飲めるのかと感心する。
摂津は、自身もそうであることと、神子からの情報で、最後の言葉をかけたのだろう。
「多少は体の節々に痛みが出るかもしれん。飲み終えたらそこに横になり。」
摂津の指示に従い、ゆっくりと三つの丸薬を飲み込みいつの間にか用意されていた布団に横になる。
「ものっすごい痛かった。」
「まあ。良いですよ。その話の流れから推察するにうちは、たぶん一週間ぐらい入院ですし。」
「私の通勤どうするの。」
「たぶんトップダウンで強制休みですね。」
―青年の言葉にうんざりした顔をする井澄。
「冗談です。小林、館林ペアに頼んで有りますので。」
「君の冗談はたまに冗談に聞こえないんだよ。」
その日の夜、食事中に―青年は黒い粘液状の物を吐いた。
「早めるしかなさそうやね。」
「―は大丈夫でしょうか?」
119番ではなく早速交換していた摂津氏の電話番号。
連絡を受けてやってきたのは宗主。
「とりあえずこれはこの世界では対応できないんで、…搬送しまーす。」
「魔女さん達は無実でした。」
長い水色髪を後頭部で一つにまとめた女性が教えてくれる。
「犯人ば見つけたけもういろいろかかっとるし、あれ投入します。」
「あれ?」
「緑の浜さん。」
これははっきり言って当該映画見ていないと通じない。
[軍は投入しましょうか?]
「うちの配下だけで良いよ。誰の身内ばけんか売ったか分からせたる。……相手ば女よね。見てくれ良い?」
宗主の問いに頷く本家当主。
「太秦はかわいそうだし…魔力食いって有ったっけ?ああ、有る。それのませて、どっか、国外の浮浪者一杯居るところに放り込んどけば良いね。」
冤罪を被りかけた魔女師弟が、思いっ切り協力してくれて、今回の事案を引き起こした女を捕まえたのは、―が、入院する羽目になった4日後だった。
今回の原因は失恋を認められなかったから。
強力な惚れ薬を作って、相手を自分の者にしようとしてベースになる魔法薬として選んだのがたまたま冤罪を被りかけた指定の作品だっただけ。
魔法薬を作る際に血酒を入れ、そのほか作業場にある物をいろいろ入れてたら倉庫があの場につながったのでちょうど良い、人間の精気をたくさん入れたらもっと強力になると考え、空間を固定し、薬が出来たので倉庫の扉を封印してその場を離れたということらしい。
なお、惚れ薬は効きませんでした。
この答えを聞いて、魔力食いを飲ませて国外へと言う方針はどこへやら。
シュレックを呼び出して、思いっ切り背中をはたいてあのぶよぶよデブにした後、女をあてがったという。
「という訳らしい。」
「あっほくさー。んなことでうちゃこんな入院生活せなあかんのですか。
それはそうと、師匠。」
「ん?」
「今日出勤では?」
井澄のシフト上、この日は仕事なのだが、
「当主様からここに居ろって。店の方は私が居なくても回るから。」
井澄が属するキャリアは、量販店のコーナーも店舗として扱い、井澄は店舗の常勤責任者という扱いである。彼女はキャリア本社からの派遣で有、立場上は彼女の上になるエリアリーダーよりも上だが課せられる責任は遥かに少ない。
まあそんなの今後に関係が無いので気にしないで欲しい。
「つけ麺食べたい。」
「私にとって、君のそののどの太さはオカルトだよ。」
第一部 魔女
どうも作者です。1年以上空きましたが、ただ単に、このしでかした女の動機が思いつかなかったから空いたと言うだけです。
この話は第一部と次の第二部第一話に関して、今は潰えた縁に感謝してという考えで書いていますが個人的都合なのできにせんといてください。
まあ次話もかなり空くかも知らんけど気長にお待ちください