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八十五話

 下へ続く階段はどれほどあっただろうか。列の二番目でヴィルヘルムは三十まで数えていたが、やがてそれも深淵の深さに対する驚きに変わり数えるのを忘れていた。

 ようやく平坦な地に着く。呼応するかのように四隅の松明がそれぞれ進路を示した。それぞれ距離はそれぞれ近い。

「さて、どうします? 分かれて探しましょうか?」

 ラルフが一行を振り返って尋ねる。

 ヴィルヘルムはそれは不味い様な気がした。彼はこの牢獄の名を思い出し、ガルムに尋ねた。

「無限牢と言われているからには何かしら意味があるのだろう?」

「ヴィルヘルム殿、よく気付きましたね。その通りです」

 赤装束の彼なのか彼女なのか未だに分からない相手は道化の仮面の下で忍び笑いを漏らしながら応じた。

 だが、ガルムはそれ以上言わなかった。ヴィルヘルムは気付いた。相手はこちらが考えるのを楽しんでいるのだ。

「おおよそ、正しい順路でもあるんだろう?」

 金時草がつまらなそうに言った。

「その通りです」

 ガルムが歓喜する。

「正しい順路を進まなかったらどうなるんです? 奈落へ続く落とし穴でもあるんですか?」

 ラルフの問いに金時草が応じた。

「いや、単純明快に、元来た道に辿り着くだけだろう。違うかい、ガルム殿?」

「さすがは金時草殿。よくぞ、見破りましたね」

 ガルムは更に喜んでいた。その様子は狂喜乱舞せんばかりだった。

 薄明りの中、レイチェルが不愉快そうにガルムを見ているのをヴィルヘルムは横目で確認した。

「じゃあ、どうしよう? 真っ直ぐ行ってみる?」

 リムリアが一同に尋ねた。全員がガルムを見るが、ガルムは笑うだけであった。ヴィルヘルムは金時草を見た。

「どう思われる?」

「まぁ、ガルム殿でさえ順路を知らないってんだ。適当に進むしかねぇだろうな」

 そして金時草は腰から手の平に収まるほどの細長い物を取り出した。

「それチョークですか?」

 ラルフが不思議そうに尋ねたので、察したヴィルヘルムは教えた。

「俺達が通った入り口に目印としてつけてゆくのさ。そうすれば同じ道は通らないだろうからね」

「ああ、なるほど」

 ラルフは合点が言ったように微笑んだ。ヴィルヘルムを笑みを返した。

「では、とりあえず真っ直ぐ行ってみよう」

 一同は彼の言葉に従いラルフとヴィルヘルムを先頭にして真っ直ぐ進んだ。



 二



 無限牢は一行の前に難関として立ちはだかった。

 金時草は進んだ部屋ごとに何部屋目の何番目に進んだかと番号を記し、更に彼は羊皮紙に正解のルートを記していた。しかし道を誤ると最初に逆戻りという有様な上に、ゴールまでの距離が単純に長いらしい。

 一行は幾度も最初の場所に戻っていた。

 今も九十番まで上手くいったが新規に進む道を間違えたところだった。

 ヴィルヘルムは一行の疲労の色が濃いことを確認した。しかしここで休んでいるわけにはいかない。ここは敵地だ。今ももしかしたら居残ったバルバトス、山内海、グレイが退路を護る為に増援と剣を交えているかもしれない。

「みんな、アカツキのために頑張ろう!」

 バルバトスならもっと気の利いたセリフをあの美声で言い皆の意気を上げることが出来ただろう。戦場には幾度も出た。指揮官として叱咤激励もしてきたが、今はそんな言葉しか吐けない己がもどかしかった。

 しかし、反応はあった。

「うん!」

「そうですね!」

 リムリアとラルフが気を引き締めた顔をし、レイチェルが頷いた。

 金時草は息を吐き軽く口元を歪ませ、ペケさんは偶然かはたまた見間違いかも知れないが頷いた。ガルムは忍び笑いを漏らすだけだった。

 一行は新たに活を入れて薄暗い回廊を歩み始めた。

 新たな部屋に着く度、リムリアとラルフが金時草に正しい順路を尋ねる。金時草は羊皮紙に記した番号を見て自分よりも年若い二人に向かって口にする。

 九十番目の部屋を右に行くと訪れていない九十一番目の部屋に着いた。

 一行は安堵の息を漏らした。ガルムだけは相変わらず仮面の下で忍び笑いだった。

「ねえねえ、あたしたち確実にアカツキ将軍に近付いてるよね?」

 リムリアが眩い笑顔でペケさんを撫でながら一行を振り返った。

「そうだね、リムリア」

 ヴィルヘルムが励ますように言うと彼女は応じた。

「だったらさ、大きな声でアカツキ将軍の名前を呼んだら、もしかしたら届いて返事がくるかもしれないよね?」

「リムリア、それ名案だよ!」

 ラルフが喜びの声を上げる。

「と、いうわけで、アカツキ将軍の名前を皆さんで呼びましょう!」

 ラルフがリムリアの思い付きを提案する。

 金時草だけが乗り気じゃない顔をしていた。

「良いね、やろうか」

 ヴィルヘルムも久々に士気が戻るのを感じて同調した。

「それじゃあ、いち、にの、さん。で、アカツキ将軍って叫んでね。いち、にの、さん」

 リムリアの号令と共に一行はアカツキの名を叫んだ。

 迷宮中に声は響き渡り静かになった。

 そして全員が耳を澄まし、あるいは反応を待った。

 すると返事が聴こえた。

「俺はここだ!」

 長らく聴いていないかった友の咆哮が聴こえる。

 よし、と、声の聴こえた方角の回廊へ足を差し向けた時だった。

「俺はここだ!」

「俺はここだ!」

「俺はここだ!」

 アカツキの声がどの方角からも聴こえた来たのだった。

 これはどういうことだろうか。一同は呆気に取られていたが、金時草が言った。

「とりあえず、最初に声が聴こえた方で一部屋目は間違い無いだろう」

「そうね」

 レイチェルが応じ、一行は最初に声が来た方角へ短い回廊を進んだ。そして新たな部屋に来た。

 だが、アカツキの声が聴こえた。後ろからもだ。声は木霊し、一行の思考をかく乱させた。

「アカツキ将軍、黙って!」

 リムリアが彼女なりの大音声で叫ぶと、声はピタリと止んだ。

「はい、アカツキ将軍叫んで!」

 リムリアが再び声を上げる。

「何かあったのか!?」

 アカツキの声が再び聴こえた。

 と、同じ声が他の三方からも聴こえる。

「最初に声がした方が正解なんでしょう?」

 リムリアが誰ともなく尋ねた。

「そうだね」

 ヴィルヘルムが言い、一行は足を進めた。

「この手段で行きましょう。最初に聴こえた声の方角へ足を進めましょう」

 先頭のラルフが一同を振り返ってそう言った。

 新たな部屋に着いた。

 こうしてアカツキを喋らせ、黙らせ、一行は正しい方角へと向かったのであった。

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