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七十四話

 アカツキが見たところ、見慣れぬ巨大な魔法陣を前に仲間達は立ちすくんでいた。

 アカツキも最初は半信半疑だったことを思い出し、自分が見本になるべく前に進み出る。だが、それより早くバルバトスが歩み出していた。

「私が先に行こう」

 バルバトスはそう言うと魔法陣に飛び込み姿を消した。かに思えたがすぐに戻ってきた。

「こちらの方が言った通りだった。王城の目の前まで続いているぞ。さぁ、レイチェル」

「はい、お義父様」

 シルヴァンス外交大使はガルムの一件を今は割り切った様に微笑んで義理の父の手を握った。

 そして二人は魔法陣に入って行った。

 その姿が見えなくなるとラルフとグレイが先を争う様にして続き、金時草とペケさんが更に魔法陣に姿を消した。

「アカツキ将軍、先に行って待ってるね」

 リムリアも魔法陣を潜った。

 山内海が残っていた。

「山内海、先へ行け」

 アカツキが言うと黒衣の剣士はこう言った。

「アカツキ将軍は以前に事情があれど闇の勢力に身を置いていた。もしかすればこれはアカツキ将軍も結託して我らを罠に嵌めようという可能性もある」

 山内海にしては饒舌だった。

「だが、どの道シルヴァンス大使はもう行ってしまったぞ。山内海殿、御安心を。この道中アカツキ始め貴公らには並々ならぬ世話になった。それを裏切ったりはしない。信じてくれ」

 ヴィルヘルムが言い、ガルムが含み笑いを漏らす。

「……分かった」

 山内海が歩み出し魔法陣を通り過ぎて姿を消した。

「戦はどうなっている?」

 アカツキは気になったことを尋ねた。

「アカツキ将軍、ヴィルヘルム将軍が抜けて有能な戦士と指揮官がいなくなり難航してますよ」

 ガルムが言った。

 それを聞いて安堵する自分と、焦る自分をアカツキは感じた。

 前者は今回の書状のやり取りが闇の大陸統一のための時間稼ぎだと思われたくなかったためで、後者は今でも愛するかつての同僚、兵士らが命を懸けている、その心配と、参陣できぬもどかしさだった。

「アカツキ行こうか。俺達には俺達の使命がある」

 ヴィルヘルムが手を差し出す。

「そう……だな」

 アカツキも手を握り返し二人は魔法陣を潜った。



 二



 見慣れた外壁、そして門扉があった。

 仲間達がアカツキの到着を待っていた。

 最後にガルムが来ると、魔法陣は消えた。

「ちゃんと帰していただけるのでしょうね?」

 ラルフが挑むようにガルムに向かって詰問した。

「勿論ですよ。ラルフ殿」

「何故、俺の名前を知っていらっしゃる?」

 ラルフの仰天する問いにガルムはまた笑顔の道化の仮面の下で含み笑いを漏らしていた。

「まぁ、そんなことはどうでも良いでしょう。ヴィルヘルム卿」

「ああ。今までは俺が客分だったが、ここからはあなた方が客人だ。俺が案内する」

 ヴィルヘルムが先に歩き出す。

 閉じられた門の前に魔族の番兵が二人いた。

「これはヴィルヘルム様、ガルム殿、アカツキ将軍」

「俺はもう将軍じゃない」

 アカツキは冷静に応じた。

 番兵達は顔を見合わせて暗い表情をした。

「そうでしたか……」

 残念そうに年下の方の番兵が答える。

 そしてもう一人の番兵が門の向こうに「開門」の指示を出した。

 重々しく扉が開かれる。

 朝のため魔族の民衆はいなかったが、見知った街並みにアカツキは感慨を覚えずにはいられなかった。

 ストームに会いたい。

 アカツキはふとそう思った。

「ようこそ、光の方々」

 立派な剣と盾を手にし鎧を纏った魔族の若者はグラン・ローだった。

 グラン・ローはアカツキに向かってこっそりウインクしていた。

「私はグラン・ローと申します。アムル・ソンリッサの将軍の一人です。お見知りおきください。ん? その大きな猫は?」

 グラン・ローがペケさんを見て首を傾げた。

「光の方々の一人だ。王城に入っても問題は無いだろう」

 ヴィルヘルムが言うとグラン・ローは責任者としてかしばし迷いを見せた後に頷いた。

「さぁ、光の方々を護衛しろ」

 待機していた魔族の兵達が声を揃えて敬礼し、アカツキ達の周りに就いた。

「それでは、出発します」

 ヴィルヘルムが言いしんがりをグラン・ローとして一行は静かな町の中を歩み始めた。

 やがて貴族街が見え、通り過ぎると、厩舎が見えた。

「ウォズさんとストーム元気かな」

 リムリアが隣に並んでいたアカツキに向かって言った。

「また会えれば良いな」

 アカツキは厩舎に駆け出したい衝動を抑えつつそう述べた。

 そして懐かしく思える王城が姿を見せる。

「ヴィルヘルム様に敬礼!」

「ガルム殿に敬礼!」

「アカツキ将軍に敬礼!」

 四人の番兵達が一糸乱れぬ礼をしてみせた。

 俺はもうここの将軍じゃ無いのだがな……。

 アカツキはムズムズする思いをしながら通り過ぎた。

 そして王城に入る。色々な思い出がアカツキの脳裏を駆け巡った。

 回廊を駆け、演習場では同僚と切磋琢磨し、食堂では……リムリアにあーんされた。

「玉座は四階です」

 慇懃な態度で言いヴィルヘルムが階段を上って行く。

 後をバルバトス、レイチェル、ラルフにグレイ、金時草とペケさん、山内海、リムリアとアカツキが続く。無論、警護は続いていた。

 そしていよいよ来た。

 玉座の間の大きな扉の前で一行は立ち止まった。

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