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六十九話

「皆、伏せろ!」

 先を行くバルバトス・ノヴァーの声が轟いた時、アカツキに見えたのは馬車越しに、街道を塞ぐように横向きなった二台の馬車だった。

 途端に左手の茂みから風切音と共に矢が無数に撃ち込まれた。

 馬が矢を受け痛みのあまり嘶きを上げる。

「敵が来るぞ!」

 バルバトスの声と共に前方と左手の茂みから黒装束に身を包んだ者達が足音一つ立てずに向かってくる。手には曲刀が握られていた。

「ヴィルヘルム殿と、レイチェルを護れ!」

 バルバトスと山内海が前方の敵と交戦する。

 アカツキは馬車の左側に回った。

 護衛についていたラルフが身体中に矢を受けながら敵を迎え撃っていた。

「グレイは前方の敵を! 左側は俺がやる!」

 アカツキは指示を飛ばし、黒装束と剣を交えた。

 暗殺者だ。

 おそらく法王の差し金だろう。

 卓越した忍びの動きにアカツキは戟を放り捨てた。すぐに間合いに入って来られると判断したのだ。彼は右手に斧を左手に剣を抜き跋扈する暗殺者達に向かって斬りかかった。

 ラルフも落ち着いた態度で応戦している。

「ラルフ、大丈夫か!?」

「はい、将軍!」

 アカツキは咆哮を上げて躍り込んでくる敵を瞬滅させた。

 斧が剣が次々真っ赤に染まる。

 これから闇と仲良くしようというときに、何故、同じ側同士で命の取り合いをしなければならぬのだ!

 アカツキの無念の一撃が敵を脳天から真っ二つに斬り下げた。

「右側から敵!」

 グレイの声が聴こえた。

「山内海、行ってくれ!」

 バルバトスが叫んだ。

 左側に潜んでいた敵はこれで全部だろうか。

「ラルフ、ここを任せられるか?」

「ええ、将軍」

「すぐに終わらせる!」

 アカツキは馬車の右側に回った。

 山内海が多数の敵を相手に死闘を演じていた。

 敵と同じ黒装束が動き、抜刀した瞬間に新たな血煙が吹き上がる。

「……斬る」

 斬った後に山内海が言った。

「貴様らの主は誰だ!?」

 アカツキは山内海に並んで声高に尋ねた。

 だが、当然返事は無かった。暗殺者達はジリジリ迫り躍り込んでくる。

 アカツキと山内海はそんな跋扈する暗殺者を次々血祭りに上げていった。

「左手からまた敵だ! 俺も出るぞ!」

 ヴィルヘルムが破られた馬車の窓から言った。

「それは駄目だ!」

 アカツキは叫んだ。

「いや、出る!」

 そんなヴィルヘルムをリムリアが必死に止めていた。

 こちらは少数精鋭だが、敵の方が圧倒するほど数が多い。

「そうです、私が出ます!」

 レイチェルの声がした。

 アカツキは慌てた。

「山内海、ここを頼めるか!?」

「わわわ!」

「えええっ!?」

 馬車の中からヴィルヘルムが、その向こう側からラルフの驚く声が聴こえた。

「行け……」

 山内海が敵を真っ二つにしながら静かな声で言った。

 アカツキは再び馬車の左側に戻った。

 その途端、彼も驚いた。

 狩人姿のレイチェルが山刀の二刀流で暗殺者達を圧倒していたのだ。

「大使、何をやっているんですか!? 馬車の中に戻って下さい!」

「そうもいかないわよ、アカツキ将軍。ここは私とラルフ君に任せて他の助勢に出向きなさい!」

 レイチェルは言った傍から暗殺者を一人、斬り殺した。片腕で首の骨まで切断できるほどの膂力をこの女性が持っていることにアカツキは面食らったが、我に返った。

「大使、あなたを死なせるわけには!」

「大丈夫よ、老いたけど鍛錬は欠かさなかったのですから。さぁ、ここは任せて!」

「あたしも加勢するよ!」

 リムリアが小剣を手に馬車から下りようとしたが、アカツキは止めた。

「お前は中に入っていろ!」

「何でよ!? あたしは兵士なんだから戦わなきゃ!」

 リムリアはアカツキを押し切って跳び下りた。

「大丈夫よ、アカツキ将軍、私とラルフ君もついてますからね」

 アカツキはレイチェルとラルフ、そこにリムリアが並んで戦う様子を見て反対側へ駆け戻った。

 右側では山内海が包囲されていた。

「山内海!」

 アカツキは割って入った。

「……前方、新手」

 合流すると山内海が言った。

 見ると寸断した馬車の向こうから黒装束が次々現れた。

 法王め、どうやってもここで終わりにするつもりだな。

 バルバトスと、グレイが苦戦している。

 国王からの増援の提案を断るべきでは無かったかもしれない。

 アカツキはグルグルと周囲を動く刺客達を睨みながらそう心の中で後悔した。

「……来る」

 山内海が声を出した瞬間、包囲していた暗殺者達が一気に跳び、あるいは突進してきた。

 これはただでは済まんな。

 アカツキが覚悟を決めた時、これまで聴いたことの無い凶暴な獣の咆哮が上がった。

 途端に暗殺者達は立ち止まった。

 王都の方角から大きな影がこちらに向かって駆けて来る。

 それは大きな白い虎、白虎だった。その上に跨る者が矢を次々放った。

 五つの矢は五人の刺客を貫いた。

「お前達、陛下の憂う心に感謝するんだな」

 男が弓矢を捨て小剣を持って悠々と白虎を連れて歩んで来た。

「お前は敵か味方か!?」

 アカツキが問うと相手は答えた。

「安心しろ、味方だ。名は……十六代目金時草と言う。行くぞ、ぺケさん!」

 白虎が吼え声を上げて刺客達の間に飛び込んで行った。

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