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六十話

 大小の石ころが広がる大地に小川が流れている。

 いつか来たことのある場所だった。

「目覚めたか」

 声がし見ると対岸に黒い竜の仮面を被り、黒の外套を纏った男が立っていた。

 見覚えのある男だった。アカツキはその名を呼んだ。

「ググリニーグ?」

「そうだ、俺を斃した男よ」

 ググリニーグは応じた。

「俺は一体?」

「知らんとはな。貴様は死にかけている」

 黒竜は言った。

 思い出した。ここは、いつぞやダンカン分隊長と再会した場所でもあった。あの時も自分は瀕死だった。そういえば、敵将の槍をこの身に受けて……。

「ググリニーグ、お前は俺を迎えに来たのか?」

「馬鹿な。俺は貴様が憐れに思えて忠告しに来たのだ。貴様は面白いことをやろうとしているからな」

「忠告? 面白いことだと?」

 ググリニーグは頷いた。

「貴様は神の意思に背いている。いわゆる反逆者となったのだ。光と闇の盤上の遊戯に水を差され、神々は酷く御立腹だ。だからこそ、イレギュラーな貴様を神は消そうとしている」

「反逆者か面白い」

 アカツキは自嘲気味に笑った。

「そうだな、面白い。お前はやがて神殺しとなるだろう。気まぐれな運命神がお前を庇う限り、お前は死なない」

「運命神?」

「そうだ。運命神サラフィー。奴は意外と近くにいる。神々が牙を剥き始めたのを知り、より強い加護をお前に与えるためにな。お前はサラフィーの奥の手にして申し子として生まれてきたのだ。そしてようやく本来の使命に目覚め始めた」

「俺が運命神の申し子だと。何故、それを貴様が知っているのだ?」

「俺は面白いことに関しては鼻が利くからな」

 ググリニーグは言った。

「そろそろ目覚めろ、運命神の申し子よ。このままでは神々の思う壺だぞ。這ってでも使命を成し遂げろ。行け。このハザマの流れから貴様のもがく様を俺が見届けてやる」

 ググリニーグが微笑んだ時にアカツキは誰かに呼ばれるのを聴いた。



 二



「アカツキ将軍!」

 女の様な声がし、アカツキは目を覚ました。

 悲し気な道化の仮面を被ったガルムがそこにいた。

「ガルム? 俺は……」

 右胸に手をやる。甲冑は破壊され中に来ていた衣服が縦に裂けていた。

「よくぞ、御生還なさいましたね、アカツキ将軍。いつかと同じで非常に危かった」

「ああ。あの世でググリニーグに会った。確か奴に何か重要なことを言われたような気がしたが……」

 ダンカン分隊長の時と違い、ググリニーグと交わした言葉が思い出せなかった。そこだけ頭の中を渡る無数の回廊から分断された部屋のような気分だった。思い出せそうで思い出せない。

「そうですか。立てますね、アカツキ将軍?」

「ああ」

 アカツキはゆっくり起き上がった。

 途端に響き渡る剣戟の音、鬨の声、大地の鳴動、馬のいななき。戦は続いている。

「ガルム、俺はあと四つの首を取る。そして捕虜を連れ帰り、アムル様の親書を国王に届ける。ストーム!」

 愛馬はすぐ側にいた。

 アカツキは馬に跨った。

 ガルムもライトニングに騎乗し、隣に並んだ。

「アカツキ将軍、功を焦らぬ様にお願いしますよ」

 ガルムが忍び笑いを漏らしながら笑顔になった仮面で言った。

「分かってる! 行くぞ、ストーム!」

 アカツキは馬腹を蹴った。

 ストームはグングン速度を上げてゆく。

 軍勢は目の前だった。

「アカツキ将軍、これを」

 並走するガルムが戟を渡してきた。

「ああ」

 アカツキは受け取った。

「アカツキ将軍だ!」

 兵達が瞠目し声を上げた。

「心配かけたな」

 と言いつつ、アカツキは傷を治したのは勿論ガルムであろうと予測していた。

「ガルム、助けられてばかりだな、礼を言う」

「そのような殊勝なことを言うから死に付け狙われるのですよ」

 後続の兵達を追い抜かし、前衛へ出る。

 アカツキは咆哮を上げて戟を振り回した。

 敵兵の首が幾つも吹き飛んだ。

「スウェア、状況は?」

「はっ、グラン・ロー準将軍がお着きになり、数では拮抗しています」

「よし、ならばその壁を乗り越えてみせるぞ! 全軍、俺に続け!」

「アカツキ将軍、無茶ばかりを」

 ガルムが不安げな声を出すのをアカツキは初めて聴いた。

「分かっている。隣は任せるぞ」

「はい」

 ガルムは頷いた。

 戟を振るう二つの馬影率いる兵達の前に敵兵は次々散って行った。

「敵将! 出て来い! 貴様の率いる雑兵では相手にならぬわ!」

 アカツキが大音声で呼ぶと、兵の間を馬上の戦士が現れた。敵将だ。

「バーンズをやれた程度でいきがるなよ、死にぞこないめ! 闇の闘神カーセスの加護は俺のものだ!」

 戟を振り回し敵将が挑みかかって来る。

「豪傑カイウスですね。アカツキ将軍、運命神の加護があなたを守りますように」

 ガルムが送り出した。

 アカツキはストームを駆けさせた。

 敵将とあっと言う間に距離が詰まった。

 戟と戟がぶつかり合う。

 強烈な痺れが腕から身体を走った。

 だが、それは敵も同じだったらしい、瞠目している。

 五合、六合、十合打ち合った。

「やるな、悪鬼! だが、こうなれば」

 カイウスが戟を掲げ振り下ろす。

 カイウスの背後から、こちら目掛けて、無数の矢が飛んできた。

「卑怯な真似をしてくれますね」

 ガルムが飛び出て手を突き出した瞬間、矢はまるで見えない壁に阻まれたかのようにして落ちた。

「さぁ、アカツキ将軍!」

「応!」

「おのれ!」

 アカツキとカイウスは再び肉薄し、そしてアカツキは鋭く薙ぎ払われるカイウスの戟を掻い潜り、突き出した。

 アカツキの持つ戟の切っ先はカイウスの首元を貫く。そのまま薙ぐとカイウスの首は地面に転がった。

「あと三つ!」

 アカツキは軽く息を乱しながら戦場を見渡していた。

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