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What Remain  作者: 雲居瑞香
過去編
53/66

episode:0-6

三連休!









 リリアンが少年を突き刺したことで、彼は動揺したらしく彼女を捕らえる手が緩んだ。リリアンは駆け出してウィルに飛びついた。飛びついてきた妹を、ウィルが強く抱きしめた。少年はクライドに再度捕獲された。


「ビックリしたな。もう大丈夫だぞ」


 ウィルがそう言ってリリアンの背中をたたく。アーサーが気遣うようにリリアンの顔を覗き込んだ。


「大丈夫か?」


 とんとんと背中をたたかれ、リリアンも落ち着いてきた。リリアンはほっとして少しウィルから離れる。


「大丈夫です」


 そう言ってリリアンは自分が刺した少年を振り返った。リリアンが刺したナイフは深くは刺さっておらず、本当に驚かせただけのようだ。

「だけどまあ、治療はしておくか」

 ウィルはそう言ってリリアンをアーサーに預けると、クライドと少年の方に向かった。

「……リリアン。その、すまない」

「何がですか?」

 リリアンが首をかしげると、アーサーは言った。

「……私が一緒に来てほしいと言ったから、お前は危険な目に遭ってしまった」

「私が自分で一緒に行くと決めたのです」

 先ほどのことはリリアンの不注意が招いたことで、アーサーのせいではない。彼女が責任を感じる必要はないのだ。

「リリアンは戻ってくれても構わない。カーライル侯爵領にいれば、安全だろう?」

「……どうでしょうね」

 リリアンはアーサーの護衛ウィルの実の妹だ。彼女の父は、アーサーの父と懇意だったことが知られている。カーライル領には必ずマイケル・トラジェットによる調査が入るだろうし、その際に彼女が王都に連れて行かれる可能性は高い。次兄ジェイミーのように学都にいるわけではない彼女は、どうしたって巻き込まれていた。

「兄が殿下と一緒にいる時点で、私は身の振り方を考えなければなりませんでした。どちらかというと、兄のせいです」

「……強いな、リリアンは」

 アーサーはため息をついて言った。リリアンはアーサーの方を見る。


「私は、自分で決めたわけではなくて、周りに言われてここにいる。このままでは殺されてしまうからと、クライドやウィルに連れられて、ここまで逃げてきた。……王都に残してきてしまった人もいる」


 アーサーは指を組んだ手を祈るように額に付けた。無事を祈るように。おそらく、その王都に残してきた人、というのが、アーサーを魔法から護っているのだろうと思われた。

「……殿下は、何故ここまで逃げてきたのですか」

「え? それは、今」

「あなたは、王都から逃げるというクライドさんや兄の手を振り払い、残ることもできたはずです」

「……それは」

 そうなのだ。アーサーは、そのまま王都に残ることもできたはずなのだ。そうなれば、殺されるなり魔法の加護が効かないほどの洗脳魔法を受けたりしただろうが。


「……それは。私が行かなければ、クライドも、ウィルも、逃げないというだろう。そうなれば、私とは違って、彼らは本当に殺されてしまうから」


 本当は、王都に人を残してきたことも不本意なのだろう。アーサーは絞り出すような声で言った。リリアンは少し口角をあげた。

「それは立派な理由です。大切な人を死なせたくない。十分ではありませんか?」

「……リリアン」

 アーサーがリリアンの手をぎゅっと握った。ほっそりした手だが、掌にタコがある。剣や槍、銃をたしなむ人の手だ。リリアンもアーサーの手を握り返した。


「おおい。場所を移動しよう。それと、あいつも連れて行く」


 ウィルはリリアンの頭を乱暴になでながら言った。クライドが手足を縛って猿轡をかませた少年を担ぎ上げる。ウィルがつないだ手を見て「お」と声を上げる。

「仲良くなったのか。何よりだ」

「別に元から仲が悪いわけではない」

 しれっとリリアンが言うと、アーサーは小首をかしげた。

「リリアンはいわゆるツンデレと言うやつか?」

「そうなんですよ。こいつ、ツンデレなんですよ」

 そう言ってウィルがリリアンの頭を撫でまわすので、リリアンはウィルの手を払いのけた。

「うるさい」

「デレの部分はどこだ?」


 クライドから冷静な指摘が入った。
















 四人と一人が移動したのは、城の近くにある小屋だった。ウィルの膝を枕に眠っていたリリアンはふと目を覚ました。壁に寄りかかって目を閉じていたウィルも、リリアンが身じろぎしたことで目を覚ました。

「おはよう。だが、まだ夜中だ」

「うん……」

 リリアンはうなずきながらも起き上がる。肩からコートが滑り落ちた。ウィルのものだ。リリアンはそれをくるっと雑にまとめてウィルの膝の上に置いた。銃を持ち、それから立ち上がる。

 ウィルは黙ってリリアンを見送った。アーサーとクライドもそれぞれ休んでいて、目を閉じている。クライドはちらりと片目を開けてリリアンを見たが、ウィルが何も言わなかったからだろう。彼も何も言うことはなかった。


 リリアンは小屋の端につながれて拘束されている少年の元に向かった。銃を手にしたまま、少年の前にしゃがみ込む。彼は、まだ起きていた。


「夢を見た」


 リリアンはしゃがんだ膝に頬杖をつく。

「君は、王都で育ったようだな。ご両親が殺されて、連れ去られて、研究所ラボに行くことになった……あっているか?」

 話したはずのないことがリリアンの口から語られ、少年は驚いたようだ。魔法光の弱い明りの中、少年の目が少し、見開かれた。

 精神干渉魔導師が全員そうかはわからないが、夢が混線したのだろう。時々、リリアンは『他人の夢』を見ていることがあった。幼いころに比べれば少なくなったし、今はとても久しぶりに混線した。


「もう一度聞く。君、名前は何というの?」


 少年はリリアンを睨むように目を細めた。そもそも、猿轡をしているから離せるはずがないのだが、もし、名を言う気になったのなら外してやろうと思ったのだ。

 やはり駄目か、とリリアンは目を閉じ、立ち上がった。研究所ラボで教育を受けた少年は、なかなか手ごわい。リリアンはウィルの隣に戻ってくると、彼の隣に座りこんで小さくあくびをした。こてんと頭をウィルの肩に乗せて目を閉じた。

「ダメだったか」

「拷問ならできるけど」

「やめとけ。それにしても、久々だな。魔力を制御できるようになってからは、夢は見なかったんだろ」

「うん」

 リリアンはそもそも受信能力が弱いので、夢が混線する、などという事態は非常に珍しいのだ。魔法を制御できない子供ならともかく、今では一端の魔導師となっているリリアンは余計に珍しい出来事だった。


「クライド、起きているか」

「ああ」


 ウィルがクライドに声をかけた。彼の向かい側に腰を下ろしていたクライドは目を開く。剣を抱えた彼は、やはり起きていたらしい。

「俺はやはり、研究所ラボを探しておくべきだと思う」

「……気持ちはわかるが、余裕が」

「ないな。わかっている。だが、制圧する必要はない。なぜなら……」

 ウィルが一旦、言葉を切ってから言った。


「この近くにあるであろう研究所ラボは、すでに処分されているだろうからだ」

「な……っ!」


 クライドが声を上げると、アーサーが身じろいだ。クライドは彼女をはばかって声を低める。

「どういうことだ? 俺達が、彼を捕まえたからか?」

「ああ。研究所ラボ側にとっても、不測の事態だったんだろう。俺達が彼を捕まえることは」

 ウィルの説には無理があるとリリアンは感じたが、黙っていた。彼なりの考えがあるのだろうと思って。ついでに目を閉じたらまた眠くなってきた。リリアンはウィルの肩に頬を摺り寄せ、本格的に寝に入ろうとする。


「その時は、彼も連れて行こう」


 ウィルの声を聞いた気がしたが、認識する前にリリアンはまた眠りの淵に落ちていった。









ここまでお読みいただき、ありがとうございます。


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