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What Remain  作者: 雲居瑞香
本編
5/66

episode:01-5










 女王が宮殿に戻ってくれば、動員できるパラディンの人数が増える。パラディンは戦闘力として優秀なので、女王の視察の時は護衛に駆り出されることが多い。現在七人いるナイツ・オブ・ラウンドも第一席のクライドをのぞけば全員が討伐師の力を持っている。というか、普通の生身の人間があんなに強いのはおかしい。人間をやめている、というのがクライドに対するリリアンの意見だった。

 アーサーが帰ってきてからも何度かエイミーを鍛えるために、アレックはヴァルプルギスの討伐に赴いた。それ以外の危機対策にも乗り出したが、やはり、パラディンの称号を持つものとしては、ヴァルプルギスの討伐が一番大事だ。


 ナイツ・オブ・ラウンドともなれば、自分がパラディンたちを率いることもある。そんな時に自分一人でヴァルプルギスを倒せなければ沽券に関わる、とエイミーは張り切っていた。まあ、ヴァルプルギスは通常、二人以上で組んで倒すものであるので、必ずしも一人で倒せる必要はないのだが。アレックも、一人だとちょっと厳しい。


 そんな中で、セオドールの指揮と言うのも経験した。結局、アレックとエイミーの力押しでなんとなかったのだが、そのせいで何故かリリアンに怒られた。いわく、セオドールが作戦がうまくいったと錯覚してしまうからだそうだ。なるほど、と思わないでもないが、半分近くリリアンの八つ当たりのような気もする。

 ちなみに、ウィルは『妹の様子を見に来たのだ』と言う体でセオドールの様子を見に行ったらしい。


「いやあ、さすがの俺もキレそうだったぜ」


 と、へらへら笑って言うウィルだった。それでは感想になっていないが、めったに怒らないウィルが怒るとは相当ひどいのだろう。


「俺を見た瞬間、『こんな優男が選ばれて、何故私が選ばれないんだ!』なんて言い出したんだぜ。リリアン、絶対零度の視線だった」


 こっちもぶれていない。確かにウィルは見た目優男だが、ナイツ・オブ・ラウンドとして鍛えている。同時にパラディンでもあるので、他の軍人とは一線を画す実力のはずだ。見た目ではわからないけど。

「あと、指示だしがへたくそだな……」

 ウィルがしみじみと言った。彼らがリリアンの簡潔かつ的確な指示を聞きなれているせいである可能性も高いが、それは思った。


「なんていうか……指揮官に向いてないよね。高圧的過ぎて指示に従いたくないもん」


 と、答えるエイミーはちょっとずれている。だが、アレックもそれは感じたので指摘しないことにした。



「性格もだが、それ以前の問題のような気もする」

 うまく言えないが、性格と言うより、考え方? 性格が悪いとは言えない人間だと思うのだ。ただ、思考回路が意味不明というか、甘やかされ過ぎたのか社会を知らないというか。


「まあ、うちの妹も相当だったが……」


 ウィルの妹リリアンも、当初はかなりプライドの高い女であったが、比較的兄たちの言うことはちゃんと聞く少女だった。そのあたりが、セオドールとの違いとして表れているのかもしれない。

「今のところリリアンが途中で割って入っているから大丈夫そうだが……。とにかく、リリアンの負担が重い」

 やはりウィルは兄だ。リリアンの体調を心配しているらしい。そう簡単に倒れるほど軟ではないと思うが、意外と繊細な彼女だから胃に穴が開くかもしれない。

「確かにあいつも一度くらい人を教育してみたほうがいいとは思うが……難易度高すぎだろう」

 と、ウィルが頭を抱える。前からわかっていたことだが、彼はシスコンである。

「……そこまで心配しなくても、大丈夫だろう。たぶん……」

 フォローを入れようとしたアレックだが、やはり大丈夫だろうか、と思ってしまった。セオドールとリリアンでは、性格的な相性も悪そうだ。


「でも、ブラックリー公爵からは『殴ってもいい』って言われてるんでしょ。殴っちゃえばいいじゃん」


 エイミーがサクッと言った。それができれば苦労していない。


「まあ、リリアンも大概外面を気にするような人間ではないが……公爵家の息子を殴るのには、さすがに抵抗がある様子だったな」


 アレックはリリアンとの付き合いが三年程度だが、それくらいには彼女を理解している。必要なときには必ずやる人間だが、今はそこまでせっぱつまっていない。本当に駄目だ、となれば、やっぱり彼女はセオドールを殴るのだろうか。

「……それでウィル。何か話があるんじゃないのか」

 無理やりアレックが話を逸らした。そろそろそらさなければ、ウィルはリリアンを心配してぐちぐち言い続けるだろう。妹思いも度が過ぎる。実際、リリアンにはたまにうざがられている。


「ああ、そうだ。来月の女王主催の夜会のことなんだが……」


 と、ウィルは打って変わってまじめな話を始める。妹リリアンが頭がいいように、兄ウィルも頭がいい。ナイツ・オブ・ラウンドの第一席はクライドだが、頭脳はウィルなのだ。

 カーライル兄妹には誰も頭が上がらないんではないか、とアレックはひそかに思っている。実際、アレックは上がらないから。
















 ナイツ・オブ・ラウンドの大半がパラディンであるが、ヴァルプルギス討伐に駆り出されることは、実はそんなにない。彼らの本分は女王の護衛だからだ。

 しかし、ヴァルプルギスを討伐できるレベルにあるパラディンが少ないのも事実。加えて、アレックは今、新人のエイミーの教育中である。そのため、彼も今回のヴァルプルギス討伐に同行していた。というか、今回はウィルも一緒である。

 宮殿にほど近い場所で、ヴァルプルギスが発見されたのだ。一体なのだがなかなか厄介で、触手みたいなものがパラディンたちを襲う。エイミーが遠慮なく「気色悪い」と初見で吐き捨てた。確かに気色が悪い。


「どうする。本体に近づけない」


 アレックがウィルに言った。一応、対策監室と通信はつながっているが、さしもの調整官たちもどうすればいいか考えあぐねているらしく、とにかく時間を稼いで! と言われている。正直、リリアンを出せと言いたい。むしろ、彼女に現場に来てほしい。


「……今、リリアンならどうにかできるのに、って思ってるだろ」


 ウィルにそう指摘されて、アレックは隠しもせず「ああ」とうなずいた。ウィルは苦笑する。

「俺もそう考えてた」

 ちょっとリリアンに頼り過ぎである。兄ですらこの調子なのだが、大丈夫なのだろうか。

『パラディンを呼び寄せ、囲め!』

『囲んでどうするんですか……』

 通信機からはセオドールからの謎の指示と、それにツッコミを入れる管制官ノエルの声が聞こえる。それにしても、本当にリリアンはどこに行ったのだろう。

「……ただ待ってても仕方ねぇ。攻撃しかけるぞ。あの触手は結構簡単に切れるからな」

「その分、早く再生しますけどね……」

 エイミーに突っ込まれつつも、ウィルの言うとおりに動く二人である。とにかく、本体に近づかなければならない。ウィルとアレックが触手を切り裂いてエイミーがその触手が薄くなったところに突撃する。その剣が正確にヴァルプルギスの心臓のあたりを貫いた。が。


「何これ反則!」


 エイミーが悲鳴をあげた。何故か、ぐにーんと剣を弾き返した。ゴムのようになっている、とでも言えばいいのだろうか。少なくとも、エイミーの力では突き刺せなかったようだ。

「何今の! ヴァルプルギスって硬いだけじゃないんだ!」

「……まあ、一般的には硬いが、たまに変な奴もいるな……」

 と言ったのはウィルである。彼は、アレックよりも長くパラディンをしているので、彼がそう言うのならそうなのだろう。

「どうする。ウィル」

「どうするってもなぁ」

 と、ウィルは考え込む。その考える様子がリリアンと似ている。やはり兄妹なのだなぁと思う次第だ。

「大火力でも叩き込めばいいんだろうが……」

「この場所で? 周りに燃え広がっちゃいますよ」

「だよな」

 エイミーのツッコミを受けて、ウィルが肩をすくめた。そもそも、その大火力とやらをどこから持ってくるのか。爆発物でも仕掛ければいいのだろうか。それってヴァルプルギスに効くのか?

 触手の攻撃を避けつつ考え込む三人の通信機に、リリアンの鋭い声が飛んできた。


『おい! 避けろ!』

「は?」


 声をあげたのはウィルで、それから驚愕の表情になった。エイミーの襟首をつかんでその場を離れる。アレックもそれに続いた。エイミーが咳き込みながら、ヴァルプルギスを見て声をあげた。

「何あれ!」

 電撃のようなばちばちと言う音を立てながら、ヴァルプルギスに矢が突き刺さっていた。









ここまでお読みいただき、ありがとうございます。



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