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What Remain  作者: 雲居瑞香
本編
42/66

episode:04-14









 突然押しかけたも同然とはいえ、アーサーは女王だ。当然歓待を受けることとなり、セオドールはアーサーと共に晩餐会や夜会に駆り出されることになった。最初の夜には晩餐会、今はお茶会に出て帰ってきたところだ。

 いつもならリリアンが強烈なツッコミを入れてくれるのだが、セオドールがアーサーの隣に立つと、クライドがすごい顔でセオドールを睨んでくる。これはこう言ったことに鈍い自覚のあるセオドールでもわかるレベルの話である。

 正直やめてほしいのだが、セオドールはさすがにリリアンほど強く出られなかった。その代り、ウィルが適当にクライドの意識をそらしてくれるのだが。ウィル、リリアンとは違う意味で遠慮がない。

 そのリリアンであるが、最初の夜の晩餐会で顔を合わせた。上品なドレスを着ていて一瞬誰かわからなかったが、目があったときにさすがに気づいた。少しほっとした表情をしていたように思う。フリードリヒがセオドールたちに見せつけるために連れてきたのだろう。晩餐会には参加せずにその場を去って行った。


 リリアンの無事は確認できたが、アレックの姿はちらりとも見ない。下手に聞きまわることもできないので、ウィルが目下捜索中であるらしい。

 拘束されたという外交官にもまだあえていない。話を聞いてくれないのならせめて会わせてくれ、とアーサーが訴えているが、聞き入れられていないようだ。ずっと帝国にいた外交官には、この国の動きが読まれている可能性があるからだろう。


「……私が安易だったのだろうか。誤解を解きたいなどと言って、帝国まで来るなんて……」


 うなだれるアーサーに、ウィルがフォローにならないフォローを入れる。

「まあ、国でじっとしていても囲い込まれるだけなので、どっちもどっちだと思いますけどねぇ」

「ウィル……フォローになっていない……」

 リリアンがおらず、ツッコみ不足だ。セオドールだけでは荷が重すぎる。そう言う意味でも、リリアンの存在は貴重だ。


「……俺としても、リリアンと意見のすり合わせをしたいところなんだがなぁ」


 ウィルがそう言って頭をかく。二人は、そうやって今までいろいろと決めてきたらしい。確かに、一人で考えるより他人と話し合った方がわかりやすいこともある。

 まさか兄のつぶやきが聞こえたわけではあるまいが、その日の午後、リリアンが人目を忍んでやってきた。帝国の女性官吏だと思って迎え入れたのがリリアンだったのだ。

「似合ってるけど不自然!」

「本当は近衛兵の軍服を調達したかったんだが、難しかったのでな」

 エイミーの指摘にリリアンが平然と答える。そう言う問題なのだろうか。まあいいけど。


「リリアン、よかった……!」


 アーサーがリリアンを抱きしめる。無事なのは確認していたが、こうして目の前まで来て話せるというのは喜びもひとしおだ。

「みなも無事で何よりだ。それと、驚かせてすまなかった」

 突然、姿を現したことを言っているのだろう。それは素直に受け取っておく。

「第三皇子のフリードリヒ殿下にお会いした」

「ああ。聞いている。自慢げに話してくれた。何でも、彼と私が組めば、世界が手に入るのだそうだ」

「そ、そうか」

 アーサーの反応が微妙だ。その言葉の意味は計りかねるが、たぶん、アーサーもセオドールと同じことを思ったのだろう。フリードリヒとリリアンならできるかもしれない、と。

 まあそれは置いといて。

「おそらく、私がここにきていることを、彼も気づいているだろう。ここ数日、勝手に宮殿内を歩いてみたのだが、咎められなかった。様子を見ているだけかもしれないが、私の行動を把握ているということだろう」

「本格的に捕まってるじゃねぇか」

「だからそう言っている」

 兄の言葉に、リリアンはつれない。撃沈するウィルがいつも通りで、そんな状況ではないのにセオドールは少しほっとした。

「なので、やはり、私と君たちは別行動だ。作戦を立てても読まれるからな。適当に動け」

「お前、主席調整官だよな。指示が適当すぎねぇ?」

「安心しろ。君たちが何をしても、私が正しい方向に修正する」

 ウィルのツッコミに、リリアンは自信たっぷりに答えた。自信過剰にも思えるその言葉だが、半分以上が虚勢であるとさすがにわかってきた。

「フリードリヒが欲しているのは、ブルターニュの地下資源だ」

「地下資源……」

 アーサーが繰り返した。それからふと尋ねる。

「そんな事、話して大丈夫なのか?」

「どちらにしろ、少し調べればわかることだ」

 何だろう。リリアンの『少し』の基準がわからない。フリードリヒがリリアンと同じタイプなのだとしたら、こうして彼女がアーサーに話すこともわかっているのだろう。


「これからは技術力がものを言う時代だからな」


 リリアンの言葉から考えて、どうも戦争をしたがっているのは帝国……というより、フリードリヒのような気がする。ブルターニュを狙ったのは、その地下資源を押さえるため。一般的に地下資源と言うのは有限物質であるため、多くを押さえたほうが有利に決まっている。帝国とブルターニュはそれなりに距離があるが、セオドールたちのように海に出て運べばそれほど時間はかからないだろう。

「……たったそれだけ?」

 エイミーがいぶかしげな表情になる。そんなことの為だけにこれだけ大きなことを起こしたのか、と言いたげだ。リリアンは肩をすくめる。


「今のところ、私が『事実』として把握しているのはここまでだ。後はウィルやセオに聞け」


 いつの間にかセオドールの愛称が定着しているが、さすがにこのタイミングでつっこむつもりはない。

 しかし、さらりと名をあげられた。これはもしかして、彼女もセオドールを信用してくれている……のだろうか。一年前なら確実に「当然だ」と答えていただろうセオドールだが、今は単純にうれしかった。

「それでは、私は失礼する。外で私を見かけても声をかけないように」

 そう忠告してソファから立ち上がるリリアンを、アーサーが引き留めた。

「待て! リリアン、アレックは?」

「私と共にフリードリヒにとらわれている、とだけ言っておこう」

「……一緒にいるのではないのか?」

「実のところ、私にもアレックの行方は分からないんだ」

 リリアンがそう答えた瞬間、頭の中で声が響いた。


『だが予想ならできる。おそらく、宮殿に併設された魔法医療研究所に連れて行かれたんだ』


 テレパシーだ。声をあげそうになったエイミーの口をウィルがふさぐ。


『魔法を医療的に使用することを目的とした研究施設だということだが、その実態は人体実験を行う非人道的施設だと言われている。アレックはそちらに連れて行かれたと思われる』


 ちゃんと調べていた。しかし、こうしてテレパシーで話しかけてくるということは、おいそれと口にできないことなのだろう。

「それでは、役に立てなくてすまない」

 リリアンは最後に口でそう言うと、そろりと部屋を出て行く。まあ、そろりと出たところで部屋の外に見張りがいるのは変わらないのだが、彼女は認識変化の魔法を使って入ってきて、そして出て行ったのだろう。

「……えっと。つまり、どういうこと? っていうか、最後のあれって……」

 エイミーが説明を求めるようにアーサーたちを見たが、アーサー、ウィル、クライドの三人は難しい表情で黙り込んでしまった。代わりにセオドールが口を開く。


「おそらく、フリードリヒ皇子は地下資源を手に入れて侵略戦争を行うつもりなんだ。世界情勢から見て、大きな戦いを起こすなら、魔法から科学への過渡期である今が最大のチャンスだと思う。ブルターニュへの干渉は、その足掛かりと言うことだな。……それに、侵略戦争の訓練を兼ねていると思う」

「……ブルターニュは練習台ということ?」

「まあ……私の考えが正しければだが」


 セオドールは助けを求めるようにウィルを見る。ウィルはそれに気づいて「ああ」とうなずく。

「セオの言うとおりだろう……正しいかはわからないが、俺も同意見だ」

「じゃあ、アレックのことは?」

 初めはアレックを『先輩』と呼んでいたエイミーだが、いつの間にか名前で呼ぶようになっている。それだけ、月日が流れたということだ。

「……強化魔導師って知っているか?」

「聞いたことはあるけど……」

「戦闘用に人工的に強化された魔導師のことだ。ブルターニュでは、アーサー陛下の御世で禁じられたが、それ以前は割と広く行われていたらしい。詳しいことはわからないが、どう考えても非人道的だし、これが内戦激化の原因になったと聞いている」

 当時ブルターニュではなくこの帝国にいたセオドールは、だからこそ客観的に内戦を見ることができているのかもしれない。


「……おおむね、セオドールの言う通りで間違いない」


 クライドがうなずいた。さすがにセオドールには察するものがあった。そう考えれば、腑に落ちることも多いからだ。

「……アレックは、内戦期に調整を受けた強化魔導師なんだ」

 アーサーがそう答えた。セオドールはやっぱりな、とため息をついた。









ここまでお読みいただき、ありがとうございます。


リリアンがいないと突っ込み不足。リリアンもそんなに突っ込みという感じではないんだけどなぁ。


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