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What Remain  作者: 雲居瑞香
本編
36/66

episode:04-8









「実は、金髪碧眼の女性を探しているのですが……」


 さすがにブルターニュ女王を探している、とは言わなかった。まあ、言っていたらリリアンは「あなたボケているの?」とくらいは言っただろう。


「ブルターニュ人にもガリア人にも、金髪碧眼は結構いるわね」


 碧眼の定義がどんな色までを示すかは不明であるが、広義で見ればリリアンの淡い緑の瞳も碧眼に入るだろうか。まあしかし、碧眼は普通青い瞳を指すだろう。高貴な身分に見える金髪のリリアンに声をかけたが、目の色が緑でこの兵士、少し落胆したのではないだろうか。

 実際、リリアンとアーサーが並んでいると、リリアンの方が姫君に見えることがある。いや、実はこの二人、ものすごく遠いが親戚らしい。こじつければ、リリアンの方にもブルターニュ王族の血が入っているので不思議ではない……話なのかもしれない。

「ブルターニュの方ですか。パスポートを見せていただいても?」

「もちろん。見せたら、行かせてちょうだいね」

 リリアンは不遜な態度を崩さずに言った。彼女、こう言う演技が得意である。素かもしれないけど。

 兵士が全員のパスポートを確認する。当たり前だが、偽名で登録しているアーサーですら、ブルターニュの正規発行のパスポートである。パスポートに不審点は見つからなかったようである。

「……失礼ですが、荷物検査をさせていただけますか?」

「……早く行きたいのだけど。お仕事なのはわかるけれどね」

 一応の理解を示すふりをしながら、リリアンが荷物を差し出す。護身用に拳銃を持っている、と言うのはともかく、剣はどうするのか。今、アレックたちは三本の剣を所持している。最近ではあまり見なくなった武器だが、使うものが使えばある意味最強の武器である。リリアン以外の全員が緊張気味に荷物検査を眺めていた。


「……大丈夫ですね。失礼いたしました。ご旅行、楽しんでください」

「ありがとう。お勤め、頑張って」

「はい。いろいろ物騒ですので、お気をつけて」

「わかったわ」


 リリアンは荷物を引き取ると、そのまま改札に向かって行った。無事に改札を抜けたところで、リリアンがほっとした様子で息を吐いた。

「思ったより大変だった」

「お前、何をしたんだ。精神干渉魔法か?」

 あっさりと通し過ぎだと思ったのだ。精神干渉魔法の使い手である彼女なら、マインドコントロールを行っていても不思議ではない。

「ちょっと認識能力に働きかけただけ。そもそも、探している対象の顔すらあいまいだったもの。そちらはさほど難しくなかったんだけど……実際に存在する剣の認識を変えるのは難しかった」

 やはり、目から入ってくる情報は大きい、ということだろうか。何となく行き当たりばったりであるが、通過できたのでよしとする。


「っていうか、そもそもここってどのあたりなの?」


 駅前の公園のベンチに腰掛け、リリアンが地図を開く。その両側にアーサーとエイミーが座り、地図を覗き込んだ。先ほどの問いはエイミーが発したものである。


「このあたりね。まだヘルウェティアの手前だわ」


 リリアンが指さしたあたりを、立っているアレックとクライドもそろって四人で覗き込む。クライドが尋ねた。

「どうする? このままヘルウェティアまで行くか?」

「……いや? ドゥブレーに向かう」

 回答まで少し間があったが、リリアンはそう言った。アーサーが首をかしげる。

「ドゥブレーはガリアの観光地だろう? そんなところに行ってどうするんだ?」

「ここから一番近い観光地で、私たちは『研修旅行』に来たということを忘れたの?」

 そう言えばそう言う設定であった。すっかり忘れていたが。それらしいことをしようということか。

 ドゥブレーは帝国との国境に近くもないが、遠くもない。そして、この場所からドゥブレーへは一時間もあれば行ける。

「あの路線は使えないけど、別路線の汽車は動いてるよね。それに乗っていこうか」

 国際路線と国内路線は別の線路を使用しているので、ガリア国内の移動ならできるはずだ。リリアンの判断で、駅に戻り、ドゥブレー行きのチケットを買う。一般座席なので、席を確保する必要があった。一応、四人席を確保できたのだが。

「一人座れなくない?」

「まあ、普通に考えればな」

 エイミーとアレックがちらりとリリアンを見る。リリアンはこの手のなぞなぞ的な問題が苦手だった。頭が固いのである。


「では、俺が立っているので……」

「そんなことさせられない」

「いや、しかし」

「もういいだろう。ミアがクライドの膝に座りなよ」

「え……」


 リリアンの投げやりな提案にアーサーとクライドが赤くなって照れる。エイミーがじろりとリリアンを睨んだ。

「リリアン」

「……いや、すまない」

 疲れすぎて血迷ったのか冗談なのかわからないが、たぶん本気ではないと思う。たぶん。

 結局、女性陣が三人並んで座ることで落ち着いた。一応、二人ずつ向かい合って座る仕様ではあるが、三人で座っている人も結構多い。

 エイミーがおなかがすいた、と言い出したので、車内販売で飲み物と軽くサンドイッチなどを購入する。紙のコップに入ったホット・チョコレート(この国ではショコラ・ショー)を飲んでいたエイミーがアーサーを挟んで左手にいるリリアンに尋ねた。

「本当に観光するの?」

「まあ、一応研修旅行って名目だからね。有名な某教会くらいは見られるんじゃない?」

「へえ。楽しみ」

 やや棒読みではあったが、これくらいの演技はできるようになってきたエイミーである。おそらく、リリアンは今日明日中に国境を越えて帝国に入ってしまいたいのだろう。このままでは本当に国境線に警戒態勢が敷かれてしまう。


 一時間汽車に揺られ、目的地であるドゥブレーに到着した。そこでまずリリアンが行ったのは、ホテルを確保することである。普通は事前に予約を入れておくものだが、飛び込みでも空いていれば泊まれないことはない。交渉はリリアンだ。設定上、ガリア語を理解できるのは彼女だけだからだけど。

「二人部屋を二部屋。一つには簡易ベッドを入れてもらう」

 というのがリリアンの結論であった。まあ、それでよい。女性陣のなかの誰かが簡易ベッドになるのが申し訳ないが、そこは仕方がない。三人部屋が空いていなかったらしいので。そこそこグレードの高いホテルで、しかも飛び込みで料金が高い。そこにリリアンが色を付けただろうから、簡易ベッドを入れてくれたのだろう。

 たぶん、エイミーが簡易ベッドだろうなと思う。アーサーを簡易ベッドに寝かせるはずがないし、リリアンは身長が高いため簡易ベッドに収まりきらない可能性がある。


 だが、まあ、アーサーとリリアンの二人なら一つのベッドでくっついて寝る可能性があるけど。それよりも、戦闘力的に不安だ。どうしても、女性と男性に分かれると、女性側の戦闘力が下がってしまう。アーサーだけでなく、リリアンとエイミーも大丈夫だろうか。むしろ一つの部屋でもよかったが、さすがに五人部屋はないか……。

 こんこん、と窓がたたかれた。アレックとクライドは目を見合わせる。例え相手が暗殺者アサシンだったとしても、この二人なら何とかなる。アレックがカーテンを開けた。整った無表情が眼に入った。

「何してるんだ、お前!」

「いや、ちょっと外の空気を吸いたいと思ってな」

 ちなみに、今は夜だ。夕食もホテルのレストランでとったあとで、当然外も暗い。ついでにこの部屋は七階にある。同じフロアの部屋を取れなかったので、リリアンたち女性陣の部屋はちょうどこの上、八階になる。リリアンは上の階から暗闇の中、するりと降りてきた、ということになる。


「やあ」


 窓を開けてリリアンを引っ張り込んだアレックは、続いて現れた人物に目を見開いた。

「へい……っ!」

 叫ぼうとしたクライドの足に、リリアンが蹴りを入れた。彼女に続いて現れたのはアーサーだった。アレックはアーサーも引き入れ、リリアンを振り返る。

「なぜ連れてきた」

「何故と言われても困るんだが」

「私がついて行くと言ったのだ。あまりリリアンを責めてくれるな」

 アーサーが笑いながら言った。内戦時代にアーサーと共に戦ったものはその傾向が強いが、リリアンもアーサーに甘かった。まあ、二人の運動能力的には問題ないだろうけど。こちらの心情の問題だ。

「エイミーは?」

「留守番だ。すこし、作戦会議をしようと思ってな」

 リリアンが不敵に笑った。アーサーが彼女の隣でニコニコしている。何となく、この二人なら大丈夫と思わせてくれるからすごいと思う。










ここまでお読みいただき、ありがとうございます。


印象としてはアーサーがカリスマ、リリアンが参謀といったところでしょうか。


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